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第4章 変革人材を育てることはできるのか

次世代のIT人材に求められる要件とは

IT部門が本当に変革することができるのか。実現性の鍵を握るのは、『人材』です。ラウンドテーブルでは、今後IT部門として必要となる人材像について聞いています。【図3】

図:今後IT部門として必要となる人材像【図3】

ここで、共通しているのは、業務改革を企画し、それが実行できる人材です。

仮にこのような要件を満たす人材を『変革人材』と呼びます。このような変革人材に求められる能力について、アビームコンサルティングの執行役員である原市郎氏は、以下の7つを挙げています。

  1. IT戦略立案能力
  2. 変革推進のドライブ力
  3. 問題整理・解決力
  4. ビジネス設計力
  5. IT企画・設計力
  6. プロジェクトマネジメント力
  7. ベンダーマネジメント力

これを見ると、IT人材というより、社内コンサルタントと言っていいでしょう。特に、2.変革推進のドライブ力、3.問題整理・解決力、4.ビジネス設計力といった能力は、これまでのIT人材の育成ではあまり重視されていない領域です。

このような変革人材の育成には高いハードルがあります。

育成か、調達か、変革人材の条件

原氏は、さらに変革人材を育成する6つの鉄則というものを挙げています。

鉄則1:マインドを変える
鉄則2:キャリアを明確にする
鉄則3:素手力を鍛える(ビジネスの基本能力)
鉄則4:武器を持たせる(経験値/ツール/方法論)
鉄則5:経験させる
鉄則6:評価で動かす

この中でまず第1のハードルはマインドを変えることです。これまで、プログラム開発を主にしてきた人材に対して、コンサルティング的な業務に取り組ませる、あるいは、業務部門の要求を忠実に反映することを「良し」としてきたスタイルを、業務部門に対してときにはNOを突き付けるスタイルに転換させるのは容易ではありません。

そもそもの志向も違いますし、これまでの仕事観を転換させることにもなります。このようなマインドチェンジという試練を乗り越えるためには、インセンティブとしてのキャリアが示されなければなりません。

しかし、社内コンサルタントしてのロールモデルがないために、追いかけるべきゴールが明確になりません。

ラウンドテーブルに参加するある企業では、アウトソーシングに際して、IT部門の役割を再定義し、その役割を果たすために、本質的な目的が何かを意識した上で、業務部門に対して提案するという、新しい仕事のスタイルをIT部員に徹底させています。これまでとは違う、マインドチェンジを伴う新しい仕事の手順の徹底です。キャリアのロールモデルがない中、これを定着させるには苦労をしています。

原氏が『素手力』と呼ぶ、ビジネスの基本的な能力を改めて鍛え直すことも重要です。

「IT部門の人間は入社した時に道具を与えられるため、素手力が弱くなっている。ITという武器のない状態で相手と仕事や業務について議論していくスキルが必要。」(ラウンドテーブル参加者)

「相手の話を聞き出し、相手が求めているものをくみ取り、それを行うために生じるリスクや投資を明確にできる役割を果たす人材にならなければならない。」(ラウンドテーブル参加者)


『素手力』はIT人材に限らず、ビジネスパーソンとして等しく求められるものですが、『素手力』をどこまで伸ばせるかはセンスも大きく影響します。

染みついたマインドをチェンジし、センスも問われる『素手力』に改めて磨きをかける。このような条件を考えたときに、変革人材を、果たして現有の人材で育成可能なのか、外部から調達するしかないのではないのか、という議論が当然ながら起こりました。

たとえば、コンサルタント事業者からの人材を受け入れる。それがもっとも現実的な解決策ですが、IT部門に対する人材投資が消極的な中、そのような人材調達はなかなか実現しません。

ラウンドテーブルでヒントになったのは、若手人材に対する集中的な育成投資です。

ある企業では、入社5年以内の若手人材を、問題解決力や、コミュニケーション力を鍛えるための外部研修会に継続的に参加させています。講座メニューを提示し、自分でテーマを選んで、能力のステップアップに応じて必要な講座を受講できるようにしています。感度の高い人材は、そこで次々に新しいテーマを学習し、職場に戻って、そのテーマに沿ったタクスにチャレンジする、という成長の好循環を維持しています。

ある程度の年代になると変革のハードルはいっそう高くなります。変革の受容性が高い若手人材を集中的に育成することで、時間はかかるものの、変革人材を内部から育成することが可能になります。また、若手が育ち、中間層への刺激になることで、中間層のマインドチェンジを促す効果もあります。

二極化する人材のキャリアパスを考える

IT部門の役割を高度化させるためには、IT部員すべてが変革人材とならなければならないのでしょうか。

ラウンドテーブル参加者のほとんどが、IT部員全体の中で、必要な変革人材の割合は10%程度と考えています。現実的にも現有のIT部員すべてを、変革人材に育成することはできません。全体の10%が変革人材としての価値を発揮できれば、IT部門の経営への貢献価値は大きく高まると考えています。

そうなると、10%の変革人材を顕在化して集中的に育成する作業と、残りの人材を生かすキャリアの創出作業が必要になります。

組織としての変革を考える際に、実際には、IT部門の大半を占める、変革人材以外の人材(仮に『従来型IT人材』と呼びます)の活用をどうするかを考えないと方針が立ちません。ラウンドテーブルでは、従来型IT人材を、変革していくIT部門の中でいかに活用していくかも議論されました。

従来型のIT人材のキャリアプランについては大きく2通りあります。1つは、業務部門に異動し、業務部門の中でIT関連業務に従事するキャリアです。ただ、この場合、単純に『便利屋』として扱われるリスクもあります。業務部門の中で、ITスペシャリストとしての存在価値を発揮させるよう配慮することが重要です。

「IT部門のスタッフが業務部門に配属されると、非常に重宝される。それはシステムを知っているからではなく、体系立てたノウハウが蓄積されているため、業務を引っ張ることができるからだ。」(ラウンドテーブル参加者)

「パソコンを直せる人が欲しいとの理由で、IT部門から他部門に引き抜かれることがある。『業務設計ができる優秀な人材を便利屋として他部門に充てるのはとんでもない』と言って人事部長とぶつかった。」(ラウンドテーブル参加者)


もう一つは、IT部門の中で内部統制やデータ分析といったタスクに特化してスペシャリストとしての価値を発揮することです。

在社経験が長いと、社内のあらゆる部署に顔が利くようになります。さまざまな部署に対して矢面に立ち、要望を徹底する必要がある内部統制業務では、社内人脈と経験が貴重な武器になります。その利を生かして高いパフォーマンスを発揮することができます。

また、データ分析などのタスクは、従来型IT人材が持つ高い専門性を生かす絶好のフィールドと言えます。

「業務側にとってシステムがブラックボックス化しており、データの使い方が間違っていることがたまに見られる。システムに精通していることでその点を改善できる。それを行えるのは非常に能力の高い人材であると言える。」(ラウンドテーブル参加者)

人材育成体制の変革と、未開拓のタスク領域の開拓が必要

IT部門の変革のためには、新しい役割を果たす人材の育成と、現有の人材の専門性を生かす領域の開拓の2軸が必要です。前者は人材育成の体制そのものの変革です。これまでとは異なる新しい要件を満たす人材を育成していくためには、中長期的な視点に立って、採用の方法から育成のステップまでを考えた人材育成全体のロードマップが必要でしょう。

一方で、現有の人材の専門性を生かす未開拓のタスク領域がたくさんあるはずです。人材を、変革人材と淘汰される人材とに二分して、淘汰される人材の受け皿をどうするかと考えるのは適切ではありません。現有のIT部員が持つ能力を体系化し、その能力を生かしてパフォーマンスを発揮するタスク領域を積極的に開拓し、アサインしていく。集中すべきコア業務とは、まだ未開拓なタスク領域の中にあるのかもしれません。

(ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)