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AIがもたらす金融サービスの変革

AI(人工知能)を本格的に活用する時代になりました。金融機関のシステムにおいても、AIの活用が急速に広まっています。本稿では、金融機関のシステムにおけるAI適用領域と、NECのAI技術群「NEC the WISE」を用いたAIシステムの実現方法について分かりやすく紹介します。

1. はじめに

2000年頃から、日本の金融業界では、インターネットの爆発的な普及と、金融自由化の流れにより、インターネット取引に代表されるデジタル化されたサービスが次々と出現しました。これにより、顧客接点は対面型から人間を介さないWebなどのシステムとの対話型へシフトしました。インターネット専業の金融機関が現れたのもこの頃です。最近では、高額な融資となる住宅ローンですら、店頭に一度も来店することなく、インターネットで契約まで完結することができます。生命保険や損害保険もスマートフォンだけで申し込みや購入ができるようになりました。

これらのデジタル化により、大量のデータが蓄積され続けています。そして今、このデータを生かしたサービス向上や、大量のデータ処理の効率化が求められています。そこでAIの登場となります。五感を使って対面で得ていた顧客の情報を、AIが成り代わって集めたデータから顧客を知る、あるいは、大量のデータを人間が分析していた作業はAIが高速に分析する、といったように、もはやAIはなくてはならない存在になりつつあります。

1.1 AIの適用領域

NECが行った、金融機関のお客様へのAI適用、及び事前の実証実験や検討は、2016年度だけでも100件を超えています。さまざまな領域への適用が進むAIですが、これまでの事例をまとめると、以下の5つの用途に大別できます。

(1) 審査

企業向けの融資や、カードローンや住宅ローンなどの審査における与信モデル作成、及び事務負荷の軽減。

(2) 不正検知

クレジットカードやキャッシュカードの不正利用、保険金の不正請求、不正取引、振込詐欺などの不正検知。

(3) マーケティング・将来予想

最小のコストで最大の効果を出すためのプロモーション予想、需要予測、株価予想などの数値予測。

(4) マッチング・リコメンド

人事・採用における適性判断、M&Aの推奨、投資へのアドバイス(ロボアド)、商品購入へのリコメンドなどの機会創出。

(5) 大量な情報の収集・分析

コンタクトセンターなどに寄せられるお客様からの声分析、ヘルプデスクの自動化、SNSなどのソーシャルデータ、ニュース記事の分析などによる見える化。

長年にわたり人間が蓄積してきたノウハウや知見を、AIはごく短期間で習得します。このことが金融機関へのAIの適用が進む理由にもなっています。

2. AI技術

これらのAIはどのような技術で実現されているのでしょうか。本項では、NECのAI技術群「NEC the WISE」の紹介と、その中から金融機関システムへの適用が進んでいる3つの技術について説明します。

2.1 AI技術群「NEC the WISE」

“NEC the WISE”(図1)は、人の知的創造活動を最大化するNECの最先端AI技術群です。the WISEは「賢者たち」という意味です。複雑化・高度化する社会課題に対し、人とAIが協調しながら、高度な叡智で解決していくという強い想いを込めています。

図1 NECの最先端AI技術群

NEC the WISEは、画像や音声の認識、データ分析、システム制御の分野で、それぞれ世界でナンバーワン、オンリーワンの技術を有しています。「見える化」の分野では、空港やテーマパークでの顔認証による本人確認や、金融機関での渉外端末の認証に顔認証が適用されるなど、既に実用化が進んでいます。「分析」の分野では、後述する異種混合学習、RAPID機械学習による予測、判定、テキスト含意認識によるリスク管理、マーケティングが実用段階です。「制御・誘導」の分野は、AIの予測・判定の結果を踏まえて実行に移す技術として、実用化に向けた開発が進んでいます。

2.2 NECのAI技術の特長

金融機関においては、NEC the WISEのなかでも、データ分析分野の適用が更に進むものと思われます。ここでは、そのなかから適用範囲の広い3つの技術について紹介します。

(1) RAPID機械学習

RAPID機械学習(図2)は、人工知能技術として注目されているディープラーニング技術を搭載したソフトウェアです。RAPID機械学習に画像やテキスト、数値などのデータを与えると、そのなかにある規則性やパターンといった特徴を自動で抽出しながら学習します。一般にディープラーニングではその計算量の多さから、大量のシステムリソースが必要になる場合がありますが、RAPID機械学習はディープラーニングエンジンのなかでも高速、軽量という特徴があります。速くて軽いことがRAPIDという名称の由来です。そのため、小規模なシステムでのスモールスタートが可能です。また、品質保証を経たソフトウェア製品として提供しており、金融機関などの秘密性が高いデータを扱う場合に、クラウドへデータを持ち出すことなく、自社のマシン環境に導入することができます。

図2 RAPID機械学習

(2) 異種混合学習技術

異種混合学習(図3)もデータを与えて予測モデルを生成する技術ですが、他の機械学習と比べると、AIとして単に結果を予測するだけではなく、予測の“根拠”を示すことができるところが違います。また、データのなかに異なる規則性が混在しているケースでも、それぞれを場合分けして予測モデルを生成することができます。例えば、商品販売予測では、平日と休日では予測モデルが異なります。異種混合学習ではこれを自動で場合分けを作り、それぞれの予測モデルを導出することができます。予測だけではなく、人間では気付かない新たな規則性を発見する技術としても利用できます。

図3 異種混合学習技術

(3) テキスト含意認識

テキスト含意認識は、2つの文が“同じ意味”であることを認識する技術です。この技術を使うと、文章検索において、単に単語などのキーワードが一致する文を検索するのではなく、意味が一致する文を検索することができます。図4の例では元の文に「私はリンゴが好きだ」とあります。このとき、「彼はリンゴが好きだが、私は嫌いだ」という文にも、“私”、“リンゴ”、 “好き”という単語は含まれていますが、意味は違います。テキスト含意認識ではこれを正しく判別します。大量の文から“リンゴが好き”という意味で抽出したり、好き嫌いで分類することにも使えます。

図4 テキスト含意認識

3. 金融機関におけるAI技術の適用例

本項では、第1章1節で示した5つの用途のなかから、汎用性の高い3つの領域についてAI技術の適用例を説明します。

(1) 審査

融資審査を、異種混合学習技術を用いて実現するケースを考えます。まず、過去に支払いが滞ったり、債務不履行になったりした事案の属性データを集めます。次にこのデータを、異種混合学習技術に投入して学習します。すると、どういう審査項目が、どういう条件のときに不履行になるかという予測式を自動で生成できます。この場合分けされた予測式に、新しい審査対象のデータを投入すると、融資の可否判定と、その判定の根拠を知ることができます。AI化により、コスト削減、審査期間の短縮による競争力向上を図るとともに、異種混合ならではの根拠を知る技術で、責任者が最終決裁する場合の判断材料を提供したり、その根拠の傾向からニーズを知り、新たな商品開発につなげたりすることができます。

(2) 不正検知

金融取引などにおける不正な取引をRAPID機械学習を用いて検知するケースを考えます。異種混合学習と同様に、過去に不正と判断された取引のデータを集めます。不正と確定したデータだけではなく、調査員やシステムによって怪しいと疑われたデータも対象にすることで、学習データ不足を補います。次にこのデータをRAPID機械学習に投入します。RAPID機械学習は、多層構造のニューラルネットワークを用いて、ディープラーニングならではの高い精度で、不正な取引のパターンや特徴を自動で抽出しながら学習し、予測モデルを生成します。この予測モデルに判定させたい取引データを投入すると、取引データごとに不正取引の特徴とマッチする度合いをスコア値で出力します。このスコア値が高いものが不正取引の疑いが高いものになります。固定的なしきい値による1か0の判定に比べ、怪しさをスコア化することで調査対象の優先付けができます。また、ディープラーニングならではの特長を生かして、画像やテキストなどの非構造化データと組み合わせることにより、これまで見逃していた新たな傾向を発見することも可能になります。このように人間の判断を助けることにより、不正取引を発見するための調査の負担を大幅に減らす効果が期待できます。

(3) テキスト分析

コンタクトセンターの記録やアンケートによって寄せられる文書から、お客様から「感謝」された事案を分析するケースを考えます。文章に含まれる単語やキーワードで分析する場合、例えば感謝を意味する“ありがとう”、“とても助かった”、“恩に着る”という単語で検索したとします。すると、“ありがとうと言われなかった”といった真逆の意味の文もヒットしてしまいます。これを一つひとつ除外するにはとても手間が掛かります。テキスト含意認識では意味を認識することができるので、後者は感謝の意味は含まれない、となりヒットしません。このように、大量の文章から特定の意味の文を正しく抽出することができます。また、抽出した文を「感謝」「クレーム」「意見」といったグループに分けることができ、分析を容易にします。これを応用すると、ニュースやSNSなどのソーシャルメディアからも、ある商品に対する書き込みが、ポジティブな意味かネガティブな意味かを判断し、分類・集計することできます。これにより、商品やサービスに対するお客様の声をよりリアルタイムで把握することで、サービスへのフィードバックを早めることに役立てられます。

4. 進化するAI技術

適用が進むAI技術ですが、課題もあります。AIによるデータ分析作業は、学習をさせるまでのデータ準備に多大な工数を要します。企業システムのデータの多くはリレーショナルデータベースに格納されていますが、ここから目的とする予測結果を得るために必要なデータの選択や、データベース間の関係性を関連付ける作業は、いわゆるデータサイエンティストと呼ぶ熟練の専門家が2~3カ月掛けて行うことが必要でした。

そこでNECでは、これらの高度で煩雑な前処理作業を完全自動化する新しいAI技術「予測分析自動化技術」を開発し、これを解決しました。予測に必要なデータ項目の組み合わせや、それをデータベースから取り出すクエリも自動で生成します。あるデータ分析作業で実験したところ、これまで2カ月掛かっていた作業が1日に短縮されることを確認しました。既にこの自動化技術は実用化に向けて動き出しています。

5. むすび

本稿では、金融機関でのAI適用領域、それを実現するNECのAI技術を紹介しました。これからもAI技術は日々進化していきます。NECはこれからも、AIをより身近に活用できる形態へ進化させ、高度で便利なデジタル社会の実現に向け、貢献し続けます。

執筆者プロフィール

福田 健二
日本電気株式会社 金融システム開発本部 プロジェクトディレクター
人工知能学会会員
情報処理学会会員
産業競争力懇談会(COCN)メンバー

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