Please note that JavaScript and style sheet are used in this website,
Due to unadaptability of the style sheet with the browser used in your computer, pages may not look as original.
Even in such a case, however, the contents can be used safely.

第5章 ITベンダーはパートナーになり得るのか

ITベンダーは気概を失ってしまったのか

ラウンドテーブルの最終章では、IT部門の変革のために、お客様とベンダーがどのように協力し合えるかを議論しました。

ベンダーに対する指摘の一つは、「提案が製品ありきである」ということ。お客様のITマスタープランに沿って、どのようにソリューションを提供するかではなく、自分たちの売りたいソリューションが軸になっているということです。

「最近では、クラウドに載ったグループウェアの提案をいただくが、当社が実際にどのようなシステムを使用し、どのような課題があるかまで踏み込んで尋ねられることはない。一方的に商品説明をされるだけ。」(ラウンドテーブル参加者)


顧客のビジネス上の課題やIT方針を理解したうえでの提案になっていないという指摘です。一方、逆に顧客をよく理解しているがゆえに、提案内容の踏み込みが足りないという不満も聞かれました。

「筆頭ベンダーは思い切った提案をしてこない。当社の状況をよく把握しているだけに、踏み込んだ提案をしてこないと感じる。もっと気概を持ってモノ申していただきたい。状況を知らないベンダーの提案の方が逆に新鮮。」(ラウンドテーブル参加者)

「長い付き合いがあると、我々は会社の状況を細かな点まで考慮した提案を期待するが、一方でベンダーは勝手に『この程度の予算でないと通らないだろう』とリミッターを設ける。新しい提案よりも、保守的な提案が主になる。」(ラウンドテーブル参加者)


長年の付き合いで顧客のことを理解し、阿吽の呼吸をとれる関係になることは重要ですが、同時に緊張感を維持し続けることも重要です。本質的なものを求めるために「顧客とケンカできる関係」が理想のパートナーシップであり、そのための気概を失わないことがベンダーに求められていることです。

やがてIT部門は落日を迎えるのか

本ラウンドテーブルでは、お客様からベンダーへの要望だけでなく、ベンダー側から見たお客様のIT部門への提言も示されました。

ベンダーの現場の営業やSEはお客様との理想的な関係についてどのように感じているのか。NECの現場の営業担当からの提言が聞かれました。【図5】

図:ITベンダーはこんなお客様と仕事がしたい【図5】

ITベンダーが求める、理想的な顧客像とは。

経営から必要な投資額を捻出させるスポンサーとしての力。コストに対する厳しさを持ち、ITの価値を貶めない、適正な対価を評価できる感覚も持ち合わせる。

そしてリスクを抱えながらも会社を巻き込んだイノベーションへとチャレンジする姿勢。

長期的なパートナーとなるために、経営計画や中期計画を共有し、互いの強みと弱みをさらけ出し合える関係。

そして、IT屋という同志意識で、IT技術自体への好奇心を持ち、ITの力で企業や世の中を変えられるという楽観主義を共有する。

かつては、顧客とベンダーがそのような理想的なパートナーシップを築いていた時代もありましたが、ベンダーは市場とする技術分野が拡大するにつれて、製品志向になり、お客様のIT部門も経営への貢献度が低くなることで、相対的にパートナーシップは希薄化していったのかもしれません。

ベンダー側からはIT部門のさらなる弱体化の危機感も指摘されました。

企業のグローバル化が進むことによって、グローバルで標準化されたシステムが中心になっていきます。その中心が日本である必然性はありません。グローバル標準のシステムが海外の安価なベンダーやクラウドに置き換えられる傾向が進む中、海外ベンダーも、日本が力を入れるべき市場ではないと判断していくかもしれません。そうなると、世界の中で日本企業のIT部門の重要性が低下し、日本のIT自体に落日が訪れるかもしれません。

そのような事態を防ぐために、ITベンダーがお客様のIT部門の変革を支援し、IT部門が経営価値を高めることに直接の貢献を果たさなければ、IT業界全体が生き残れなくなるという危機感が、ITベンダーにも強くあります。

アウトソースからチームビルディングへ

IT部門の変革のための、お客様とベンダーとの理想的なパートナーシップとはどういうものか。

ITベンダーがIT部門の変革のために貢献できることは、構造的な面では、アウトソーシングということになるでしょう。IT部門が本来のコア業務に集中できるよう、下流の領域を引き受けることです。

しかし、これまでも議論してきたように、アウトソーシングはIT部門の変革を間接的に支援するものではあっても、直接的な貢献を果たすものではありません。

お客様は、変革のための直接的な貢献を求めています。


変革のためには、第4章で議論した人材育成が重要な要素になります。人材育成の領域に直接の貢献を求める参加者もありました。

「ITベンダーには非IT領域における支援、特に人材育成でコラボレーションしてもらいたい。ベンダーにCIOの補佐官としてサポートしてもらえると我々にとって大きな支援になる。」(ラウンドテーブル参加者)


NECが紹介した「協調型アウトソーシング」の事例では、開発・運用という領域のアウトソーシングを受託するという概念から、お客様のIT部門の役割を共同で担う、という姿への変化が紹介されました。

アウトソーシングすることで、現場体験がなくなってしまい、技術面やプロジェクトマネジメントの基礎的なノウハウが伝承されなくなっていくことが、アウトソーシングを進めていく際のユーザ企業の課題です。そこで、NECが請け負った運用業務の一部に、お客様IT部門の若手エンジニアを受け入れ、現場体験を積ませて育成したうえで、再びお客様のIT部門に戻すという取組みを試行しています。

本来、IT部門が独自に行うべき人材育成の役割をベンダーが担う形です。

NECの「協調型アウトソーシング」では、お客様のIT部門とNECで新しいITチームを作っています。基本的にお客様は企画業務に専念し、開発・運用の領域はNECが引き受けるスタイルですが、アウトソーシング領域を明確にSLAで区切るという発想だけではなく、共同のITチーム全体のパフォーマンスを評価する指標をお客様と作り、共有しています。通常のサービスレベルを、日常で管理し、月1回達成度を測定して改善へ結び付けることに加え、クォーターあるいは年単位でITチームに対する評価の指標を考えています。

情報企画・業務開発・管理など機能ごとに評価の切り口を定め、到達レベルのステップごとにKPIを設定するのです。

共同のITチームを俯瞰して管理するアカウントマネージャを設け、経営層や責任者にこれらの指標にもとづいた評価結果を年次報告するしくみにしています。

委託者とアウトソーサーとして明確に線引きするのではなく、ある意味線引きを曖昧にする感覚で、1つのチームを構成し、同じ目標をめざして活動するのです。

「協調型アウトソーシング」というよりも、共同でのチームビルディングと言ってもいいでしょう。

ソリューション提供から共同でのチームビルディングへ

IT部門の変革のためにITベンダーは何ができるのか。コンサルタントならば、変革をソリューションとして提供することになりますが、ITベンダーはコンサルタントではありません。「IT部門の変革を、ベンダーのソリューションメニューに加えました」と言われても説得力がありません。ITベンダーにできることは、本来のソリューションの品質を高めることであり、お客様のIT部門のビジョンを当事者目線で共有することでしょう。

単純に上流と下流で切り分け、SLAで品質を担保して後は丸投げするだけの従来型アウトソーシングという形態は、お客様IT部門との関係を密接にはしますが、それは当事者になることではありません。変革に直接貢献するためには、共同でチームビルディングし、IT部門の変革の目標をベンダー自身の目標と一体化させ、当事者になることではないでしょうか。

全5章を通して

ITリソースのほとんどをサービスとして利用する“持たざるIT”の状態が当たり前になるまでには少々時間がかかるかもしれません。しかし、本ラウドンテーブルに参加するIT部門トップが皆、変革に向けて動き出そうとしているのを見てもわかるように、IT部門の役割を問い直すパラダイムシフトが既に始まっているのは間違いないでしょう。

一方、経営の理解、リソースの確保、人材の育成と、変革のハードルも少なくはないことがわかりました。当然ながら変革のゴールは各社によって異なりますが、変革に向けたロードマップを具体化していくのが容易でないことは、共通しています。

問われているのは、1社1社のIT部門としての進化ではなく、日本企業全体のIT部門の姿であると感じます。将来的に、IT部門というものが、“持たざるIT”時代に価値を発揮できる組織へと進化できるのか、“持たざるIT”時代到来とともに、その役割を終え、歴史の中だけで存在価値を持つのか。

強い意志を持って変革に取り組むIT部門がどれだけ生まれるのか、ユーザ、ベンダーという垣根を取り払った“日本のIT屋”としてのチームビルディングが成熟するのか、日本企業のIT部門の将来はそこに懸かっていると思います。今回のラウンドテーブルで、道半ばながらも、各社の変革への確かな動きを実感でき、日本のITの将来に向けて明るい希望を抱くことができました。

(ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)