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はやぶさ2がヒップアップ!? 精密な姿勢軌道制御系「AOCS」の働き
小惑星探査機はやぶさ2がどのように宇宙空間で姿勢を整えているかご存知でしょうか。
はやぶさ2を人の身体に見立ててご説明します。まず、目にあたる複数のセンサーを使って自分の姿勢を把握し小惑星リュウグウとの距離を測り、脳にあたるコンピュータにその情報を伝えます。そして、コンピュータから筋肉にあたるスラスタやホイールなどはやぶさ2を動かす機器に必要な動作を伝えてその姿勢を維持しています。このように、はやぶさ2の姿勢を保つのに必要な機器は「姿勢軌道制御系(AOCS)」と呼ばれ、センサーだけでも9種類もの機器が連携して働いています。
リュウグウに滞在する間、はやぶさ2は上空20kmの「ホームポジション」にいることになっていました。リュウグウの重力は地球の8万分の1ととても弱く、宙に浮いていることができます。しかし弱いとはいえ重力ですので、何もしなければ次第に小惑星に引き寄せられてしまいます。また、周りに機体を支えるものがない宇宙では、太陽の光もはやぶさ2の姿勢を乱す力として働いてしまいます。はやぶさ2はAOCSを駆使して太陽や星を頼りに常に姿勢を正していたのです。
こうした一連の運用に備えて、JAXAとNECのエンジニアは打ち上げ前から協力してその手順を計画し、訓練を重ねていました。それぞれ、小惑星の上空に待機する「ホームポジション維持」、小惑星の観測を行う「グローバルマッピング」、精密に位置を決めて着陸する「ピンポイントタッチダウン」など10通りものモードを決めて備えていたのです。
中でも難関の「ピンポイントタッチダウン」では、着陸の目印であるターゲットマーカをカメラで捉えながらスラスタを噴射してリュウグウ表面に近づき、機体を”ヒップアップ”させ、着陸してすぐ上昇……という一連の手順を、極めて正確に実施しなくてはなりません。リュウグウ表面が岩だらけで、機体を傷つけてしまう危険性があったため、エンジニアたちは、はやぶさ2がリュウグウの表面に平行に降りていった後、機体のイオンエンジン側を少し上げた姿勢をとることにしました。はやぶさ2に岩が当たらないように安全にするためのこの姿勢は、人でいう、お尻をあげている姿勢に見立て“ヒップアップ”と呼ばれています。岩が当たらないように、お尻をあげて着陸なんて洒落ていますよね。
エンジニアチームは、ミッションを成功させるため常にあらゆる状況を考え、打ち上げ前に計画されていた姿勢制御の運用計画に加えて、小惑星の現場でさらにきめ細かな安全策も追加しているのです。はやぶさ2のミッションの中でも難関であった2回のピンポイントタッチダウンは、AOCSチームの計画した通り、ヒップアップまでAOCSによる姿勢制御がきちんと働いたことで成功したのです。
取材・執筆:秋山 文野
2020年10月28日 公開