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第2章 NEC経営システム改革に学ぶべきものはあるか

NECが経営システム改革を断行した背景

本ラウンドテーブルでは、NECが2008年から取り組んだ経営システム改革の内容が詳しく紹介され、グローバルITの一つの参照モデルとして、議論の題材になりました。

400億円ものコストを投じ、約1年がかりでグローバル業務標準を設計し、次の1年でグローバル拠点への説明とシステム実装を並行して行い、2010年4月よりまずは経理業務で新しい基幹システムの本番稼動がスタート。2010年10月からは販売・購買システムの本番稼動がスタートしました。

経営システム改革に先立つ事業構造改革では、国内外にあるグループ会社を役割別に整理するとともに、海外は5つの地域統括会社が各エリアを統括する形とし、日本本社とのマネジメントラインをシンプルにしました。

また、事業セグメントごと地域ごとに異なっていた業務プロセスをシンプル化するため、事業を4つのビジネスパターンに分類し、販売・経理・購買という基幹業務に関しては、新たに設定された業務プロセスオーナーのもと、グループグローバルで共通のグローバル業務標準をつくり、シンプルな業務プロセスに統一しました。

販売・経理・購買の各業務領域においては、プロセスオーナーのもとで、経営システム本部のスタッフを中心に数十人単位の専任スタッフを投入。グローバル標準の業務設計に数カ月を要しています。文字通り一大プロジェクトとなったわけです。

このプロジェクトによって、ITのTCOを前年度比で20%以上削減し、このプロジェクトのIT投資コストは、この削減分でまかなえるという効果をもたらしています。

IT部門が軸となったグローバルな業務プロセス改革とそれに伴うグローバルIT改革プロジェクトとしては、ベストプラクティスと言っていいでしょう。

NECが経営システム改革を取り組んだ背景を列挙すると、企業価値の最大化を目指し経営のスピードアップ、連結業績の見える化、内部統制強化や将来のIFRS対応といったコンプライアンス強化になります。これだけを見ると、グローバルにグループ経営をする企業が抱える共通課題そのものです。

ただ、改革を必要とするすべてのグローバル企業が、改革に踏み出すわけではありません。グローバルで競争に生き残るためには、事業構造改革からIT改革に至るまでの抜本的な経営改革が必要であるという、トップの並々ならぬ決意があったことが大きな背景です。

本プロジェクトが成功することでグローバルな競争力を勝ち取ることに加えて、ITベンダー自らグローバルIT改革に成功した実績が、ショウケースとして今後の営業活動にプラスをもたらすことも、もちろん大きな魅力だったでしょう。

NECの経営システム改革の成功要因

議論を通して、NECの経営システム改革が成功した要因が、以下の3つのキーワードとして見えてきました。

  1. 強力なトップダウンによる大規模投資とガバナンス体制
  2. グローバル業務プロセス改革の実行ノウハウ
  3. 基幹システム構築におけるテクノロジー

1.強力なトップダウンによる大規模投資とガバナンス体制

  • 社運をかけたトップダウンプロジェクトとしてのガバナンス体制
  • 現場の業務内容に精通した人材を投入

まさに社運をかけたプロジェクトとして、経営トップの強力なトップダウンのもと、大規模な投資とプロジェクトを断行するガバナンス体制が可能になったわけです。

グローバルな標準業務プロセスの設計のために、経営システム本部内に数十人の専任スタッフをおいたわけですが、そこには過去にさまざまな現場で業務改革を経験した人材や、コンサルティング人材、各業務部門で現場の業務内容に精通した人材を既存の社内業務等からこのプロジェクトにシフトして投入することができました。

また、リーマンショックの影響で新基幹システム以外の社内システム開発は削減の方針のもと、グループ開発スタッフを新基幹システムにシフトできました。

なにより全社的な業務改革を成功させるためには、強力なガバナンスが不可欠ですが、プロジェクトスタートに先だって実行されたグループの再編も含む事業構造改革、そして経営システム本部内に新設された業務プロセス改革部や業務プロセスオーナーに権限を集中させたガバナンス体制が、プロジェクトを成功させる大きな要因になりました。

2.グローバル業務プロセス改革実行の方法論

  • グローバル標準業務を設計するメソドロジー
  • グローバル展開モデルにおける標準化領域と固有化領域の決定ルール
  • グローバル展開におけるマネジメントの方法論や、タフネゴシエーターの属人的スキル

一方、標準業務プロセスを設計するメソドロジーや、グローバル展開していくための方法論、マネジメント体制づくり等すべての方法論が、試行錯誤を経ながら適切に機能していったことがもう一つの大きな要因です。

NECが持つERPのコンサルティングノウハウや、過去のNECにおけるさまざまな業務改革の経験値を結集して、販売・経理・購買のグローバル標準業務プロセスが設計されました。

これらをグローバルで展開するにあたっては、グローバル標準、オーバーシーズ標準、ローカルと3つのレイヤーで、標準化に準拠する領域と固有な業務プロセスを許す領域を設定し、丁寧なステップを踏んで各領域をどう定義していくかをグローバル拠点と調整していきました。

グローバル拠点とのやりとりでは、周知から適合性評価、調整のための綿密なステップはもちろんのこと、泥臭いネゴシエーションができる属人的なノウハウを持つ人材の投入も重要な要素です。

優れたメソドロジーに、現場で試行錯誤する中でのさまざまな創意工夫が有効に機能し、プロジェクトを成功に導きました。

これらの経験値は、ビジネスモデルコンサルティング(BMC)として、後に業務改革のコンサルティングメニュー化されることになります。

3.基幹システム構築におけるテクノロジー

  • 基幹システムと周辺システムとを連携させるインタフェースHUBのテクノロジー
  • 大規模なSAPをWindows SQL Serverで構築したテクノロジー
  • システムをサービスコンポーネント化してグローバルでデリバリするテクノロジー

ITベンダーであるNECが自前でシステム構築する部分に強みを発揮するのは当然のことですが、今回のプロジェクトで特にテクノロジーの強みを発揮したのは、基幹システムと周辺システムを連携させるインタフェースHUBの開発と言えるでしょう。

今回、基幹システムと周辺システムとの間に、データギャップや、タイミングギャップ、ロジックギャップを解消する、インタフェースHUBという機能を置いています。これによって、基幹システムと周辺システムの連携部分でのアドオン開発を当初想定の約600件から、200件近くまで極小化することができました。この機能は、将来的にはEnterprise Service Busとしてサービスで提供していく構想です。

また、今回の標準システムでは、さまざまな技術が採用されていますが、グローバル規模のSAP構築にWindows SQL Serverを採用したことは大きな特徴です。Microsoft社とも入念な協議を重ねることで、安定した性能を確保するための数多くのナレッジを蓄積しました。これらは、オープン・ミッションクリティカルシステムの構築・運用チームの品質を向上する重要な果実となっています。

これら基幹システムは、プラットフォームから業務アプリケーションまでをサービスコンポーネント化し、グローバルな拠点にクラウドサービスとして提供する形となります。これは、そのままお客様に対するグローバル・クラウドサービスの基盤となります。

「NECの経営システム改革は」お客様にとってのモデルになり得るか

NECの経営システム改革は、IT部門が軸となった経営とIT改革の、文字通りベストプラクティスと言えるでしょう。

ラウンドテーブルに参加する企業の多くもこの事例を一つのベンチマークととらえています。一方で、同じことをユーザ企業が実現できるのか。先述した成功要因を、お客様が満たすには高いハードルがあります。

「当社では内部リソースが不足している。当社の場合はIT部門のみならず、経営企画部門や事業部門を総動員してもNEC規模の経営システム改革にリソースを割くことはほぼ不可能です。グループ内にコンサルティング会社やシステム会社を持ち、SAP導入に際しても原価ベースで上流工程からシステム構築が可能なNECと我々では事情が違います。」(ラウンドテーブル参加者)


第一にお客様には、NECのようなリソースがありません。もちろん、これだけの規模の改革を実行するには、外部のコンサルティング、ITベンダーの力を借りことが現実的です。逆に言えば、外部パートナーの力を借りればリソースを調達することは可能です。

ただし、
「トップに対して、業務を標準化するために、これだけのコストがかりますと言えば、『そんなに膨大なコストかかるぐらいなら、標準化しなければいいのでは?』と言われてしまいます。」(ラウンドテーブル参加者)

「トップダウンが当社の社風にないこと、仕事の改善・改革は現場の要員による人海戦術を得意としていること。ここが大きなポイントです。」(ラウンドテーブル参加者)


と、業務プロセス改革に対するトップの考え方も大きなハードルです。NECの経営システム改革の成功要因のもっとも大きな柱が、経営トップの強力なトップダウンであったことを考えると、まずはこのハードルを乗り越えることが条件と言えるかもしれません。

それでは、NECの経営システム改革は、ユーザ企業にとっては、まったく事情の違う話であり、参考にはならないのでしょうか。

「正直NECの改革レベルまでは実行できないでしょう。しかし、どのように全体を巻き込んで全社的なムーブメントにしていくか、その点は参考になります。特にグローバル業務標準を海外に展開していく際に行ったワークショップの手法は、ポイントだと思います。」(ラウンドテーブル参加者)

という声があるように、NEC経営システム改革で実行された方法論の一つ一つや、創意工夫した経験値には、各企業がめざすグローバルな業務プロセス改革、IT改革を実行するうえで、導入できるものが数多くあります。

各企業の実状に合わせて、NEC経営システム改革の成果をいかにシェアしていくか、これが重要な論点となるでしょう。

NECの成功体験をお客様の目線に合わせた実行モデルに最適化

企業に対して大規模な業務改革の必要性を、その正当性と教科書的な方法論をもって説くコンサルタントのアプローチは、しばしば机上の論理と批判されます。ITベンダーのERPの提案も同様なニュアンスで迎えられることが多いのが事実です。

今回のNECの経営システム改革は、自ら業務改革を実行したことで、お客様に基幹システムの再構築とそれに伴う業務改革を提案する際に、他のITベンダーにはない、実行者としての説得力を持たせました。

ただし、技術とリソースが豊富なITベンダーであるNECの実行力と、お客様の実行力には当然ながら違いがあります。「NECをモデルに御社でも同じ改革を実行しましょう」は、余りにもハードルが高い要求です。NECにできたことをお客様が実行する場合、どのようにすべきか、お客様の目線に合わせて最適化された実行モデルを提供することが、NEC経営システム改革の本当の成果と言えるでしょう。

(ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)