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-「はやぶさ2」が還ってきた-
Hayabusa2 Returns
2014年12月に打ち上げられてから6年、小惑星「リュウグウ」での数々のミッションを成功させ、「はやぶさ2」が一筋の光となって地球に還ってきた。 帰還の12時間ほど前に母船からカプセルを分離、その後エンジンに点火、軌道変更を行った。2010年の「はやぶさ」帰還の時には機体制御もままならない状態となり、母船本体もカプセルと一緒に地球に突入したが、「はやぶさ2」ではカプセルだけが地球に帰還した。 分離されたカプセルは12月6日02時29分ころ(日本時間)にオーストラリア上空で地球大気に突入、大気との衝突により急速に減速、その後パラシュートを開いてウーメラ砂漠に着陸した。
一方母船は、軌道制御により地球をかすめる“スイングバイ”軌道にのり、地球のエネルギーを使って減速を行い、新たな小惑星に向けた『拡張ミッション』がスタートした。
さあ、「はやぶさ2」の帰還を追ってみてみよう。(時刻はすべて日本時間で示す)
(2020年12月21日 更新)
12月3日
距離およそ100万km
地球影響圏(地球の重力の及ぶ範囲)に秒速約4.4kmで進入してくる。
12月5日
カプセル分離数時間前に姿勢を90度程度変更、カプセル分離姿勢に変更。
(カプセルは姿勢をコントロールする装置を持っていないが、空力安定の効果で前向きに安定する。)
14:30 高度約22万km
カプセルを秒速約20cmで分離 姿勢を安定させるため3秒に1回転のスピン
(「はやぶさ」では高度7万kmでカプセルが分離された。「はやぶさ2」では母船が地球への突入を避け正確なスイングバイを行うための軌道制御#5(TCM-5)が必要なため、地球との距離を十分にとる必要がある)
15:30-16:30 カプセルが十分離れたらTCM-5実施
これで地球大気突入を回避、スイングバイ軌道へ移行する
4基のRCS(Reaction Control System)を約30秒、3回の噴射を実施した
22時ころ 高度10万km*1
日本からも、北の空に近づきつつある「はやぶさ2」が捉えられた
12月6日
01:57 地球の影に入る*2
オーストラリア北部から方位角約150度で進入(南南東~南東に向かって)、地表面との角度は12度くらい
速度はおよそ毎秒12km
(「はやぶさ」では西オーストラリアから突入したが、「はやぶさ2」では軌道傾斜が大きく異なるため、北西からの突入となる)
(ここからは「はやぶさ」の帰還時の観測データを参考にした)
高度200kmで大気突入:まだ光らない
高度120km 02時29分 速度は秒速12km
高度100km付近で発光:カプセルが流れ星となって光り始める
(母船から大気圏に突入するカプセルの撮影を行った)
カプセルの表面温度が2500度以上(「はやぶさ」カプセルの観測結果より)に上昇する
高度50km:明るさがピークに達し、長さが20kmを超える尾を引く
(距離100kmから見た絶対光度は-4等=金星のあかるさ以上)
高度33km付近:速度が急速に落ち、光が消える。以降はダークフライトとなる。
02:32 高度約10kmでパラシュート開傘
02:54 カプセルからのビーコン電波が消えた
オーストラリア ウーメラ砂漠にカプセル落下
この時、母船は高度約290kmを秒速11.7kmで通過。地球スイングバイによって秒速3kmほど減速。「はやぶさ2」母船は、地球の公転方向の前方を横切るため“減速スイングバイ”となり、これまで地球と火星の間を回っていた軌道が地球の内側に入り、地球と金星の間を回ることになった。
こうして新たな軌道に投入された「はやぶさ2」は、拡張ミッションに入る。
拡張ミッションでは、約11年にわたり、地球スイングバイ、小惑星2001CC21フライバイを経て、2031年、大きさ約30mという小さな小惑星1998KY26にランデブー、また新たな小惑星探査が始まる。
引用元;
*1、2:倉敷科学センター 三島和久 さんより
*3:「はやぶさ」カプセル地球突入後の状況は下記より;
-J. Borovicka et al. (PASJ,2011,10)
Photographic and Radiometric Observations of the Hayabusa Re-entry
-S.Abe et al. (PASJ,2011.10)
Near-Ultraviolet and Visible Spectroscopy of HAYABUSA Spacecraft Re-entry
参照情報;
- 「はやぶさ初号機」の帰還:
「はやぶさ」最後の24時間 - 「はやぶさ」母船とカプセルの帰還映像:
「はやぶさ」おかえりー
はやぶさ2豆知識
- Q1なぜカプセルを回転させて分離するの?
- A1
回転(スピン)をかけることによってコマと同じように、回転軸方向に角運動量が大きくなり外からの力では軸方向が動きにくくなりカプセルの姿勢を安定させることができる。
- Q2地球に近づく「はやぶさ2」は日本から見えるの?
- A2
倉敷科学センターの三島さんの解析では、5日の日没以降、6日の1時過ぎまで北の空に見える、しかし光度は12~14等と暗く、肉眼では見えず、中型機以上の望遠鏡と撮影機材を必要とする。
- Q3どうして地球大気に突入したカプセルは流れ星のように光るの?
- A3
地球大気との衝突で、表面から揮発した物質や大気がカプセル前面でプラズマ状になり輝く。カプセルの速度が落ちてくるとプラズマとしての光は見えなくなり、カプセル表面が熱せられた2500度もの高温の物体が放つ放射(通常『黒体輻射』と呼ぶ)が見えてくる。これが赤く見えているのである。
- Q4スイングバイで減速とは?
- A4
探査機をスマートに飛ばすテクニック
どうして、スイングバイが必要?
2015年12月の「はやぶさ2」地球スイングバイでは、地球の公転方向後ろ側を通過、地球の公転速度(これは地球の運動エネルギーにあたる)をもらうように加速。今回は公転方向の前を横切る形で、逆にエネルギーを失う形になり、減速。地球と金星の間を回る軌道に変化する。 - Q5ダークフライトとは?
- A5
カプセルの速度が大気抵抗によって落ちてくると表面温度が急速に下がり、熱輻射が見えなくなる、そのことをダークフライトと呼ぶ。
執筆:小笠原 雅弘