【セミナー・パネルディスカッション】

2020年を機に、ハードとソフト両面のレガシーを未来へ

渋谷区が目指す未来への街づくりにおいて、東京2020パラリンピックは大きな節目となります。そこで渋谷区長をお招きし、パラリンピックを通じた多様性の尊重や障がい者にやさしい街づくりをテーマにしたセミナーを開催するとともに、パラリンピアン上原大祐と渋谷の未来像について、ディスカッションを行いました。

【セミナー】
2020年以降、渋谷区に残したいレガシー

『ちがいを ちからに 変える街。渋谷区』という基本構想をもとに

渋谷区長 長谷部 健 氏

渋谷区は、代々木公園・明治神宮を中心とした広範囲なエリアに、約23万人の区民が暮らしています。区内には、住宅街や下町、繁華街などがあり、それぞれが多彩な表情や個性を持っています。こうしたさまざまな街・人々の声やアイデアをいただきながら、渋谷区にふさわしいレガシーを残していきたいと考えています。

現在、渋谷区では『ちがいを ちからに 変える街。』という基本構想を掲げています。基本構想は地方自治体にとって最上位に位置づけられる概念で、すべての政策がこの構想にもとづいて進められます。基本構想は、互いの個性や違いを認め合う「ダイバーシティ」、それぞれの意見を受け入れて全体の力に変える「インクルージョン」という考え方を大切にして、それまでの基本構想から、より渋谷区らしいエッジの効いた、わかりやすいフレーズのものへ改定しました。渋谷区では、この基本構想のもとに7つのカテゴリーを設け、未来への街づくりを進めています。

施設の充実と意識の変革。2つのレガシーを2020年以降へ

7つのカテゴリーの中には、「思わず身体を動かしたくなる街へ。」という健康・スポーツへの構想があります。これは、渋谷区全体を「15㎢の運動場」と捉え、誰もがスポーツを日常的に楽しみながら、健康を維持していける街を目指すというものです。現在、宮下公園の改修を行っていて、2020年4月にはリニューアルオープンします。地上3階建ての渋谷区最大の商業施設となり、屋上は公園として開放されます。公園内には、フットサル、スケートボード、ビーチサッカー、パラリンピックスポーツなどが行えるスポーツエリアを設ける予定で、こうした施設を新たなレガシーとして残していきたいと考えています。

ハード面でのレガシーに加え、ソフト面のレガシーとして注目しているのがパラリンピックです。パラリンピックは、福祉やパラリンピックスポーツに関してみんなの意識が変わる大きなチャンスです。東京2020大会では、渋谷区にある国立代々木競技場と東京体育館がパラリンピックの競技会場となり、バドミントン、ウィルチェアラグビー、卓球などの競技が行われます。パラリンピックを通じてパラリンピックスポーツを実際に観たり、触れたりすることで変わる人々の意識も、大切なレガシーとして残していきたいと考えています。

障がい者の方が楽しみやすい街。そんな街を目指す渋谷区では、障がい者をはじめ、さまざまな人に対する意識のバリアを超えることを目的とした「超福祉展」という取り組みを行っています。健常者と障がい者のつながりや交流を深めることで、これまでの福祉の概念を超えていこうという思いから、2014年より取り組みをスタートさせ、今年で5回目を迎えました。

みんなといっしょに、渋谷区の未来をカタチに

現在開発中の渋谷駅東口は、完成後に大きな広場ができます。この広場をパラリンピックスポーツのメモリアルな場所にできたら。私にはいま、そんな思いがあります。パラリンピックのメダリストが集結する場所を作って、それをレガシーとして残したらどうかなど、私の中でイメージを膨らませています。

渋谷区の未来を作っていくためには、みなさんの声やアイデアが大きな力になります。また、ICTなどの先進技術も新たな街づくりに欠かせません。これからも区民やさまざまなパートナーと協力して、『ちがいを ちからに 変える街。渋谷区』をカタチにしていきたいと思います。

【ディスカッション】
障がい者にとっても、クールでおしゃれな街へ

ゴミ拾いで、街をもっと深く知る。街をもっと好きになる

まず初めに、上原さんと渋谷区のつながりについて教えてください。

NEC 東京オリンピック・パラリンピック推進本部
障がい攻略エキスパート 上原 大祐

上原氏:私と渋谷区のつながりは、ハロウィンですね。ハロウィンの季節になると私は、いろいろな仮装をして、障がいを持っている100人位の仲間たちと渋谷を練り歩くという活動を、毎年行っています。パラリンピックスポーツ普及の一環として行っている活動ですが、先ほど長谷部区長のお話にもあったように、障がい者が街に出ることで街づくりが変わったり、ダイバーシティの推進にもつながっていくと思います。

長谷部氏:ハロウィンといえば、渋谷に集まった若者の過剰な行動がテレビのニュースなどで報道されていますが、一方で人々が去った後の渋谷の街を、ゴミ拾いできれいにしてくれるボランティアの若者たちもいます。私は、以前からゴミ拾いという清掃活動に関わってきました。ゴミ拾いに参加している人たちからは、きれいになった街には愛着が生まれ、ホームタウンのような意識が湧いてくるという声が聞かれます。ゴミ拾いをしながら街を歩くことは、その街をより好きになる、より深く知る。そんな効果も生まれるのです。

上原氏:実は、私も車いすに乗ってゴミ拾いの活動をやっています。下を向いて実際にゴミを拾うことで段差に気づくなど、リアルな発見があります。こうした小さな発見の積み重ねが、多様性を認めた街づくりや障がい者へのきめ細かなサポートに役立っていくと思います。例えば渋谷の街を普通に歩いている人が障がい者に、エレベーターのある場所への行き方を気軽に声掛けしてくれる。こんな気遣いは、街を知っているからこそできることです。こうした障がい者に対するさりげないサポートが増えていったら、すごくうれしいですね。

長谷部氏:障がい者の方たちへの細かなサポートについては、エレベーターやトイレの場所表示、段差のないルート検索が行える地図アプリやコンテンツサイトの開発など、今後のICT活用に期待できることも多いと思います。大切なのは、ハード面やソフト面、人、ICT活用など、さまざまな視点からバランスの取れたサポートによって、シナジー効果を高めていくことだと感じています。

さまざま人が交じり合い、調和する街へ

2020年に向けて、渋谷区の取り組みを教えてください。

長谷部氏:「賑わいと安全・安心の両立した街」への取り組みを進めていきます。2017年からは、渋谷区で行われるパラリンピック競技についてたくさんの人に知ってもらう機会を増やすために、ウィルチェアラグビーやバドミントンなどパラリンピックスポーツの大会や体験イベントを開催しています。パラリンピックスポーツを行う場所がまだまだ足りないという現状がある中で、パラリンピックスポーツに対する体育施設の利用拡大など、行政としてできることにもさらに力を注いでいきます。

上原氏:パラリンピックスポーツを楽しむ場所が足りないというのは、本当に差し迫った課題です。
渋谷区がウィルチェアラグビーのために体育館の利用を認めたら、2つの変化が生まれたと言われています。1つは、多くの人が体育館を訪れて、ウィルチェアラグビーを知る人が増えたこと。そして2つ目は、車いすで行うウィルチェアラグビーは体育館の床が汚れるといった誤解が解消したこと。こうした変化がもっと全国に広がって欲しいと期待しています。

最後に、2020年以降に向けた渋谷区の展望について聞かせてください。

長谷部氏:2020年は街づくりのゴールではなく、20年・30年先を見つめた新たなスタートだと認識しています。私たちが目指しているのは、いろいろな人たちが交じり合い、調和する街です。今後も、多くの人たちの協力や小さな努力を積み重ねながら、新しい街づくりやパラリンピックスポーツ普及に向けたさまざまな取り組みを進めていきます。障がい者の方が買い物やスポーツを気軽に楽しむシーンが、渋谷の街に自然に溶け込んでいる。そんなクールでおしゃれな街の姿を、渋谷区自身がメディアとなって全国や世界に発信していきたいと意欲を燃やしています。

長谷部 健 氏

渋谷区長。東京都渋谷区神宮前生まれ。大学卒業後、博報堂に入社。2003年清掃活動等を行う特定非営利活動法人グリーンバードを設立し、理事長に就任。同年4月、渋谷区議会議員選挙に出馬して初当選し、2015年まで3期12年間、渋谷区議を務めた。2015年渋谷区議を辞職し、渋谷区長選挙へ出馬して当選。渋谷区長就任の挨拶で「多様性を尊重し認め合うダイバーシティがキーワードです」と述べ、就任後に渋谷区基本構想等審議会を設置。2016年11月、従来の基本構想『創意あふれる生活文化都市 渋谷-自然と文化とやすらぎのまち-』から『ちがいを ちからに 変える街。渋谷区』へ改定。現在、渋谷区長として『成熟した国際都市』の実現を推進する。

上原 大祐

パラアイスホッケープレーヤー。バンクーバー2010パラリンピック銀メダリスト。2006年、トリノ2006パラリンピックの日本代表として出場して日本人選手最多のゴールを決め、世界ランキング4位の成績を収める。2010年、バンクーバー2010パラリンピックでは、準決勝のカナダ戦で決勝ゴールを決め、銀メダル獲得に貢献。2014年にIPCが発表した「アイススレッジホッケー競技の歴史におけるトップ10プレーヤー」に選ばれる。引退後はNPO法人D-SHiPS32を立ち上げ、子どもたちにスポーツする環境づくりの活動を行っている。2016年10月よりNEC東京オリンピック・パラリンピック推進本部 障がい攻略エキスパートとして所属。