ページの先頭です。
サイト内の現在位置を表示しています。
  1. ホーム
  2. 企業情報
  3. NEC技報
  4. 発行年別インデックス(バックナンバー)
  5. Vol.70(2017年)
  6. No.1(9月) デジタルビジネスを支えるIoT特集
  7. エッジコンピューティングのソリューション事例
ここから本文です。

エッジコンピューティングのソリューション事例

エッジコンピューティングの目的は、リアル(現場)でのIT資源を極小化しながらも、AIやビッグデータ処理など、クラウドコンピューティングのメリットを提供することも目的の一つです。本稿では、NECのエッジコンピューティングにおけるソリューション事例を5つ取り上げます。例えば、ウォークスルー顔認証装置と人物行動分析サービスは、エッジ層での顔認証などの画像処理を行い、警報などのアクチュエーションやクラウドと連携した行動分析を行う事例です。また、ビーコンを活用した事例、温度センサーをエッジで収集して可視化するケース、更に、嗅覚IoTセンサーソリューション実現に向けての取り組みについて、紹介します。

1. はじめに

エッジコンピューティングでは、現場に設置されたエッジ層でのセンサーデータの収集だけでなく、加工や分析も行うことで、クラウドに送信するデータ量の最適化や、現場のリアルタイム性を確保することが可能となります。また、クラウドの処理集中を避けることで、クラウド層のITリソースの最適化や、可用性向上を図ることができます。

本稿では、NECのエッジコンピューティングにおけるソリューション事例を挙げ、現場でエッジが担う役割や提供している機能を具体的に紹介します。

2. 顔認証を活用したソリューション

2.1 ウォークスルー顔認証装置

NECでは、顔認証精度世界No.1技術を保有しており、「NeoFace」などの商品を展開しています。これからも広がりを見せる顔認証を活用したビジネスに対応するために、入退場ゲートやドアコントローラとの連携を目的としたテーマソリューション製品として、ウォークスルー顔認証装置の開発を進めています。

一般的なセキュリティゲートでは、ICカードを利用した個人認証を行っていますが、ICカードの紛失や貸し借りにより、容易にセキュリティレベルが低下します。このため、個人に紐付く生体情報による認証が求められますが、指紋、静脈などの生体情報を得るためには専用装置が必要であり、認証時においても読み取り装置に対する認証アクションが必要となってしまいます。

これに対して、顔認証では、容易に入手可能な撮影画像から生体情報を得ることが可能で、認証時も設置しているカメラで顔を捕捉できればよいため、特別なアクションが必要なく、歩き抜く(ウォークスルー)ことだけで完了します。

ウォークスルー顔認証を行うためには、(1)どこを通過した時点で認証対象を捕捉し、(2)歩き抜ける短い時間のなかで認証処理を完了し、(3)適切な対処を行うことが必要となります。これらは、「事前エンロール処理」と呼ぶ新たな顔認証技法を考案し実現しています(図1)。事前エンロール処理とは、認証対象が設定エリアに入ってから認証を行うまでに撮りためた撮影画像を使用して認証を実施する方法で、自然な動きのなかからでも高い認証精度が期待でき、また、認証に掛かる負荷を分散することが可能となり、低コスト化に貢献します。

図1 事前エンロール処理の概要

今回、この処理技法を組み込んだ体験デモ機をリテールテックJAPAN 2017に出展し、4日間で1,400人以上の方にウォークスルー顔認証を体験いただき、好評を得ることができました(写真)。

写真 リテールテックJAPAN 2017でのデモ

このウォークスルー顔認証装置については、2017年度中の出荷を予定しています。

また、本装置を顔認証クラウドサービスのエッジとして対応させる計画も予定しており、お客様のニーズに合わせた幅広い用途に活用いただくことが、可能となります。

今後、個人情報の保護など、法規制やプライバシーの問題に対応しながらもお客様の利便性向上を目指した幅広い用途の顔認証ソリューションの開発を進めています。

3. 画像解析技術を活用した人物行動分析サービス

従来、小売店舗で来店者の購買行動を取得するためには、POSデータの購入実績や目視による情報収集の手段しかありませんでした。そのため、来店者が購買に至るまでの行動や何も買わずに帰られた非購買者行動の分析が、店舗マーケティング担当者の課題でした。そこで、カメラ映像から、人物を検出、追跡して動線を抽出する画像解析技術を活用して、店舗に設置したカメラ映像から来店者の店舗内での購買行動の可視化を実現しました。

まず、店舗に設置したカメラ映像を、店舗内に設置するコンピュータ(エッジ)に取り込みます。コンピュータ上に搭載する解析エンジンが、カメラ映像から動体領域の認識と頭部領域のマッチングを行い、人物をカメラ映像から抽出、更に、人物の動きの予測を行って追跡しています。なお、解析エンジンは、コンピュータの一時メモリ(RAM)上でこれらの処理を行い、取り込んだカメラ映像や解析エンジンが途中作成するデータはその場で破棄して、抽出した人物の座標データのみを保存しています。そのため、個人を特定するデータが残らないことが、特徴です。

また、作成した人物の座標データは、カメラごとにクラウド上に集約し、クラウド上で複数カメラ間の座標データの連結を行い、人物動線としています。更に、それらをまとめて、「店舗内の人物の滞留状況を表すヒートマップ」「時間帯別店舗内通路の通過人数」「店舗内の棚前通過時間の割合を表すコンバージョン」という形で、分析結果を提示します。これらの情報はクラウド上にあるため、店舗のマーケティング担当者は、オフィスや外出先など場所を選ばず、Web経由で店舗の来店者の行動を把握することができるようになります。

更に、性別・年齢層自動推定システムFieldAnalystとも連携し、店舗に設置したカメラ映像から「来店者の来店人数、時間帯別性別・年齢」を抽出した結果もクラウド上に集約し、閲覧できます(図2)。

図2 人物行動分析サービス全体像

これらの情報により、店舗のマーケティング担当者は、来店者の行動を継続的、定量的に分析することができるようになり、データに基づいた店舗レイアウトなどの施策立案や施策実施効果の検証などが、実施しやすくなります。また、別に取得されるPOSデータの購買実績と併せて分析すれば、来店者の購買行動だけでなく非購買行動などの分析にも活用できます。

本システムでの分析画面の一例を、図3に示します。

図3 分析結果の例: コンバージョン分析

4. NECモバイルバックエンド基盤活用

クラウドとスマートデバイスの業務利用が拡大していくなかで、現在のICTは「クラウドファースト」「モバイルファースト」を前提としたシステム開発が進んでいますが、導入にあたっては、スモールスタートを望むお客様も多く見られます。そこで、クラウド、スマートデバイス連携の標準機能を共通部品化し、お客様への早期提供を目的としたソフトウェアとして、NECモバイルバックエンド基盤を開発しました(図4)。本ソフトウェアは、IoT分野にも適用可能で、エッジデバイスを介してセンサーから収集されるさまざまな情報をDBに格納し、それらをデータ単位でアクセスコントロールを行うことで、権利のある人だけに情報を提供することを可能とします。更に、それらの情報提供方法として、アプリやブラウザで閲覧するだけでなく、プッシュ通知機能を使ってスマートフォンやタブレット端末などに情報を送ることも可能となります。また、お客様独自のAPIを定義して、サーバ側で、ユーザー定義の処理を行うことも可能となっています。以下に、エッジデバイスとしてスマートフォンやタブレット端末を使用した2つの事例を紹介します。

図4 NECモバイルバックエンド基盤

4.1 ウェアラブルデバイスを活用した例

スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスは、コンシューマ向けに普及が徐々に進んでいますが、今後はエンタープライズ用途にも普及が進むと思われます。

例えば、建設や設備点検などの作業現場における作業員の状態を管理するために、スマートウォッチに内蔵している生体センサーを使って、スマートウォッチを付けている作業員の生体情報をクラウド上に送り、体調管理を行い、その情報に基づいて管理者から作業員に対してプッシュ通知にて体調の確認を行うことも考えられます。

作業員からの応答はスマートウォッチの音声入力を利用したり、回答を選択式にした簡単な入力インタフェースによって、作業員の負担を減らすこともできます(図5)。

図5 作業員管理ソリューション構成例

4.2 ビーコンなどのデバイスを活用したヒト、モノの位置管理の例

近年、工場、工事現場などで生産性向上のための作業効率化が求められています。

効率化するためには、まずはそこで働く作業員や行きかう車両の動線を把握して、可視化することが必要となります。ただ、従来のように人がアナログ的に調査するのは、時間も要して非効率です。IoTの技術を使えば、効率的に可視化することができます。

位置を把握するには、センサーデバイスでの移動情報の収集、位置情報とのマッピング、地図への表示・動線記録という流れになります。

移動情報を収集する方法は、その環境に合わせてデバイスを選択する必要があり、屋外の場合にはGPSを用いるのが一般的ですが、最近では、準天頂衛星を用いたものも使われるようになってきました。一方、屋内の場合にもUWB(Ultra Wide Band)、Wi-Fi、音波など、いくつかのデバイスが存在しますが、ビーコンが数千円と比較的安価なため、導入がしやすくなっています。

ビーコンが発する情報は、BluetoothのBLE(Bluetooth Low Energy)に対応しているスマートフォン、タブレット端末などで受信することができます(図6)。ビーコンからは一定間隔でIDが発信され、これらのIDと屋内の地図の位置を、事前にマッピングしておく必要があります。スマートフォンなどで受信したデータは、NECモバイルバックエンド基盤に蓄積し、実際の位置情報に変換されて地図上に表示し、可視化します(図7)。

図6 ビーコン活用位置管理ソリューション構成例

図7 人物動線表示画面例

またNECモバイルバックエンド基盤のプッシュ通知機能を利用することで、例えば作業者が立ち入ってはいけない場所に近づいた場合に、作業者の持っているスマートフォンやスマートウォッチなどにアラーム通知を行うこともできます。

ビーコンに関しては、2.4GHz帯の電波を使用しているため、隣接するビーコンの干渉やほかの機器から発せられる電波の影響を考慮する必要があります。

本事例では、エッジデバイスとして動作するスマートフォン上で、これらの干渉に対応した処理を行うことで、より精度の高い位置把握が可能となります。

5.IoTデータの可視化ソリューション

工場や店舗などに多数設置されている通信ネットワークに接続できない機器や、カメラ、温湿度センサーなどの蓄積データは、各種、有線や無線の複数のインタフェースに対応したエッジゲートウェイなどのエッジ端末に接続してデータを収集して、クラウドと連携することで、可視化をすることができます。例えば、今まで把握できなかった監視カメラ画像や、工作機械の稼働状況など、取得したデータをクラウド上で可視化することで、状況をリアルタイムに把握、分析することが可能となり、故障予知やリモート管理などさまざまな顧客サービスへ活用できるようになります。

以下、エッジゲートウェイよる厨房の温度可視化や振動センサーを用いた工場の振動可視化の事例を紹介します。

5.1 厨房の温湿度監視による食の安全・安心を提供

外食産業では、厚生労働省のHACCPへの取り組みをはじめとして、食の安全・安心の確保が求められている状況にあると考えています。その対応の一つとして、厨房の冷蔵庫や店内フロアの温度を記録、更に、温度センサーで測定したデータを帳票として出力する温度管理のソリューションを提供します(図8)。

図8 厨房の温度管理ソリューション構成

また、本ソリューションでは、温度異常が発生した場合、あらかじめクラウド上のサービス基盤に登録されたメールアドレスへ通知しますので、随時、温度を監視する作業から解放されます。

このように、従来の従業員などの手作業による温度管理を自動化することにより、作業の効率化と温度測定管理の品質向上、及び厨房機器の故障や冷蔵庫の扉の閉め忘れなどから食材の品質を確保することができます。

今後は、クラウドとエッジゲートウェイに各種AIエンジンを実装することで、可視化からデータ分析も含めた価値を提供していきたいと考えています。

5.2 工場の振動可視化ソリューション

鉄鋼プラントをはじめとした工場では、生産計画の確実な運用、生産品質確保のため、製造機器の点検業務が欠かせない状況となっております。そこで、工場の設備機器の振動をセンシングすることで振動状況を可視化し、設備の劣化状況を確認することで故障に備えた対応が可能となるソリューションを提供します。また将来、振動データをクラウドに実装したAIエンジンにより分析することで、異常予兆の検知もできるソリューションも提案していきます(図9)。

図9 工場の振動可視化ソリューション構成

6.嗅覚IoTを活用したソリューション

6.1 嗅覚センサーの概要

ニオイ分子は、数十万種類存在するといわれており、それらの数十から数百種が特定の濃度で配合されたものが、ひとつの「ニオイ」を形成します。そのため、その組み合わせはほぼ無限であり、この複雑性ゆえに、嗅覚は人間の五感のなかで最もセンサー開発が遅れていました。ニオイを簡便に測定・識別可能なセンサーをIoTソリューションとして提供することで、食品管理、環境測定、安全確認などだけでなく、呼気による診断をはじめとする医療やヘルスケアへの応用など、さまざまな分野への貢献が期待されています(図10)。

図10 嗅覚IoTを活用したサービスの適用分野

6.2 MSSとMSSアライアンス

MSS(Membrane-type Surface stress Sensor/膜型表面応力センサー)とは、国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)の吉川元起MANA独立研究者が、故ハインリッヒ・ローラー博士及びスイス連邦工科大学ローザンヌ校と共同で、2011年に開発した汎用性の高い超小型・超高感度のセンサー素子です。このMSSを実用化するためには、大量生産に向けたセンサーチップの最適化や精密評価・校正、そしてこれらを統合した標準モジュールと解析システムの開発などが必要不可欠です。これらの必須要素技術の開発推進のために、MSSアライアンスが設立されています。

このMSSアライアンスにおいて、NECは、独自の機械学習手法である異種混合学習技術を利用したニオイの判別分析と、エッジゲートウェイを含むIoT基盤の構築を担っています。

6.3 NECの判別エンジンと解析プラットフォーム

ニオイの判別分析には、NECが独自に開発した異種混合学習技術を使用しています。MSSを搭載したモジュールから、ニオイ分子の感応膜への吸着/脱離の波形データを取得します。異種混合学習技術をこれらの波形データに用いることで、判別に有効な特徴量が計測条件により変わることも学習でき、ニオイ判別式に加え、判別対象に対して計測条件が決まると判別に適した感応膜が決まる(例:温度が20 度以上のこれらのガスを判別するならば、この感応膜を使えばよい)といった知見も、得ることができます(図11)。

図11 嗅覚判別エンジンの概要

2017年2月に開催されたnano tech 2017展では、西洋ナシの硬度(熟度指標)をニオイから推定する検証結果を、デモ展示しました。

6.4 嗅覚IoTにおけるエッジコンピューティング

NECは、MSSで取得したデータをエッジで収集し、クラウドに蓄積してニオイデータを利活用するサービスの構築を計画しています。このシステムにおいて、前述の異種混合学習技術を使ったニオイ判別を、提供する予定です。その際、判別エンジンは、クラウドだけでなくエッジ上でも動作させることで、応答性のよいニオイ判別が可能となります(図12)。

図12 嗅覚IoTにおけるエッジコンピューティング

また、MSSの特徴の一つとして小型軽量があります。この特徴を生かすために、エッジとして据置き型のタイプだけでなく、スマートフォンを活用したシステム提供も目指しており、これによりハンディタイプのニオイ判別など、幅広い応用に対応することができます。

  • *

    Wi-Fiは、Wi-Fi Allianceの登録商標です。

  • *Bluetoothは、Bluetooth SIG,Inc.の登録商標です。
  • *Androidは、Google Inc.の商標または登録商標です。
  • *その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。

執筆者プロフィール

斉藤 謙志
IoT基盤開発本部 主任

三上 明子
IoT基盤開発本部 エキスパート

有賀 健一
IoT基盤開発本部 マネージャー

安武 宏
IoT基盤開発本部 エキスパート

木村 重夫
IoT基盤開発本部 マネージャー

羽根 秀宜
IoT基盤開発本部 マネージャー

関連URL

ページの先頭へ戻る