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第4章 コンサルティングは要らない、必要なのはプロジェクト

ベストプラクティスという言葉に価値はない

それでは、各企業がめざすグローバルITのゴールを実現するためにどのようにすべきか。

ラウンドテーブルでは、ITベンダーの力を借りながらそれを実現しようとした場合に、ITベンダーに期待できることは何かという視点での議論が交わされました。

具体的には、第2章で紹介したNECの経営システム改革の成果として、その成功要因をお客様にもたらすサービス提供が可能か、が議論されました。

まず、お客様がグローバルな業務プロセス改革、IT改革の支援として求めることは何か。重要なキーワードとしてラウンドテーブル参加企業から出た言葉は、
「ベストプラクティスは必要ない」というものでした。

「過去、コンサルタントのベストプラクティスと言う言葉に騙されてきた。ERPの導入コンサルタントに『このERPはベストプラクティス』と言われるが、機能不足を『ベストプラクティス』でごまかしているのではと考えてしまう。」(ラウンドテーブル参加者)

「ベストプラクティスは比較の対象だが、目指すものではないと考えている。また会社のカルチャーも異なるので、すべてが同じになるわけではない。」(ラウンドテーブル参加者)

ERPの標準テンプレートは、どの企業においても最適に当てはまるはずのもの、ある意味業務プロセスの最大公約数としてのベストプラクティスと称されます。その標準に合わせることで業務改革が実現するという理屈です。しかし、現実には現場に展開する過程で大きな抵抗に合い、アドオン開発の多いERP導入に落ち着くか、業務改革そのものが挫折することが大半です。

それでは、ベストプラクティスの何が問題なのでしょうか。

「欧米の企業ではトップダウン型のアプローチでプロジェクトが進みますが、日本の企業でそれを行うのは難しいでしょう。CIOを置いている企業も少なく、担当のトップだけでは動きづらいものなのです。」(ラウンドテーブル参加者)

「コンサルタントは大まかなベストプラクティスを持っているが、具体的な実現方法について知恵を持っているわけではない。」(ラウンドテーブル参加者)

そもそものベストプラクティスとされたものの品質の問題。標準とされたものが、日本の企業の現状には合わないのなのかもしれません。

また、強力なトップダウンで現場に有無を言わせず新しい業務プロセスを徹底させるというアプローチ自体が、ボトムアップ型で、現場の痛みを無視できない日本の経営風土に合っていないのかもしれません。

「当社で最初に苦労したのはプロジェクトの準備のフェーズです。方法論が確立できておらず、経験ある人材もおりません。ベンダーの協力も仰ぎましたが、彼らはグローバルベンダーと言いながら、知っているのは欧米発のグローバル化だけで、日本発のグローバル化経験のある方は非常に少ないようでした。感覚や文化の違いの擦り合わせが上手くいかず、準備にパワーを割かれました。導入の方法論も教科書的ではなく、各会社の状況を考慮したハンズオンのスタイルでの課題解決が重要です。」(ラウンドテーブル参加者)

となると、求められる支援は、

  • 実行可能なベストプラクティス(標準業務プロセス)の提供
  • 業務改革プロジェクト実行の直接的な支援

となります。

ITベンダーに期待されるプロジェクト実行支援

NECから経営システム改革の成果をもとに、お客様のグローバルITに対して、NECが支援可能なサービスが、ラウンドテーブルの中で紹介されました。【図3】

これは、お客様がグローバルITのゴールを実現するために必要な整備事項に対して、NECのリソースや経営システム改革の経験値から今後提供可能と考えられるものをラインナップしたものです。この中には、実際に提供がスタートしているサービスと、現在開発中、あるいは構想中のサービスもあります。

ラウンドテーブルでは、これをグローバルIT総合支援サービスの一つの仮説ビジネスモデルとして、ITベンダーに期待するサービスとは何か。具体的な期待や肉付けの議論が行われました。

図:IT標準化対象(グローバルITの目指す姿)とNECが提供すべきサービス【図3】

大きくはビジネス領域の支援と、IT領域の支援に分かれます。ここではビジネス領域の支援についての議論を紹介します。

1.実行可能なベストプラクティスの設計ノウハウ

NECでは、自らの経営システム改革の成果をもとに、企業の業務プロセス標準化を支援するBPRのコンサルティングサービス「ビジネスモデルコンサルティング(以下、BMC)」をスタートさせています。(詳しくはこちらをご覧ください

経営システム改革で蓄積されたBPRノウハウやBPR人材の活用をもとに、現状のビジネスプロセスマネジメント成熟度をアセスメントし、改革のロードマップを作成、業務プロセスとITの標準化推進のために「業務プロセス改革」「コード標準化」「BPMツール導入」のメニューを準備し、さらにそれらの結果をグローバルにロールアウトするサービスをコンサルティングメニューとして提供しています。

業務プロセス標準化の手法は、NECが実際に経営システム改革で実行した方法論を基にしています。この手法によって何年も時間がかかると言われる業務分析を短期間でハイレベルに固めることができるのが特徴です。

ラウンドテーブルの議論の中で評価されたのは、短期間で標準業務プロセスを設計する価値よりもむしろ、日本の経営風土に合ったベストプラクティスであることをNECが身を持って実証していることでした。

NECでは、事業パターンを4つに再編し、事業パターン間で共通する業務の中で標準化の対象とする業務を絞り込みました。その結果、NECにとって非差別化領域のコモディティな業務プロセスである経理・販売・購買の3つの業務領域を標準化の対象としました。

標準化において、標準化の対象を適切にスコープすることがまずは重要です。同じ業種でも、企業によって標準化が可能な業務領域は異なります。そこを一律に標準化してしまうことは決してベストプラクティスではありません。

「当社ではグループ各社の事業がそれぞれ異なっています。扱うものの単位もミリグラムであったり、トンであったり、平米の場合もあります。サプライチェーンの長さも異なります。その中で販売系を一つのシステムで統一することは最初からあきらめています。当社では、会計と購買、そして国内に絞った人事給与の3つをスタッフ系業務の統合として検討しました。(ラウンドテーブル参加者)

2.プロジェクト実行ノウハウを提供するコンサルティング

いかに日本の経営風土に合ったベストプラクティスであっても、それを全社に展開していくプロジェクト実行フェーズにおいて適切な方法論や手順、また経験値のあるパートナーの支援を欠いたままでは、プロジェクトはとん挫してしまいます。

「部門最適になると、IT部門に話が降りてくるのは最後です。ビジネス改革や構造改革でも、IT部門は最後の段階でシステムの構築を依頼されます。グローバルの中での標準化を目指すとなると、その考え方は通用しなくなるでしょう。新しい考え方をどのように浸透させるかが重要です。グローバルのプロジェクトは一度始めたら止められません。中途半端に止めるとそれまでの投資が無駄になってしまうので、最後まで徹底しなければなりません。その点で怖さを感じます。」(ラウンドテーブル参加者)

ラウンドテーブル参加者からは、プロジェクト実行における具体的な方法論としくみの支援が期待されました。

NECのBPRコンサルティングには、プロセスオーナーを軸にして標準業務プロセスをグローバルに準拠させていくための具体的なステップやガバナンスを強化するマネジメントのノウハウまでが包含されています。

これらはすべて、NECの経営システム改革を実行していく過程で、試行錯誤を経て現場で培われたノウハウであり、それをお客様向けに最適化したものです。

ラウンドテーブルの中では、NECが経営システム改革を実行していくうえで、海外現地法人のトップとどのようなコミュニケーションをとったのか、具体的な会話の中身や、そこで交わされたドキュメントの内容に至るまで詳細なナレッジが共有されました。

それら生々しい現場体験のノウハウがパッケージ化されたものが、お客様がまさに求めるプロジェクト実行支援なのです。

「プロジェクトは最初が肝心ですから、プロジェクトをいかに素早く立ち上げるかというノウハウが必要です。また、各会社の状況を考慮したハンズオンのスタイルでの課題解決が重要です。PMOではWBSや組織図の作成しか話に出てきませんが、実はその裏にある、経営トップとの合意形成やメンバーの募り方といった、実行ノウハウが重要となるのです。」(ラウンドテーブル参加者)

3.プロジェクトへのハンズオンの支援

プロジェクトを実行していくうえでは、方法論を実践する中で個別の対応が必要な事例や属人的なノウハウが不可欠なものが多々あります。これらをタイムリーに提供していくためには、事例が網羅された方法論の提供だけでは不十分です。ときには、お客様に代わって現場を説得することも含め、プロジェクトに入り込んだハンズオンの支援が求められました。

「まずは、現場に納得させる手順が必要です。自分達の方法ではダメなんだと第三者の視点から提示していただきたい。日本企業ではずっと一つの方法に慣れている方が多いため、自分達が行っている方法が本当に一番良いのか確信を持っていません。それに対してベストプラクティスを第三者から示していただきたい。」(ラウンドテーブル参加者)

NEC側からは、「業務プロセス改革 遂行支援PMOサービス」という構想中のサービスがハンズオンの支援として示されました。

具体的には、プロジェクト遂行におけるさまざまな現場のナレッジを共有するポータル機能を提供し、必要な情報をタイムリーに提供することがサービスの内容として予定されており、プロジェクトリーダーの派遣も視野に入れています。

もちろん、NECがグローバル展開に成功した要因である泥臭い交渉テクニックを属人的に持っているタフネゴシエーターの派遣が実現すれば、それが最良のハンズオンサービスであるという認識は、ラウンドテーブル参加者の中で一致していました。

4.コードの標準化やグローバルコードセンターのBPO

グローバルで業務プロセスを標準化していくことは、コードの標準化を必然的に伴います。コード標準化の作業そのものも膨大な工数が必要になります。まずは、コードを標準化するプロセスの支援が求められました。

「コード標準化の推進は一番苦しい作業です。勘定や取引までなら対応できますが、長い間事業部ごとで構築した上流システムにおける品目の種類はバラバラになっています。その標準化では労力が非常に求められます。」(ラウンドテーブル参加者)

NEC BPRコンサルティングにおいて、「コードオーナー制度」や「コード管理プロセスの標準化」、「グローバルコードセンターでの一元管理」といった一連のコード標準化と運用を支援するサービスが紹介されました。

一方、グローバルコードセンターのBPOも話題に上りました。ユーザ企業が定めたグローバル統一コード体系と採番ルールに則り、コード採番、マスタメンテナンス、採番ルールの維持というオペレーショナルな部分をアウトソースするというサービスのしくみです。

NECでは、NECグループ内のグローバルコードセンターでユーザ企業のコードセンター業務を受託するサービスを検討しています。

ただ、これらのBPOサービスが、純粋にオペレーショナルな部分をサービス領域と想定しているのに対し、ラウンドテーブル参加者の多くは、BPOの価値として、コードを採番する判断業務の領域までを求めていました。

「コードセンターで何を行うかが重要です。単純にコードの採番であれば自動的に採番ができます。しかし、コードは業務プロセスやデータ標準とリンクしているため、それらが様々なシステムに網の目にように入り込むとIT部門に問い合わせがあります。その問い合わせへの対応や問題解決に苦労しています。」(ラウンドテーブル参加者)

「コード管理にはやはり判断業務が入ります。規則を決めても、規則に当てはめていく段階で必要となる判断があります。その判断までお任せできるのか。」(ラウンドテーブル参加者)

判断業務までも受託するとなれば、ユーザ企業の事業の意思決定にコミットすることとなり、アウトソースとしての切り出しは難しいかもしれません。また、外部との契約に基づくプロセスが厳密に守られるため、融通が効かないという点が、逆にコード管理をアウトソースする際のメリットと考えると、判断業務を委託することは、デメリットになるかもしれません。ここは、今後の議論に課題を残しました。

一方で、グローバルでコードを標準化した場合、制度主管が業務側からIT部門に移管され、それまで業務部門が管理していたコードのメンテナンスや新しいルールの意思決定というタスクがIT部門に集中することになります。ガバナンスの面では最良ですが、IT部門の権限の強化とリソースの強化が必要になります。

このように、グローバルITを整備することで発生する、IT部門の新たなタクスの受け皿としてさまざまな領域のBPOがいずれ必要になるであろうという意見も出ました。

5.人材育成支援

2008年度に開催したCIOラウンドテーブルにおいても、お客様のIT部門の人材育成において、ITベンダーの役割を期待する声が多くありました。

お客様とIT部門の間での人材ローテーションや、プロジェクトへの育成目的での人材の配置など、さまざまなアイデアが議論されました。

今回のラウンドテーブルでは、「CIO補佐官派遣」、「人材育成型コンサルティング」という構想がNECより紹介されました。

ラウンドテーブル参加者の中には、IT部門を、将来的には全社の経営改革を仕掛ける部門として育成したいというビジョンを掲げる企業もありました。そのためには、段階的な組織づくりと地道な人材育成が必要です。

「当社でも、2年か3年後には、IT部門が母体となって業務プロセス改革を行う部隊を作っていきたいと考えています。どのような組織になるか構想中ですが、まずは、業務分析ができ、業務とシステムを理解し、分析ノウハウを持ち、業務改革のアイデアを出せる人材を、社内で3年間で育てようと思っています。そのために、若手をどのように教育するのか、人材をどのように補強するかという点を思案しています。」(ラウンドテーブル参加者)

IT部門のミッションの変革を支える人材を育成する決め手がお客様にはない中、経験値を持った人材をITベンダーから送り、直接的な支援と、人材育成の方法論の確立に寄与できるとすれば、業務改革部門へのIT部門の進化が現実味を増すでしょう。

お客様の期待値がNECの経営システム改革の経験値をサービスへと昇華させる

本章の議論では、CIOからITベンダーへの期待値も込めて、グローバルITを支援するための多くのサービス仮説について議論が交わされました。NECが具体的に提示したものの中には、サービスとして既に提供が始まっているものや、構想だけのものもあります。

ただ、構想中のサービスの中にも、NECの経営システム改革の中で既に経験値を持っているものが数多くあります。それらをノウハウとして、またはITサービスとして、一定の品質でパッケージ化できるか、そこがサービス化へのハードルになります。

本ラウンドテーブルで共有された経営システム改革の具体的なエピソードを通して、NECの経営システム改革の経験値の中には、丁寧に検証していくことでノウハウ化し、サービスとして昇華できるものが他にも豊富にあると感じました。ラウンドテーブルの場で、お客様のCIOが期待するものを顕在化していく中で、仮説のビジネスモデルが現実のものと進化していく過程を実感した気がします。

(ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)