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第2章 IT部門は経営から期待されているのか

IT部門のビジョンは経営の期待と一致しているのか

IT部門が、本来のコア業務にリソースを集中させ、経営に貢献する機能を強化させようとするビジョンを持つ一方で、そのビジョンは経営の期待と一致しているのでしょうか。

業務部門に対するBPRや経営戦略の提案など、いくらIT部門が高度な機能をめざしても、経営がそれを求めていなければ、経営価値はありません。また、高度な機能への変革に必要なリソースの確保も実現しません。

本ラウンドテーブルでは、IT部門のビジョンと経営との期待が一致しているのか、参加者に問いかけています。

「業務を把握できているのはIT部門だけ。その点は経営者も認識している。各業務部門はプロセスがわからなくなっているため、それを全社的に解きほぐしてアイデアを出せるのはIT部門だけであると、経営者からは期待されている。」(ラウンドテーブル参加者)

このように、経営者から直接高度な機能の期待を寄せられている場合もあります。

しかし、多くの場合は、経営からIT部門に対して、経営戦略上の明確なミッションが明示されるわけではありません。経営者との会話の中から、経営からの期待を感じ取っているようです。

「経営者との会話の中から、経営が会社をどのように動かしていきたいのか、推察している。具体的な指示はないため、それを出させるよう、こちらから近づいていこうと考えている。」(ラウンドテーブル参加者)

「役員の中には、IT部門が事業継続上重要な部門だと捉えている人もいれば、とにかくコストを安くすることを求める役員もいるが、総じて、経営のIT部門に対する期待感は高いように思える。IT部門を、情報リソース管理の役割として捉え、「情報を出せ」と要求されることもあり、不可欠な間接部門だと考えられている。」(ラウンドテーブル参加者)

IT部門は経営とコミュニケーションできているのか

このように、経営からのIT部門に対する期待を感じ取るためには、普段から経営とのコミュニケーションがなければなりません。

ラウンドテーブル参加者に、経営とのコミュニケーションのとり方を尋ねたところ、当然のことながら、経営とある程度の頻度のコミュニケーションはとっていました。

ほとんどの企業が、中期計画策定時に、経営者と全社の戦略とIT投資のスコープについてすり合わせをします。しかし、それは、「IT部門をどのような機能の組織にしていくか」というビジョンのすり合わせではありません。

IT部門が、自らの機能の強化をめざすならば、そのために必要なインフラや人材リソースへの投資を確保しなければなりません。これは、プロジェクト案件に対する投資とは別の、IT部門そのものに対する投資です。

全社の経営方針に照らし合わせて、IT部門のめざすべきゴールとそこに至るロードマップを示し、必要な投資を確保する。そのようなコミュニケーションはほとんどできていないのが現状のようです。

経営側から、IT部門のポテンシャルを評価してゴールを示し、そのために必要なリソースを積極的に確保することはありません。

経営からの明確な指針がなければ、IT部門側で、経営の方針を理解し、その中でIT部門として果たすべき役割をブレイクダウンしたIT戦略を示す、といった動きが必要になります。ラウンドテーブル参加者の中には、そのような取り組みをしている企業もありました。

「たとえば、グローバル展開する上で、海外売上の比率を高めていくことが経営の方針だとすれば、その実現のために海外との連結の仕組みをIT部門として考えておく必要がある。同時に、J-SOX以外の連結会計の管理レベルも管理会計の中に組み込まなければならない。そのために必要な課題はこうであり、必要なリソースはこうである、ということを経営とキャッチボールしている。」(ラウンドテーブル参加者)

IT部門にとって必要な経営とのコミュニケーションとは、経営からIT部門への期待を聞き出すことではなく、IT部門自ら経営におけるIT部門の価値と新しい役割を提示し、すり合わせることと言えるでしょう。

IT部門の社内プレゼンス向上のために

このように、IT部門としては、経営に貢献するために、一歩踏み込んだ役割を果たそうとしていますが、経営や業務部門の期待は決して高くはないようです。

極端な言い方をすれば、「IT部門にはそれほど期待していない」状態です。

「経営に対する提案力や企画力を充実させていかねばならないと我々は考えているが、経営からは『そこまでは期待していない』と言われる。『そこまではビジネスを分かっていないのだから、ビジネスニーズが出てきた時に、ソリューションに対するベストな解を出す役割を充実すべきだ』と言われる。」(ラウンドテーブル参加者)

「IT部門が情報活用の旗振り役を担うよう、動き出しているが、経営には容易に理解してもらえない。BI(Business Intelligence)の機能を紹介し、ITが業務にサポートできる領域があることを明確にして、BIを活用するための教育をするなど、ITの貢献度を経営に示す活動を地道に行い、ファンづくりをしている。」(ラウンドテーブル参加者)


IT部門トップが「ITはビジネスのコアではない」と感じているという議論に触れましたが、IT部門が高度な機能に進化しようと試行を続ける過程で実感されるのは、むしろIT部門に対する評価や期待の低さです。

「雑誌記事などで社外から評価されると、IT部門に対する評価が簡単に上がる。それだけ、IT部門に対する評価の軸を持っていないということ。」(ラウンドテーブル参加者)

IT部門に対する評価の低さは、明確な評価軸を経営や業務部門が持っておらず、IT部門としてもそれを示せていないことが大きな要因と言えます。

IT部門がその機能を進化させていくためには、現実問題として、まずはIT部門の社内プレゼンスを高める、というレベルからスタートしていかなくてはならないことがわかってきました。それも、ITサービスの価値を認知させるというより、IT部門に対する基本的なシンパシーを得るというレベルからです。

ラウンドテーブルでは、IT部門に対するシンパシーを得るための地道な活動についてのナレッジも共有されました。

「経営と意思の疎通を図ることで、IT部門の経営に対する不信感を取り除きたい。IT部員は、自分たちが一生懸命やった仕事を評価されていないと感じている。そこで、現場から上がってくるITに関する課題を直接経営者にぶつけるようにしている。解答はないが、課題の投げかけそのものが重要。それが我々の示すプレゼンスであると考え、そういう試行をしている。」(ラウンドテーブル参加者)

「クラウドなど新聞を賑わすIT用語を不十分な理解のまま、取り組めと言われることを避けるために、そうしたキーワードを中心に勉強会を行っている。勉強会は経営層だけが対象であり、勉強会を行うこと自体がプレゼンスになると思っている。」(ラウンドテーブル参加者)

「スマートフォンを経営層に持たせている。さほど説明しなくとも使ってもらえ、使ってみると便利さを感じてもらえる。そこから『ITはこんなに便利だ』という感覚を分かってもらうようにしている。そうすると経営会議の場で、『最近こんなものが便利だ』と話題になり、経営側からIT部門に具体的なニーズが降りてくる。泥臭いが、そういったアプローチを地道に行っている。」(ラウンドテーブル参加者)

また、事業部門からITキーパーソンを選出させ、事業部内でのIT便利屋的な役割を担わせている企業もありました。ITキーパーソンの役割は以下の4つです。

  1. ITエバンジェリストとしてIT部門の情報を広報させる
  2. ITメッセンジャーとしてITの新しい動きを発信させる
  3. ITインストラクターとして、新しいツールを導入した際の教育指導をさせる
  4. ITサポーターとして、PCなどITに関するサービスデスク役を担当させる

この仕組みのポイントは、IT部門が指名するのではなく、あくまで事業部内でキーパーソンを指名させることです。各事業部内にITキーパーソンを置くことで、ITに対するシンパシーを持つ人材とのネットワークができ、また、そこからITへのシンパシーが伝播していくのです。

また、事業部門に対してIT部門の役割を認知させる試みとして、事業部門の策定した中期計画に沿ってITの側面での戦略マップをIT部門側で作成し、それを事業部門とすり合わせる取り組みが紹介されました。

フレームワークとしては、バランス・スコアカードを用い、事業部の中期計画に沿って、内部プロセスの課題、内部プロセスを実現するためにITで何ができるのか、結果として、財務指標にどう繋げるかという指針を示すのです。

これは、IT部門から仕掛けているもので、決して乗り気な事業部門ばかりでもありませんが、IT部門が事業部門に対してモノを語るための武器を持つことで、プレゼンス向上に結びつける効果的な取り組みであると言えるでしょう。

IT部門が現在価値を示す説明力を持たなければ将来価値を築くことはできない

議論を通して、IT部門のプレゼンス向上が喫緊の課題であることがわかりました。結果は空気のような存在と認識され、そのプロセスを評価する技術はIT部門以外には持たない。ある意味不遇な役割を背負ったIT部門。

IT部門に必要とされるのは、まずはIT部門が現在提供している価値を示す説明力でしょう。経営が積極的にITの価値を評価する軸を持たない以上、IT部門自らその価値を認知させていかなければなりません。ラウンドテーブル参加者の発言に、「経営に必要なのはITリテラシーではなく、ITシンパシーである」というものがありました。

ITの価値を測る技術的な指標を経営に理解させる努力は必要ありません。経営がITの価値を実感できるシンパシーが必要です。経営の目線でITの価値を実感させることができる説明力とはどのようなものか。これを追求することが、経営に貢献するITに直結すると思われます。

(ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)