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第3章 IT主導のグローバル業務プロセス改革は幻想か

グローバルな業務プロセス改革のハードル

第1章で、各企業が思い描くグローバルITのゴールはそれぞれ異なると申し上げました。しかし、経営の意思決定を迅速なアクションに結びつけるスピード経営のためには、業務のシンプル化・標準化は不可欠になります。ラウンドテーブル参加企業の多くが、グローバルITの最終的なゴールとしてグローバルレベルでの業務の標準化を挙げています。

ERP導入を軸とした「業務プロセス改革」は、業務部門にとって「仕事のやり方を変える」ことになり、必然的にIT部門が業務改革にコミットすることになります。

ラウンドテーブル参加者の全員が、NECの経営システム改革のように、グローバルでの業務プロセス改革が自社にとって価値のあることと実感しながらも、実際にはさまざまな改革のハードルがあります。

「IT部門としてグローバル標準化に取り組もうとしているが、アメリカの現地法人に行って「グローバルで標準化しましょう」と言っても、『アメリカがスタンダードだ』といわれてしまう。」(ラウンドテーブル参加者)

「海外共通システムで、アジアと中近東にSAPを展開しているが、変更を繰り返しているため、全体を俯瞰してデータを見ることができない。現在、グローバル共通データベースを作成中だが、現地子会社の社長がデータを出し渋るなど、スムーズに進まない。」(ラウンドテーブル参加者)

一つは、現場、あるいは海外の現地法人が言うことを聞かないこと。業務やシステムが個別最適になっている現状に対して、日本の本社から、しかもIT部門が主体となって統制をかけていこうとすると反発が大きいわけです。特にM&Aによって統合した海外現地法人などは、独自のやり方を保持しているので、グローバルな効率性という名のもとに標準化を訴えていくのはさらに難しくなります。

また、各ローカルに明確な業務プロセスオーナーが存在しないことも大きなハードルです。どこを軸にして適正な業務プロセスを設計し、その適正性を誰が判断するのかが明確ではないため、標準業務プロセスの設計が進まないのです。

「当社はASEAN諸国の現地法人を対象に、業務の標準化に取り組もうとしましたが、断念しました。業務プロセスオーナーが明確になっていないので、各国現地法人の業務プロセスについて誰がもっとも詳しく把握しており、誰が判断できるのが分からない状態で、標準として設計した業務プロセスが適正なのか誰も判断ができないのです。」(ラウンドテーブル参加者)

ITガバナンスか、経営ガバナンスか

先ほど挙げた課題の前者については、ガバナンスの問題と言えるでしょう。IT部門が業務プロセス改革の主導的役割を果たすには、IT部門が事業部門や海外の現地法人に対してガバナンスを徹底させる力が必要です。

「アメリカを除いて勘定コードを統一したが、許可なくコード変更をしてはいけないというルールを徹底しないと、次々と末端のコードが作られてしまう。グローバル製品コードも作成したが、各国で事情が違うということで、結局は変換方式になった。」(ラウンドテーブル参加者)

「システム開発の予算を事業部門に渡してしまうと、どの部門もこういう方法、仕組みでしか仕事ができないと主張してしまいます。本社IT部門がある程度予算を握って割り振るという方式を取りたいのですが、現状は困難です。」(ラウンドテーブル参加者)

IT部門がもっと強い統治能力を持ち、ガバナンスを徹底していかなければ、業務プロセスや業務システムはますます個別最適化していきます。しかし、強いガバナンスは、IT部門単独で持ち得るものなのでしょうか。

「グローバルガバナンスにおいて、システムで縛っていこうとしているが、やはりその匙加減や、現地法人のトップの考え方をどう変えていくか、苦労している。システムだけでは難しい。非常に時間がかかるし、人を変える必要もでてくる。そうした点はシステムを作るよりも大変な部分だ」。(ラウンドテーブル参加者)


「当社は歴史的に業務単位で小さな会社を多数作ってきた。そのため1つの国にいくつも会社がある。それはガバナンスの観点からも無駄が多い。現地の関連会社は統合してバックオフィスは一つにするという、マネジメントの方針を打ち出さない限り、ITだけでどうのというのは難しい。」(ラウンドテーブル参加者)

NECの経営システム改革を支えたガバナンス体制が、グループ再編や事業会社の位置づけの変換など、経営トップが大鉈を振う事業構造改革をベースにしていたように、業務プロセス改革に対する経営の明確なマネジメント方針のもと、IT部門がガバナンスを発揮できる体制を用意することが重要になります。

ITはグローバル業務プロセス改革にどこまで貢献できるのか

IT部門がグローバルな業務プロセス改革にコミットしていくためには、グローバル経営の方針を経営とIT部門で共有し、経営方針をブレイクダウンした形でのIT戦略を定め、必要なガバナンス体制を構築していく必要があります。

ラウンドテーブルに参加したある企業では、経営トップが打ち出した10年スパンの中期の経営目標をIT部門なりに咀嚼し、その実現のためのIT戦略として、今後5年で必要となるITの整備事項、必要な投資額、必要なガバナンスの体制を提案し、経営との合意のもと、IT部門が主導して、グローバルな業務プロセス改革のプロジェクトをスタートさせています。

この企業では、経営との合意を得て、グローバルでの基幹システムに関する投資予算はすべて本社IT部門が握ることになりました。マーケティングやCRMといった領域はビジネスのスピードを考え、各事業部門に決裁を委ねるものの、販売・物流、会計、人事などの基幹システムの予算は、本社IT部門から各事業部門へ予算を配賦する形にしました。これによって、実質的に本社IT部門のガバナンスが徹底できる体制を築いたのです。

このように、経営の明確な方針とIT部門の戦略が一体となることで、グローバルな業務プロセス改革をIT部門が主導していくことは可能になります。

一方で、IT部門を後押ししてグローバルな業務の標準化に対してガバナンスを発揮することに、必ずしも経営は積極的ではありません。また、コンサルティング的なタスクを実行するリソースが必ずしもIT部門の中にあるわけではありません。

「経営からグローバルITの整備を命題として示されているが、特に具体的な要望は出ておらず、IT部門単独でガバナンスを考えてもうまくいかない。」(ラウンドテーブル参加企業)

「IT部門の立場からは、ITの標準化は比較的行いやすい分野だが、業務の標準化となるとIT部門だけでは手に負えなくなる。」(ラウンドテーブル参加企業)

IT部門がBPRコンサルティング的や役割を果たそうと考える企業もあれば、ITとしての役割は、経営が意思決定していくために必要なデータを提供することであり、そのためにシステムの側面で標準化することで、業務プロセス改革への後押しをすることと考える企業もあります。

「海外のグループ会社のシステムが異なることから、上がってくる情報のレベルにばらつきがあり、大きな粒度でしか全体を見ることができない。経営からは、同じレベル、粒度、精度の情報を求められる。これらを解決できる一番の方法はシステムの統合であると思う。また、ITサイドからシステムを統合することで、内部統制にかかるコストが削減できる。」(ラウンドテーブル参加企業)

「業務標準化や連結経営への貢献など会社の大きな戦略に対し、ITが後押しできるように、全社の業務改革や経営のスピード化を支援していくのがIT部門の役割。IT部門が主導して業務改革を行うのは難しいが、IT部門として可能な全社の業務改革を支援していくことが使命だと感じている。」(ラウンドテーブル参加企業)

IT部門が業務改革にコミットすることで経営ガバナンスの課題が見える化する

すべての業務プロセスにITがコミットしている限り、業務改革というマターにIT部門は必然的にコミットしてきます。一方、IT部門は、経営企画部門や社内コンサルティング部門として業務改革プロジェクトに対する十分なリソースを備えているわけではありません。また、必ずしも業務改革に対する経営の強力なガバナンスの後押しがあるわけでもありません。言ってみれば、微妙な立場で、業務改革、IT改革にコミットを要求される立場です。業務改革プロジェクトを遂行するに伴い、改めて経営ガバナンスの課題が見える化しているのが現状です。

一方で、内部統制という、企業としての経営ガバナンスのあり方を監査する機能が実際にIT部門のマターとなっており、IT部門には、リスクという観点で経営ガバナンスの課題を見える化し、あるべきガバナンスの姿を描く使命が課せられています。

それと同じように、業務改革に必要なガバナンス体制を経営に提言することもIT部門の使命と言えるのかもしれません。

(ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)