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第3章 経営へITの価値をいかに説明するか

1. 何が全社最適となるのか

経営はITに期待していない。そして、事業モデル変革の旗振り役にIT部門はなれない。孤独な戦いを強いられるIT部門ですが、すべての業務に横串で関わっているIT部門は、ビジネスモデルやオペレーションモデルにおいて何が問題なのか、何が全社最適なのかが良く見えています。
それでは、その全社最適とはどのようなものなのでしょうか。

「我々がITの目線で、調達の部門や物流などに横串をさすことによってサイロになっている既存の事業体のいくつかのプロセスが変わる。横串をさすことで変えられるいくつかのテーマがある。」(ラウンドテーブル参加者)

「本社側と現地側で管理レベルを上げるために、SCM、採算管理などのデータを集めて加工し、経営に提供すること、グローバルコミュニケーション基盤を作ること、ERPの導入による業務プロセスの標準化がITとしてできることである。」(ラウンドテーブル参加者)

「管理レベルをどこに合わせるかもあるが、根本は仕事の仕方を可視化することである。全てが可視化されれば、標準とのギャップも見えるし、ここまでなら可能というものも分かる。」(ラウンドテーブル参加者)

業務プロセスそのものの改善、標準化。業務プロセスを標準化するための業務プロセスの可視化。グローバル各拠点の事業活動の経営データが、同じ粒度で見られること。そのための管理レベルのグローバルでの向上。
これらはすべて全社最適のための取組みです。しかし、全社最適を追い求めることで、ビジネスが停滞を起こすこともあります。

「標準の適用がどうしても難しいこともある。標準を徹底することにエネルギーを割くより、ある程度標準化のハードルを下げても、つじつまを合わせる、あるいは品質を担保できる、そちらにエネルギーを割いた方が現実的である。」(ラウンドテーブル参加者)

「海外は管理レベルのハードルを下げないと到達できない。日本の管理レベルに上げたいが、実際には下げておいて、そこを標準レベルにしないと無理である。」(ラウンドテーブル参加者)

全社最適か個別最適かは業務プロセス面だけではありません。コスト管理についても全社最適か個別最適かの闘いがあります。

「ITが物流を改革しようと言っても、物流部門は予算がないから無理と言うだけで、なかなか進まない。考え方はよくても、実行する段になると予算の壁があり、結局は絵に描いた餅になる。」(ラウンドテーブル参加者)

事業部制組織の場合、事業部固有の業務システムは当然事業部のコスト負担になります。一方、インフラやERPなど全社横串で利用するシステムは本社費で配賦されます。本社費も管理会計上は予算配賦と実績配賦がありますが、財管一致を進める昨今では、本社費の増大が事業部の利益・業績に大きく影響し、事業部トップはとても敏感になります。したがって、総論では賛成でも、事業部利益を圧迫する全社最適のIT投資については抵抗が大きくなるのです。
ラウンドテーブルに参加するある企業では、全社横串のIT投資を事業部の管理会計上の本社費にカウントしないことで、全社最適への投資の抵抗を和らげるようにしていました。

「全社横串のIT投資については、IT部門が予算をとり、管理会計上は本社費として配賦しないものがある。そうすることで『事業部の利益を圧迫するから』という抵抗を排除しようとしている」(ラウンドテーブル参加者)

2. IT投資のビジネス上のKPIとは

「ITは二の次」、「ITには期待していない」と言っている経営者に対して、全社最適の価値を説明しなければなりません。

「我々は、どうも経営が持っている価値にフィットする『経営の言葉』で語りかけていない。我々が目指す部分は、多分言葉を変えれば同じだが、経営者には理解できない。私はずっとITで叩き上げられた人間なので、経営に語る時はよほど感性の変換をしないとなかなか通じない。」(ラウンドテーブル参加者)

経営とはコミュニケーションのベースに大きな隔たりがある中で、経営に対してITの価値をどのように説明していけばいいのでしょうか。 これを、経営への提案のアプローチと考えると、「提案の持って行き方」と「説明の仕方」の2通りがあります。【図6】
「提案の持って行き方」という点では、まずは組織的な位置づけが重要になります。IT部門の中に業務改革部門を置き、業務改革の機能を明確に持たせる方法があります。
ただ、ERPの導入時など、プロジェクト的に業務改革機能を融合させて、IT部門をBPR推進部などとすることは多いですが、ほとんどの場合、プロジェクト推進と同時に解散してしまいます。
また、「情報システム政策会議」のような経営ボードも入る会議体で、IT案件を経営マターとして取り扱うのも有効です。
各事業部門と連携し、共同で提案するのも重要なアプローチです。経営企画を表に出して提案するのもその一つです。

【図6】経営への提案のアプローチ【図6】経営への提案のアプローチ

「説明の仕方」としては、やはり定性的な説明を定量化、KPI化することが求められます。ITの投資価値としてどのようなKPIを設定するかが重要になります。ITの場合、コストの削減や、スピードの短縮が主なKPIになりますが、よりビジネスに即したKPIの設定方法はあるのでしょうか。

「ITに対してのKPIは、新規拠点への標準業務展開スピードである。新しい工場・拠点ができて稼働、定着まで1年程かかっていたのを、標準業務フローと業務マニュアル、システムのパッケージング化の3つの業務の標準化を行い、短い期間で標準の業務、仕事を立ち上げる、その期間を指標にしている。」(ラウンドテーブル参加者)

「ITに対してのKPIは、在庫管理精度である。SIMや工程管理で実績が上がったものをERPに繋いでリアルタイムに実績を上げることによってモノと情報が一致する。経営者が見ている在庫は毎日正しく把握でき、今月末の在庫量で経営判断に繋がる。」(ラウンドテーブル参加者)

「当社は1社1社のお客様の要望を聞いて製品を開発して納品している。そういう面では、開発リードタイムの短縮がビジネスの生命線。それを達成するためにたとえばハイエンドCADを導入して、いかに事前にフロントローディングできるかを問われている。なので、ITのビジネ上のKPIは、開発支援システムによる開発スピードの短縮と明確になっている。」(ラウンドテーブル参加者)

と言ったように、ビジネスに直結したKPIを設定している企業もありました。

また、NECでは、グローバル共通のコミュニケーショインフラとしてのグループウェアを導入しようとしていますが、目的とするワークスタイル変革で、具体的にどのようなワークスタイル変革をめざすのか、13の項目で具体的に定義し、どのようなステップでワークスタイル変革を実現するのか、ロードマップも描いています。コミュニケーショインフラの導入がもたらすワークスタイル変革の具体的な価値をKPI化しているのです。

3. 経営者を説得するシナリオ

コストの削減や、スピードの短縮は、IT投資に対する直接的な効果と言えます。一方で、すべての投資は最終的にはビジネスの価値をもたらすためのものであり、ビジネスとしてのKPIが達成したかどうかが、最終的な当投資対効果と言えます。
IT面におけるKPIの達成がビジネス上のKPIにどう結びついたかが重要です。【図7】

【図7】ITのKPIがビジネスのKPIにどう結びつくか【図7】ITのKPIがビジネスのKPIにどう結びつくか

IT部門としては、そのような、ITのKPIがビジネスのKPIにつながっていくシナリオを説明していかなければなりません。
ITは、ビジネスの価値を生むためのさまざまな要素のうちの1つです。ITの要素だけで価値を生むことはできません。あるビジネス価値を生むためには、どのような要素が必要なのか、すべてを洗い出し、ITの要素とどう結びつくことで価値を生むのか、シナリオを見せなくてはなりません。

経営にITの価値を説明するためには、【図8】にあるように、5つの要素を備えたシナリオが必要になります。

【図8】経営にITの価値を説明するシナリオ【図8】経営にITの価値を説明するシナリオ

「事業がビジネス価値を生み出すためには、さまざまなプロセスがあり、ITはその一部。そのプロセスのボトルネックをいかにつぶすかがITの役割。ボトルネックが見えるためには、プロセスすべてが見えていないといけない。そうすることで、すべてのプロセスを通してビジネス価値をもたらすシナリオが語れる」(ラウンドテーブル参加者)

しかし、一方でこんな声もあります。

「IT部門がやらなければいけないのは、おカネを持ってくることである。そのためには、数値的な説明の仕方、なぜこれをやると会社が儲かるのか、という話ができないといけない。」(ラウンドテーブル参加者)

「最終経営判断は人になるので、何とかおカネをとってくるのが私の仕事だと思っている。そこにいかにデータを提供できるかに特化する必要がある。」(ラウンドテーブル参加者)

「個別に入り込んで精緻にやるのではなく、全体としてやるべきことを並べた時に、どこまで揃えるのか、経営の価値につながるのか、についての話をするようにする。」(ラウンドテーブル参加者)