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未知の小惑星でも100%ミッション達成! はやぶさ2「サンプラホーン」のしくみ
小惑星探査機はやぶさ2の機体前面から伸びる黒い筒。これは、小惑星リュウグウ表面から石や砂のサンプルを採取する「サンプラホーン」です。相手がどんな小惑星であっても、ほんのわずかな時間でサンプルを容器に納めることができる頼もしい装置なのです。
サンプラホーンは、NECがシステムを開発し、住友重機械工業株式会社が詳細設計、製造を担当した装置です。機体が小惑星表面に降りてサンプラホーン先端が地表に触れると、「タッチダウンした」という信号が機体に送られます。すると、内側の「プロジェクタ」からレアメタル製の球状「プロジェクタイル」が発射され、地面を砕いて飛び散らせます。ふわりと舞い上がったかけらが、自然に回収容器へと入ってくる……というシンプルにして小惑星表面の状態を問わない仕組みになっています。
小惑星の砂を採取するというと、スコップなどですくい取る方式をまず考える方が多いのではないでしょうか。しかし、スコップ方式だと、表面が砂で覆われていないといけないし、小惑星の重力がとても小さいため、スコップごと探査機が浮き上がってしまうこともあるのです。また、機体が「脚」で着陸し、「手」にあたる器具で砂をすくい取るという複雑な動作が必要になってしまいます。そのため、例えば、NASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」は、アーム状のサンプル採取機構の先端から窒素ガスを吹き出し、舞い上がった砂をキャッチするという方式で小惑星の砂を採取しました。この場合も、小惑星に砂が多いことが前提になります。つまり、小惑星に到着するまで、細かい砂が多いのか、ゴツゴツの岩塊で覆われているのかといった表面の状態がわからない小惑星の場合、スコップ方式はあまり好まれないのです。
実際のリュウグウは、岩塊だらけで砂が少ない、着陸することが難しい世界でした。そんなリュウグウでもサンプラホーンならば、砂地でも岩の上でもプロジェクタイルを打ち込み、一瞬で砕かれ舞い上がった物質を確実に手に入れることができます。この方式は、未知の世界でどのようにサンプル採取を行うかという難題に、エンジニア達が見事に応えた結果だったのです。
実は、プロジェクタイルを発射する部分の「サンプラプロジェクタ」は、“双子”なのです。双子の兄は、はやぶさ2に搭載されましたが、双子の弟は、はやぶさ2の打ち上げから4年間地上で保管されていたのです。(※)“地上にいた弟”は、“宇宙の兄”が使われる約2か月前の2018年12月に宇宙を模擬した真空の環境で動作させられるかという実験に使われ、時間が経ってもプロジェクタが確実に機能し、ミッションを遂行できることを確かめる鍵となりました。
そして2019年2月と7月、はやぶさ2は小惑星リュウグウへのタッチダウンを行い、2回ともしっかりプロジェクタイルが発射されたことが確認されました。はやぶさ2の名前の由来となった猛禽類のハヤブサのように、サンプラホーンがあるからこそはやぶさ2は一瞬で小惑星のかけらを手に入れることができたのでした。
※JAXAによる2019年2月6日開催「小惑星探査機『はやぶさ2』記者説明会」にて、地上で保管されていたサンプラプロジェクタによるプロジェクタイル発射実験の詳細が公表されました。
執筆:秋山 文野
2020年11月20日 公開