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第5章 クラウドはグローバルITに貢献できるのか

クラウドが実現するグローバルITインフラの整備

ユーザ企業のグローバルITへのIT領域の支援とは何か。

ラウンドテーブルでは、この疑問を、「グローバルITのゴールを実現するうえで、『クラウド』が解決してくれるもの、あるいは課題を緩和してくれるものは何か」という問いかけで、「IT領域の支援」を「クラウド」に置き換えてラウンドテーブル参加者に聞いています。【図4】

図:グローバルITのゴールを実現するうえで、「クラウド」が解決してくれるもの、あるいは課題を緩和してくれるもの【図4】

もっとも大きな期待は、持たざるITで、グローバルでのITインフラの整備が実現することになります。

たとえば、クラウドによるグローバルITインフラによって、海外での新規事業を素早く立ち上げる環境を提供できることが指摘されました。

「海外で一斉に小規模の新規事業を立ち上げようとするとき、クラウドで共通のITインフラを用意し、ネットワークを使って、バックアップや更新の運用もサービスとして委託できれば、ビジネスのスピードが速くなります。」(ラウンドテーブル参加者)


「持たざるIT」の利点で考えると、専門性が高いシステムや、用途が限られているシステムを生かして、素早く立ち上げ、限定的に使うメリットや、業界で共通するシステムをコンソーシアム型でクラウド利用することへの期待が議論されました。

また、ディザスターリカバリとしてのクラウド利用の期待の声もありました。

「共通の会計システムを全社的に使用する場合、ディザスターリカバリが必要になる。いつ必要になるか分からない仕組みのために、リソースを構えるのは現実的ではない。そういう部分をクラウド化して外に出せないかと考えている。」(ラウンドテーブル参加者)

一方、ITリソースの調達方法をクラウド化することで、効率性と同時にガバナンスの強化に結びつけることができます。

「当社の場合、海外に小規模な会社が多いので、それぞれにIT担当者を置くと、コスト面、人材面でも非常に厳しい部分があります。そこにクラウドを利用することで、各社の負担を少なくし、どこかに一極集中して管理するアウトソースができれば、コストの削減はもちろん、セキュリティなどの問題が解決できます。」(ラウンドテーブル参加者)

「今はセキュリティという切り口で、セキュリティレベルの目標を設定し、ガバナンスを強化しようとしています。OA系のネットワークや文書共有の部分でセキュリティを担保とした、統一した仕組みを構築しようとすると、今は少しコスト高になるものの、それがクラウド化した暁にはきっとコストダウンできると考えています。」(ラウンドテーブル参加者)

本ラウンドテーブルで何度も課題として議論されたのが、ガバナンスの強化です。ITの側面からガバナンスを強化しようとする場合、ガバナンスの大方針を作って、それをトップダウン式で適応していくことがあるべき姿ですが、共通化できる領域を広げ、ボトムアップ式にガバナンスの範囲を拡大させていく、というアプローチもあり得るようです。

これまで、IT調達の手段が限られていたため、個別最適になっていたシステムをクラウド化に切り替えていくことで、IT調達のコストを下げると同時に、管理を集中させ、ガバナンスの範囲を拡大することが可能になるという考え方です。

インタフェースHUBをアーキテクチャとして提供するクラウドサービス

クラウドに期待するサービス価値を考えた場合、HaaS,PaaS,SaaSという階層で分類する考え方が一般的ですが、システムを連携するアーキテクチャをいかにサービスとして利用できるかという発想も議論されました。

具体的には、NECが基幹システムと周辺システムを連携させるために構築した、インタフェースHUBの機能についてです。

グローバルで基幹システムを統一したとしても、周辺システムをそれに合わせて一新しない限り、周辺システムとの連携のためのアドオン開発が発生することになります。NECでは、基幹システムと周辺システムとの間にインタフェースHUBという機能を置き、データの整合性をとることで最小限のアドオン開発で周辺システムとの連携を可能にしました。

ラウンドテーブル参加企業の中には、ERPとは別にフロントの基幹システムを持ち、バックエンドのERPとフロントの基幹システム、両方のデータを抽出するDWHとの連携を実現するために、NECのシステムと同様に、インタフェースHUBが軸となるシステム構造を持つ企業がありました。しかし、インタフェースHUBの構築に大きなコストがかかることが課題でした。

現在、NECが提供するクラウド経理という標準システムを使用する場合、ユーザ企業固有の周辺システムとの連携を可能にするインタフェースHUBを標準的に提供することは可能ですが、お客様が独自に構築した基幹システムと周辺システムとを連携させようとする場合、大規模なSI開発でインタフェースHUBを新たに構築しなければなりません。

このインタフェースHUBの機能がサービスとして提供できることが理想です。

NECでは、「インタフェースHUB アダプタAMOサービス」の構想もあり、複数の企業で共通化できる部分を展開できる可能性があります。しかし、NECの経営システム改革で経験したことは実証できていますが、そこからさらに1歩踏み出した領域はまだ検討できていません。

将来的には、インタフェースHUBを中心に、基幹システム、統合マスタ、BIという構造を包括したアーキテクチャとして、お客様のIT構造の中に提供していくことが、ITベンダーとしてのクラウドサービスの理想像の一つであると議論されました。

クラウド活用の御旗によるITの中央集権化の推進

クラウドの利用は、どちらかというとインフラのレイヤー、あるいは情報系システムにおけるアプリケーションのレイヤー、専門業務におけるアプリケーションのレイヤーを中心に語られることが多かったのですが、今回のラウンドテーブルでは、基幹系システムのクラウド利用も議論の対象になりました。

「10年後、20年後のことを考えると、システム上、分離が可能であれば基幹系であってもグローバル標準を切り出して外でやってほしいという思いはあります。我々ユーザ企業がやるところは、競争優位性はここだとファーカスしたところにしたいと思います。あとは勝手に動いていてほしい。問題があれば、電話一本で直してくれるのが、あるべき姿です。基幹系がダメというのではなく、違う切り口で考えたいと思います。」(ラウンドテーブル参加者)

NECも経理分野でクラウドでの基幹業務システムのサービスを始めているように、今回のラウンドテーブルでは、基幹系システムのクラウド利用に対して、信頼性、機密性、可用性についての不安の声はあまり聞かれませんでした。

むしろ課題とされていたのは、ガバナンス面です。オンプレミスのERPもクラウドの基幹系システムも、標準システムを導入することに変わりはありません。標準システムに準拠させるためのガバナンスのハードルは同じなのです。

クラウド利用が、ラウンドテーブル全回を通してグローバルITの前に立ちはだかる共通の課題とされてきたガバナンスの問題を解決してくれるのか。

これを、「クラウド活用の御旗によるITの中央集権化の推進」ととらえたとき、その期待は高いものであると感じます。

先述したように、グループ企業に対するIT調達の効率性を高めるためには、クラウド利用という選択肢はとても魅力的であり、かつまた、スピード経営やIT調達コスト圧縮に対する圧力から、安価で利用しやすいクラウドを一部のレイヤーで利用することへの要求が事業サイド側から高まっています。

さまざまなレイヤーでクラウド利用を促進していった結果、ボトムアップ式に中央集権で管理するITの範囲が拡大するでしょう。

また、経営の視点で見た場合、業務の標準化に伴うIT投資コストの高さが、業務改革を躊躇する要因となっており、ERP導入と比較した場合の基幹系へのクラウド導入は、コスト面で経営の業務改革意欲を高めるものになります。クラウド利用が、グローバルITに必要なトップダウンでのガバナンス強化を勝ち取ることに結びつくのです。

クラウドのキーワード先行を利用する

クラウドが企業システムにどれだけ使えるのか、という詳細な議論の前に、「クラウド」というキーワードだけが先行して、業界だけでなく、経営者の関心も集めているという風に、今現在感じています。経営者の「うちでクラウドは使えないのか」という突然の問いかけに、IT部門が振り回されるというケースもよく耳にします。

しかし、これは悪いことばかりではありません。内部統制もそうですが、経営が高い関心を持つイベントに合わせてIT戦略を構築することで、トップダウンでのIT戦略を進めやすくなります。同じ標準化でも、ERP導入では困難だったものが、クラウドとキーワードが変わった途端に、トップのコミットが変化してくることもあり得るでしょう。一方で、利便性やコストの面で、業務の現場からのクラウド利用の要望も高まっています。

ある意味、キーワード先行のクラウド化への圧力が、トップダウンとボトムダウンの両方で、標準化されたシステムの領域を広げることに貢献し、結果的にITの中央集権化につながることが期待できます。

「クラウド」という御旗は、大上段にかざすことなく、キーワードへの関心をうまく利用することで、IT中央集権化の御旗として機能するのではないでしょうか。

全5章を通して

全5章のラウンドテーブルを通して、グローバルITを議論してきました。対象となるのは、インフラであり、データであり、アプリケーションというITの要素だけでなく、業務プロセス、ITガバナンス含めた、まさにグローバル経営そのものです。

グローバルな経営状況をさまざまな視点でレポートする指標を通じて、現状の経営状態を把握し、グローバルな経営品質のゴールを経営トップが意思決定する。グローバル企業におけるIT部門の役割は、グローバルで管理するKPIを設定し、同じ粒度で管理できる環境を提供し、経営トップの意思決定を支援することとされてきました。

「どのように管理するか」は、「どのように意思決定するか」という目的によって異なる機能要件です。「どのように管理するか」という要件次第で意思決定の質も違ってきます。

今回の議論を通して、経営トップは意思決定のために必要な情報を個別に要求はするが、管理の体系を機能要件として具体的に指示するわけではないことがわかりました。それだけに、グローバルで管理するKPIをいかに設定するか、そしてそれを実現するグローバルなIT環境をいかに実現するかが、意思決定の質を左右することになり、ビジネスマジメントの視点が不可欠になります。

グローバルITを整備することとは、経営に対して、グローバルで求める経営品質の解を示唆することであり、グローバル経営そのものにコミットすることと言えます。

(ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)