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岡田 佳澄さん

キーパーソンインタビュー公益財団法人身体教育医学研究所指導員・総務主任

都道府県民パラスポーツ大会企画発案者の上原大祐は、記念すべき第1回大会の開催地として長野県を選んだ。そこには、とても重要な意味がある。
「そもそも、都道府県民パラスポーツ大会を開催したいと思ったのは、2018年3月に開催されたソチパラリンピック直前の出来事がきっかけでした。私はパラアイスホッケーの日本代表選手としてソチ大会出場が決まっており、大会直前に長野県内にあるアイスリンクで最終調整をしたいと思っていたのです。ところが、アイスリンク側から“車いす(スレッジというパラアイスホッケーで使用するソリ)にはリンクは貸せない”と、断られてしまったんです。」
1998年、長野オリンピック・パラリンピックが開催された長野県。2018年といえば、長野パラリンピックが終了してすでに20年が経っている。2013年には東京オリンピック・パラリンピック開催が決定し、パラスポーツに対する理解は日本各地で広まりつつあった。ところが、実際にはパラリンピックが開催された長野県にそのレガシーが残されていないという事実に上原は驚きを隠せなかったという。
「日本で初めて冬季パラリンピックが開催された長野県で、もう一度パラスポーツを盛り上げたい。選手育成だけでなく支える人を増やすこともにも力を入れたい。そして何よりパラスポーツの魅力そのものを知ってほしい」
こうして、上原は、長野県民パラスポーツ大会の実現に向けて走り出したのだった。

長野県民パラスポーツ大会開催にあたり、東御市にある公益財団法人 身体教育医学研究所に協力を依頼した。研究所では、健常者と障がい者が一緒に参加できるボッチャ大会を定期的に行うなど、パラスポーツを通じて健康づくり活動を推進している。岡田 佳澄さんは、障がい者スポーツ指導員やボッチャ審判員の資格を有し、研究所の中でもパラスポーツ推進活動に積極的に携わる。キーパーソンに聞くシリーズ3回目は、岡田さんにお話を伺った。

誰もが楽しめるボッチャに着目

――スポーツと健康をテーマに活動されていますが、パラスポーツに携わるようになったきっかけを教えてください。

岡田 佳澄(以下、岡田)●2009年に障がいのあるお子さんをお持ちのご家族から相談を受けたのがきっかけです。何かスポーツをさせてあげたいけれど、どこでどんなことができるか、という相談でした。

――実際に、どのようなスポーツを紹介されたのでしょうか。

岡田●研究所の事務所があるケアポートみまき温泉アクティブセンターには、屋内プール施設があります。ここなら通年で水泳が楽しめるのではないかと紹介しました。当時は、障がい者のことも、障がい者が楽しめるスポーツのことも、私自身、きちんと理解できていませんでした。この経験をきっかけに勉強しながらできることから着手しようと、本格的に取り組み始めたのです。その過程で障がいのある人がスポーツに親しめる環境や機会が少ないことに気づき、2013年に『みんなの健康xスポーツ実行委員会』が設立しました。

――パラスポーツが、実行委員会設立のきっかけになったのですね。

岡田●はい。その活動を進める中で注目したのが、パラリンピック競技でもあるボッチャです。2015年には、「とうみユニバーサルスポーツクラブ」を作り、月1回ボッチャを中心とした「わくわくスポーツ」というプログラムを実施しています。クラブには、障がいのある人が全体の半数で、ご家族や支援者など計77名が参加しています。

――そのような基盤がある中、2019年3月に第1回長野県民パラスポーツ大会が開催されました。

岡田●大会発起人である上原さんには、以前から実行委員会の活動にも尽力いただいていていました。「障がいのある人もない人も、一緒に体を動かすことで交流が生まれ、楽しく過ごせる機会を作っていこう」という理念に触れ、ぜひ、一緒にやらせてほしいと思ったのです。

――大会開催にあたって、目指したゴールはどんなものでしたか。

岡田●やはり、障がいのある人だけのものではなく、様々な人が参加することです。また、1回だけのイベントで終わるのではなく、その後に続くきっかけづくりになるようにしたいと思っていました。

――開催に向けて工夫されたのは、どんなことでしょうか。

岡田●誰もが、このイベントの主役は自分だと思えることですね。応援する人やボランティアとして大会を支えてくれる人も、当事者として楽しめることが大事だと思っています。開会式でもゲームの参加者だけでなく、応援にきた人も一緒に並んでもらって、全員に“参加している”という感覚を持ってもらえるようにしました。

支える人にとっても楽しい大会に

――とうみユニバーサルスポーツクラブでも、障がいのある人とない人が一緒にスポーツを楽しむ活動をされていますよね。

岡田●都道府県民パラスポーツ大会と同様に、障がい者だけでなく、例えば、小さいお子さんから高齢者まで一緒にボッチャを楽しみます。そこは、まさに都道府県民パラスポーツ大会と共通している部分ですね。障がい者だけを対象にしていると、活動の幅がなかなか広がっていかないということを、活動を通じて実感してきましたから。健常者にも、いろんな年齢の人にも、参加してもらえることを大事にしています。

――活動を進める中で、難しさはどんなことにありますか。

岡田●小さいエリアでは、隣近所は知り合いですが、それでも障がいのある人との接点、交流機会は、本当に少ない。どうしても障がい者だけで活動することが多いんです。だからこそ、障がいのある、なし、年齢や性別などを分けずに一緒にスポーツを楽しむ機会がすごく求められていると感じています。

――これまでに3回、長野県民パラスポーツ大会が開催されてきましたが、どんな手応えを感じていらっしゃいますか。

岡田●1回目はボッチャ、2回目は車いすバスケットボールも取り入れましたが、どちらも障がいのある人と、ない人がチームメイトになったり、ライバルになったりして楽しんでいます。敵味方として勝負に一喜一憂できることは、スポーツ本来の姿。そこは、本当にこの大会の意義、手応えだと思います。

――反対に、3度の大会を通じて見えてきた改善点はどのようなことでしょうか。

岡田●イベントに1度参加しただけで終わってしまう、ということにならないようにしたい。それぞれ自分の住む地域や所属する勤務先などに体験を持ち帰って、広めてほしいなと思っています。そのためにも重要になるのが、“人づくり”。とくにスポーツを支える人材の育成を重点的に進めたいと思いますね。障がいのある人がスポーツを続けていくためには、指導者や支援者の存在が欠かせません。障がいやパラスポーツを学ぶ場も作っていく必要があります。パラスポーツ大会に参加して「面白い!」と思ってくれた人たちが、その先にパラスポーツを“支える”人へと発展してくれたらい嬉しいですね。

――そのためにも、パラスポーツ大会の魅力発信は重要ですね。

岡田●支える人にとっても、参加するイベントそのものが面白いと思わなければ、継続していきません。以前、上原さんにダブルダッチのデモンストレーションをしていただいたことがあるのですが、その時にもすごく盛り上がった。人づくりのためにも、パラスポーツの魅力をきちんと伝えることはとても大切で、そこにも力を入れていきたいです。

健康づくりにつながるパラスポーツ

――パラスポーツは、障がいのある、なしに関係なく、健康づくりという意味でも大きな効果があると思われますか。

岡田●学校の体育とかハードなスポーツは苦手、という人もいますよね。スポーツは辛くて、厳しいものだと(笑)。そもそも、スポーツの語源には「気晴らし」という意味が含まれています。体を動かすことは、健康づくりという意味でも、心の健康という意味でもとても効果があります。
中でもパラスポーツは、それこそ障がいがあってもなくても、年齢などにも関係なく、さまざまな人にとって負荷が少なく取り組みやすいことが特徴です。高齢者施設でボッチャを体験してもらう活動もしていますが、みなさん、頬を上気させてイキイキとゲームを楽しんでいますよ。椅子に座ったままでもできますし、15分ほどプレーすると血行が良くなって、気持ちも変わるようです。
また、パラスポーツは参加する人によってルールをアレンジすることもできる。そこも、取り組みやすさの理由です。パラスポーツを楽しんで続けることは、心身の健康を促進していくと実感しています。

――まもなく東京パラリンピックが開幕しますが、とくに注目している競技や選手はいらっしゃいますか。

岡田●やっぱり、ボッチャです! 2013年に開催したわくわくスポーツ体験会の講師として、その後2016年リオパラリンピックで銀メダルを獲得された杉村英孝選手に来ていただきました。東京パラリンピックでは、ボッチャ火の玉ジャパンのキャプテンとして出場される杉村選手の活躍を楽しみにしています。

都道府県民パラスポーツ大会運営で、上原が心がけているのは、協力者の広がりだ。
「使用を断られたアイスリンクのケースでも、行政や自治体が理解して動き始めるとスムーズに解決することは多いです。あるいは、特別支援学校の子どもたちが“将来パラリンピックを目指したい”と話しても、先生がパラスポーツの面白さを知らないことで、子どもの夢をパラリンピックと切り離して考えてしまうこともある。だからこそ、さまざまな立場の人を巻き込みたいと思っています。」
現場の理解が進むことで、パラスポーツを支援する人の輪が広がっていく。都道府県民パラスポーツ大会を、そのきっかけにしていきたいと、上原は語る。長野県民パラスポーツ大会の第2回では、地元物産を販売するブースを設置して生産者や販売者など、普段は直接パラスポーツとは縁のない人も参加した。
岡田さんも、パラスポーツの魅力を伝えるには「まずは知ってもらうことが、第一歩」と語る。岡田さんが携わる「みんなの健康xスポーツ実行委員会」では、障がい者の団体関係者や行政のスポーツ担当者、福祉担当者、医療機関など、さまざまな立場の人が集い、意見交換を重ねて事業を進めているのだという。
「縦割りになりがちな関係各所に横串を通す。そこを強みにして、今後も長野県民パラスポーツ大会をはじめとする事業を展開していきたいと思っています」
上原の理念に、岡田さんの思いがリンクした。

シリーズ第4回は、2021年に2度開催された岡山県民パラスポーツ大会で、地元経済人として貢献された岡山トヨタ代表取締役社長・梶谷俊介さんです。

岡田 佳澄(おかだ・かすみ)

1976年、長野県生まれ。玉川大学教育学部卒業後、2009年より公益財団法人『身体教育医学研究所』の指導員として活動。現在、健康運動指導、みんなのスポーツ支援のほか、総務主任として法人総務・財務業務に携わる。また、東御市社会教育委員、障がい者スポーツ指導員、JBoA公認ボッチャ審判員としても活躍。「みんなの健康xスポーツ実行委員会」を立ち上げ、ボッチャを中心に体験交流型スポーツイベント、講演会などの事業を展開する。

すべての人が参加でき、楽しさを共有できる 都道府県民パラスポーツ大会