Please note that JavaScript and style sheet are used in this website,
Due to unadaptability of the style sheet with the browser used in your computer, pages may not look as original.
Even in such a case, however, the contents can be used safely.

第3章 IT部門は自己変革できるのか

IT部門を取り巻くモチベーション低下の問題

「経営に貢献するIT部門とは」というキーワードで議論を進める中で、頻繁に出てきた問題が、「IT部員のモチベーションの低下」です。これは、ラウンドテーブル参加企業だけでなく、すべてのお客様のIT部門に共通する課題かもしれません。

モチベーションを低下させる要因として、ラウンドテーブルでは、以下の点が指摘されました。

  • もともとIT部門への配属を希望していない
  • 経営や業務部門からの細かい要求に応える作業で疲弊してしまう
  • 「ITは動いて当たり前」で、プロセスが正当に評価されない
  • 自分の志向とは異なる変革を要求される

「当社は製造業なので、IT部門に行きたいという新入社員は1人もいない。社内でもIT部門には元々人気がない。かつてIT部門が花形の時代もあったが、今は全く違う。経営に貢献するITというテーマでは、社内の上から下までウケがよくない。それでよけいにモチベーションは低くなってしまう。」(ラウンドテーブル参加者)

「製造業では、IT部門はコストセンター。経営層にはIT部門に関わってきた人がいないため、できるだけ低コストで安定した稼働という点しか求められていないと感じる。社員のモチベーションをどう上げるかが課題。」(ラウンドテーブル参加者)

「IT部門の貢献はいつも間接的なので、直接的に実感されることは難しい。たとえば、物流システムの場合も、ITはあくまで下支え。停止してしまうとITが問題とされるが、功績は、IT部門ではなく物流部門の功績になる。経営層も、停止すると困るという意識はあるが、それ以上の意識は持っていない。」(ラウンドテーブル参加者)


特に本ラウンドテーブル参加企業は製造業中心のため、全社的に「ITはビジネスのコアではない」という認識があります。IT部門が高いパフォーマンスを発揮してITを安定稼働させている平常時は、空気のような存在として存在価値を認められず、皮肉にも初めて存在感を実感する障害時において、マイナスの評価だけが印象に残る。

このように達成感を味わいにくい境遇で、不満が重なり、IT部門全体へのモチベーション低下へとつながっているのです。

経営に貢献するIT部門となるための、上流への進化は、こうしたポジショニングを改善するものと考えられますが、一方で、上流のタスクへの変革が、逆にIT部員にとって負担にもなるようです。

「これまで一生懸命プログラムを書いてきた人たちを企画業務にシフトさせようとするとマインドセットの転換が必要になるが、容易ではない。新しいコア業務への移行に対する抵抗感が大きい。」(ラウンドテーブル参加者)

IT部門自ら存在価値を示さなければ、IT部門への評価は高くならない。しかし、IT部門自身が変革するための内部の抵抗もあり、変革は進まない。IT部門のポジショニングが変わらないまま、ますますモチベーションは低下していくという悪循環になっているのです。

IT部門変革のトリガーはあるか

IT部門がコア業務へ集中しようとする場合、必ずしも変革が必要ではありません。先述したように、コア業務への集中は、リソースを集中するものと、変革を要するものの2通りがあります。

ラウンドテーブル参加企業の中には、プラットフォーム構築から開発までをほとんど内製化しており、開発業務がIT部門のコアになっている企業もありました。この企業では、数年がかりで基幹システムの再構築に取り組み始めており、基幹システム開発にリソースを集中することで、次世代に向けたコア業務のノウハウを新たに蓄積することが可能になります。

この企業では、これまでのコア業務へリソースを集中することで、経営に貢献するIT部門としての存在価値を全社に示すことができます。

一方で、経営に貢献するIT部門としてのポジショニングを確立するためには、新しい領域への変革が不可欠な企業もあります。

変革にはトリガーが必要です。IT部門の変革を考えるときに、そのトリガーが何であるのかを明確にしなければいけません。

  1. 経営トップがITサービスの品質に問題意識を持ち、IT部門に変革を求めているのか
  2. ITサービスの品質が経営の品質に影響するという、IT部門からの問題意識か
  3. 生き残りを賭けて存在価値を示そうとするIT部門の自己変革か

これまでの議論を見る限り、経営トップダウンでのIT部門に対する変革のトリガーはありません。現状のITサービスが経営に貢献しているというポジティブな評価はない一方で、コスト削減への強い要求を除いては、ITの品質が経営にとっては特に大きな問題とも認識されていないからです。

ただ、それは、経営側に現状のITの品質を評価する技術がないだけです。もし、ITの品質が経営の品質に影響を与えているのであれば、それを経営に気づかせなくてはなりません。

それはIT部門の仕事です。経営に対して、経営価値を高めるためにITの品質を高めること、つまり、IT部門変革への投資を積極的に働きかけていかなければなりません。

「経営側から『リソースを与えるのでこれだけのことを行ってくれ』と言われることはあり得ない。経営はITを中心に考えていないため、こちらから動く必要がある。まず提案を受け入れてもらい、その次にリソースを考える。」(ラウンドテーブル参加者)

もう一つ、変革のトリガーがあるとすれば、それは純粋にIT部門自身にとっての問題。IT部門の存在価値を高め、将来的にクラウドやフルアウトソーシングのようなIT調達手段が選択された後にも、IT部門が生き残っていくための自己変革です。

試されるIT部門の自己変革力

いずれにしても、IT部門に変革を迫る外部からの強力なトリガーはありません。IT部門が現状のままでも、経営上は何の問題もなく、IT部門の機能が、将来的にクラウドやフルアウトソーシングにとって代わられて消滅したとしても、経営的には賢明な選択かもしれません。

それでは、IT部門の生き残りのために「変革」を考えるのか。

「組織の生き残りのためのコア業務であれば必要ない。経営企画など本社部門と話をする時に感じるのが、彼らは意外と現場をよく知らないこと。彼らから頼まれて作ったシステムを現場に持っていくと使えなくて、仕様変更になってしまう。経営者も現場を知らない。我々が現場を知る必要がある。現場の情報をこちらが握ってしまえば、こちらからもっと改善提案をできる。」(ラウンドテーブル参加者)

ラウンドテーブル参加者の多くが、IT部門の将来の生き残りに危機感を抱いていることは事実です。IT部門の変革を語るときに、少なからず「IT部門がいかに生き残るか」が背景にあります。

ただ、それだけではなく、ITの品質が経営品質に与える影響に対する高い問題意識もあります。IT部門が気づいている経営上の問題を、経営にも気づかせる使命があると認識しているのです。

IT部門の自己変革力が、IT部門自身の生き残りを左右すると同時に、企業自身の生き残りの重要なキーファクターとなる、という強い危機感が働いているようです。

自己変革のためのスタートを切れるか

企業がITを捨てることはないでしょう。クラウドやアウトソーシングのサービスが充実してくるに従い、「IT部門の生き残り」というテーマは深刻なものに感じられますが、私はまだしばらくの間IT部門は安泰だと思います。高い評価を得ることもなければ消滅することもないでしょう。

ただ、自己変革しない組織は、衰退していきます。創造性を失い、ロングテール式に生き残る組織からは人材は輩出されず、高い価値も生みません。今のIT部門は、そのままでも生き残ることができますが、あえてイノベーションを起こすことで、もっと価値を生む組織にもなり得ます。IT部門トップが腹をくくって次世代に向けたイノベーションを仕掛けることができるか。かけ声だけではなく、自己変革のスタートを切れるか。組織のトップの覚悟が試されるときです。

(ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)