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小惑星をまるごと測ったはやぶさ2の「LIDAR」。月や地上でも活躍するレーザ技術
小惑星探査機「はやぶさ2」が探査した小惑星リュウグウは炭のように真っ黒で、中央が膨らんだ特徴的な形の小惑星でした。形状を正確に知ることは、小惑星の成因や進化の歴史を解明するための基本的な情報となります。また、3D模型等立体で再現できるほどの正確性を誇り、歴史的快挙を成し遂げた「はやぶさ2」のタッチダウン着陸地点決定など探査機の運用のためにも必要不可欠な情報となりました。 小さいとはいえ、直径約900mもある複雑な形の小惑星を、どのように立体で再現したのでしょうか?
ここで活躍したのが LIDAR (ライダー:レーザ高度計)です。LIDARはレーザ光を小惑星の表面に当て、戻ってくる光を検知して距離を測定する機器です。3Dスキャナーのように連続して測ることで、小惑星の3Dモデルを作ることができるのです。小惑星全体を測るには、連続して正確に測りつづけられることが大切です。
この宇宙用LIDARのルーツは、2007年に打ち上げられた月周回衛星「かぐや」に搭載されたレーザ高度計です。NEC製のLIDARは、数多くのクレーターがあり、地球よりもはるかに複雑で起伏に富んでいる月面を正確に調査することができました。そこで得られた情報は、その後の月探査計画でも欠かせない情報になっています。
LIDARは、「はやぶさ2」が小惑星の周囲で「今どこを飛んでいるのか(軌道)」を確かめる目的でも活躍しました。基本的に、宇宙探査機の軌道は、地球から電波を送って調べるのですが、電波の場合は数百mものずれが発生してしまいます。そこで、LIDARのデータを使って、「『はやぶさ2』がここにいるならば、レーザ光はこの距離で小惑星から戻ってくるはず」と計算します。実際に光が戻ってきた距離と見込みの距離の差を元に、探査機の軌道のずれを修正することができるのです。
そのほかにも、LIDARはリュウグウの構成物質も明らかにしました。LIDARが発するレーザ光は、光のエネルギーが揃っていて、長い距離でも広がらずにまっすぐ進むという特徴を持っています。明るさの条件が常に一定なので、LIDARの光を小惑星の表面に当てると、岩が光を跳ね返す反射率を測ることができます。この反射率の違いから、複雑に混じり合った岩石の違いを調べることができ、どのような物質が合わさってリュウグウが構成されているのかがわかるのです。
2020年12月、地球へ帰還しカプセルを切り離してまた旅立ったはやぶさ2は、LIDARを使って地球とレーザ光をやりとりする技術の実験を行いました。地上の天文台から送られた光を、はやぶさ2が受け、送り返すことに成功しました。その距離はおよそ600万kmと地球-月の距離の15倍以上です。将来の宇宙探査では、道標のない宇宙で探査機のいるところをはるかに正確に知ることができるようになると期待されています。
LIDARの大きな特徴、「距離を測って対象物を3Dスキャン」「対象の反射率の違いを調べる」機能は、地上でも大活躍しています。大きな建物を3Dスキャンしたり、橋や道路などインフラの表面や反射の違いを調べることができます。データの変化を分析すると、「変電設備に壊れた箇所がある。鳥が巣を作ってしまった」「橋や崖の表面に歪みが発生した」といった変化までわかるのです。宇宙で活躍したLIDARは、地上でも安全な社会を実現するために役立っています。
執筆:秋山 文野
2021年2月24日 公開