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宇宙のサーモグラフィ『中間赤外カメラ』で小惑星リュウグウの生い立ちに迫る
「はやぶさ2」では、「はやぶさ」の基本設計に加えて新たにさまざまな機能が加わっています。そのひとつ、NECが設計を担当した『中間赤外カメラ(TIR)』は、小惑星の「温度」を捉えるカメラです。人の手で実際に触ってメンテナンスができない宇宙空間でも、摂氏マイナス40度からプラス150度まで、誤差0.3度で測ることができる精密さを誇ります。
熱中症の報道などで使われるサーモグラフィカメラは温度をわかりやすく示すために、暖かいところを赤く、冷たいところを青く表示します。それと同様に、「はやぶさ2」の研究チームは、世界で初めて小惑星リュウグウ全体の1日の温度変化をTIRで撮影し、色分けしたリュウグウの「温度変化マップ」を作りました。
この画像でリュウグウを構成している岩がたくさん穴の空いたスポンジのようなスカスカの状態であることを明らかにし、その成果は世界トップレベルの科学雑誌であるイギリスの「Nature」誌2020年3月17日号に掲載されました。
スポンジ状の岩は温まりやすく冷めやすいという性質を持ち、一方で、中身のぎゅっと詰まった岩は、温まりにくいけれども冷めるのもゆっくりです。この性質から、温度によって岩の「スカスカ度」がわかります。TIRが小惑星の1日の温度変化を測り続けたことで、リュウグウの岩は地球に落ちてきた隕石よりもずっと隙間の多い岩で覆われていることがわかりました。
これまで、リュウグウのような太陽系の歴史をとどめた小惑星を近くで詳しく観測する機会ほとんどなく、どのようにできたのかよくわかっていませんでした。今回の観測により、「宇宙塵」が集まってスカスカの岩でできたリュウグウの母天体になり、天体衝突によりバラバラになった母天体の破片が集まって現在のリュウグウになったという新たな小惑星形成の仮説が導き出されました。つまり、TIRは温度から小惑星の生い立ちを解き明かすカメラなのです。
取材・執筆:秋山 文野
2020年9月14日 公開