【セミナー】

東京2020パラリンピックとその先の共生社会の実現へ ──D&Iをパラリンピックから学ぶ

2019年11月7日に開催された「C&Cユーザーフォーラム & iEXPO2019」では、パラリンピックとD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)をテーマとしたセミナーが行われました。東京2020まで9カ月余りとなって日本中が盛り上がりを見せる中、この機運を「ポスト2020」にどうつなげるかが課題となっています。2020年以降のスポーツと共生社会の関係とはどうあるべきなのか──。それをパネラーや来場者とともに考えたいという思いからNECが企画したセミナーの模様を、パネラーによるメッセージの一部を交えながらご紹介します。

スポーツを通じた社会変革の可能性

最初に国際パラリンピック委員会(IPC)の理事であり、日本財団パラリンピックサポートセンター会長でもある山脇康氏が、パラリンピックへの取り組みを社会変革につなげる道筋について語りました。

国際パラリンピック委員会理事
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会副会長
日本財団パラリンピックサポートセンター会長
山脇 康氏

パラリンピック・ムーブメントは、単にスポーツのイベントを成功させるための取り組みではありません。スポーツを通して社会を変えていく運動です。スポーツを通じた社会変革には、3つの要素が必要とされます。「Attitude=人々の意識と社会認識」「Mobility/Accessibility=移動の自由/バリアフリー」、そして「Opportunity=機会均等」です。障がい者に対する人々の意識と社会認識を変革し、障がい者が自由に移動できる環境を整備し、そして障がい者のスポーツ・教育・雇用の機会を増やしてゆく──。そんな3つのプロセスによって社会変革を進めて、インクルーシブな社会を実現していくことを私たちは目指しています。

共生社会とは、ダイバーシティとインクルージョンが実現した社会であると言われます。ダイバーシティは日本語では「多様性」です。これはわかりやすい。では、インクルージョンはどうでしょう。日本語では「包摂」ですが、これはそれほどわかりやすい言葉ではありません。

文科省は、共生社会とは「誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会」であると言っています。ほかに調べてみると、インクルージョンを「一人ひとり異なる存在として受け入れられ 全体を構成する大切な一人としてその違いが活かされること」という説明もあります。パラリンピックサポートセンターでは、ダイバーシティ&インクルージョンが実現した社会を「一人ひとりが違いを認め合い 誰もがイキイキと活躍できる」社会とし、まず自らの組織での具現化を目指しています。

最もわかりやすいのは、人種多様性を提唱しているヴェルナ・マイヤーズの次のような説明かもしれません。「ダイバーシティとは、パーティに招待されること。インクルージョンとは、ダンスを踊ってくださいと誘われること」──。間違いなく言えることは、ダイバーシティとインクルージョンは一体のものであるということです。多様な人々を受け入れ 一人ひとりの違いと強みを生かした組織や社会。それこそがイノベーションを生み出すのです。

現在、社会貢献はあらゆる企業にとって必須の活動となっています。社会貢献イコールCSRであると考えられることが多いのですが、CSRの「R(Responsibility)」には、「責任」や「義務」という意味合いがあります。それよりもむしろ社会貢献活動を、積極的に社会とつながり、社会を改善していくための「機会」CSO(Opportunity)と捉える方が良いのではないかと考えています。この考えによる積極的な行動は、企業のブランド価値を向上させ、社員の士気も高まると思うからです。

パラリンピック・ムーブメントは、スポーツを通して社会を変えていく運動であると私は申し上げました。企業がパラリンピックに関わることは、積極的に社会に貢献し、社会を変革していく活動です。このことに加えて、もう一つ大きなニュースがあります。IPCは先日、国連とSDGs推進に関する協定を締結しました。SDGsをパラリンピック・ムーブメントの中で推進し、東京2020パラリンピックに向けてのキャンペーンも始めることになります。これからは、企業が東京2020大会の盛り上げや、パラリンピック・ムーブメントに参加することが、そのままSDGs達成のための貢献活動となります。SDGsを推進していきたいけれど、何に取り組めばいいかわからない──。そんな課題をもった企業には、パラスポーツの切り口でSDGs達成を目指していくことができるようになります。

パラリンピックムーブメントとSDGs のマトリックス(活動の例示)

SDGsのターゲットイヤーは2030年です。パラリンピック・ムーブメントはSDGs 17目標のうち11目標に貢献しますので、現在の東京2020大会に向けての活動やパラリンピック・ムーブメントへの参加を2020年以降も続けてゆくことが重要です。そしてパラスポーツを通じて共生社会をつくるというビジョンとアクションプランが、多くの企業にとってポスト2020のSDGs達成へのアクションプランにもなると私たちは考えています。

障がいのあるなしに関わらず多様な「選択肢」がある社会に

続いて、同じく日本財団パラリンピックサポートセンターの一員で、パラ・パワーリフティング選手でもある山本恵理氏が、日本財団パラリンピックサポートセンターの具体的な取り組みについて話をしました。

日本財団パラリンピックサポートセンター
山本恵理氏(パラ・パワーリフティング選手)

スポーツを通じた社会変革に必要とされる3つの要素は「Attitude」「Mobility/Accessibility」「Opportunity」であるという話が山脇からありました。一つ目の「Attitude」に関連する取り組みには、子どもたちに障がいに対する気づきを与える「あすチャレ!School」というパラスポーツ体験型出前授業があります。「あすチャレ!」とは、明日へのチャレンジという意味で、2016年から活動を続けています。全国の小中高校にアスリートが出向いて、車いすバスケットボール、ゴールボール、陸上競技といったパラスポーツの体験とアスリートに講話から構成されるプログラムで、他者のことを自分ごととして捉える心、可能性に挑戦する勇気、夢や目標を持つ力、そして何よりも「障がいとは何か」ということを身をもって知ってもらうことを目標にしています。これまで11万人の子どもたちがこの授業を体験しました。

一方、大人にも意識を変えてもらいたいと始めたのが、「あすチャレ!運動会」です。障がいのあるなしに関わらず、誰でも参加できるのがこの運動会で、これまで全国240の企業、自治体、団体で実施しています。

さて、二つ目の「Mobility/Accessibility」の取り組みとして代表的なものは、2018年に「日本財団パラアリーナ」をオープンさせたことです。これはパラスポーツ専用体育館で、館内にはさまざまな移動の工夫が施されています。日本財団パラアリーナ建設には、一般の体育館をパラスポーツで利用することが難しいという背景があります。車いすによって床に傷がつくといった理由からです。でも、日本財団パラアリーナでは床に傷がつくというケースはほとんどありません。この施設を多くの人に見ていただくことによって、一般体育館がパラスポーツに開放されるようになればいいと私たちは考えています。

三つめの「Opportunity」に関連する取り組みは、日本財団パラリンピックサポートセンターが開発に携わった国際パラリンピック委員会公認教材『I'mPOSSIBLE(アイムポッシブル)』日本版の配布です。この教材は、子どもたちに学校の現場でダイバーシティ&インクルージョンの考え方やパラリンピックの理念に触れる機会を提供するもので、全国の小中高約36,000校に教材を配布しています。もう一つ、健常者と障がい者がともにスポーツを楽しめる「パラ駅伝」「ParaFes」「パラスポーツパーク」といったイベントも、「Opportunity」を増やす活動の一つです。これは、4年間でのべ116,000人に参加いただいてます。

最後に、全てのプログラムの要素に関わっている、多様な考え方(ダイバーシティ)を学べるセミナーとして、NEC様にご協賛いただいております、「あすチャレ!Academy」を実施しています。本日、セミナー内でお話したダイバーシティとは何か、インクルージョンとは何かを体験と感覚を持って、学べます。現在は、小学校、中学校向けにも展開している「あすチャレ!ジュニアアカデミー」も実施しております。

障がいのあるなしに関わらず、お互いがコミュニケーションをとり、選択肢のある社会になるといいなと考えています。そんな機会を、プログラムを通じて私たち日本財団パラリンピックサポートセンターは提供しています。

ポスト2020を視野に入れた取り組みを

セミナーの最後には、NEC東京オリンピック・パラリンピック推進本部の山本啓一朗を加えた3人でのトークセッションが行われました。

NEC 東京オリンピック・パラリンピック推進本部
集まろうぜ。グループ 部長
山本 啓一朗

山本(啓) NECは、車いすテニスへの支援を1992年から始めるなど、約30年近く前から経済界・オールジャパンの一員としてパラスポーツをサポートし、普及、発展に努めて参りました。2015年には「東京2020ゴールドパートナー」となり、本日のセミナーもこれまでNECが推進してきた活動の一環として企画したものです。

ダイバーシティとは多様な人たちが「集まる」「居る」ということであり、インクルージョンとは“多様なすべての人が「やる」「発信する」「演じる」側の立場に立てることである。”そんなふうに表現できるのではないかと私は考えています。ダイバーシティだけでなくインクルージョンが実現した未来/社会と、東京2020パラリンピックに向けて盛り上がっている現在。その間の距離感をどう感じているか、お二人に伺いたいと思います。

山脇 東京2020に向けて機運が高まっていること自体はたいへん喜ばしいことであり、海外からも日本は東京2020の成功に向けて一生懸命努力していると評価されています。まずは、この盛り上がりを2020年8月に向けていっそう高めていくことが大事だと思います。

山本(恵) 私もアスリートとして盛り上がっていることを嬉しく感じます。しかし、一人の障がい者に戻ったときには、「まだまだインクルージョンされていない」と感じることも少なくありません。例えば駅でスマートフォンを見ながら歩いていて、車いすの私に気づかないという方が多いのが実情です。その一方では、「お手伝いしましょうか」と言ってくださる方もいます。日本はインクルージョン社会に向けた過渡期にあると言えるかもしれません。

山本(啓) 「ポスト2020」に向けて必要とされる取り組みについて、お考えをお聞かせください。

山脇 SDGs達成のために、「人権」や「環境」といったテーマでの取り組みを進めている企業はたくさんあります。一方、「スポーツ」とSDGsを結びつけている例はまだほとんどないと思います。東京2020の盛り上がりを梃子として、スポーツへの取り組みを通じて社会を変えていくという意識を根づかせていきたいですね。

山本(恵) 私は、ぜひ特定のパラアスリートのファンになってほしいと思うんです。イベントを応援するだけでなく、好きな競技者を見つけて、その人を応援してほしい。そして、東京2020大会が終わった後も、継続的に応援を続けてほしい。そんなふうに思います。そうすれば、パラスポーツをもっと社会に根づかせていくことができるはずです。

山本(啓) NECは、「世界の人々が相互に理解を深め、人間性を十分に発揮する豊かな社会の実現に貢献します」という企業理念を掲げています。D&I社会の実現を目指すことは、まさにこの理念に合致します。そのための活動を東京2020以降も継続していきたいと考えています。今日のセミナーで、スポーツを通じてその活動に取り組む意義や方向性が少し見えてきたのではないでしょうか。まずは東京2020に向けて、さらにポスト東京2020に向けて、D&I社会/共生社会を実現させるための取り組みをともに続けていきましょう。