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第5章 ベンダーに対する期待

本ラウンドテーブルは、企業のIT部門リーダーとベンダー合同で議論がされてきました。ベンダーは重要なIT調達パートナーの一員です。次世代のIT部門が役割を変革していくのであれば、ベンダーに期待されることも変化してくるでしょう。本章では、次世代のIT部門構築のためにベンダーに期待されることとして、議論された内容をふり返ります。

データにまで踏み込んだサービスの提供

ITの構築・運用・維持という業務はやがて、企業のIT部門にとってノンコア業務となり、外部のベンダーにアウトソースするようになる。そして、究極的には、自社ではIT資産そのものを持たず、すべてをベンダーよりSaaS的に提供を受ける「持たざる経営」にたどり着く。ラウンドテーブルの参加者のほとんどが、このようなITの将来像に大きな異論はありませんでした。
ただ、

「今後、サービスの時代に移行するとしばしば言われるが、これまでベンダーがサービスの重要性を説きながら、既存のサービスをユーザーに提供してきた結果、ユーザー企業のシステムは長年のシステム増築の繰り返しによって、データパイプが共通化されておらず、非常に複雑で非効率的なシステムになってしまった。」(ラウンドテーブル参加者)

という指摘もありました。その結果、データの持ち方が各社、ベンダー間で固有になり、1つ1つのデータの定義をユーザー側で整理しなければ、共通プラットフォームによるサービスとしての業務アプリケーションは使えないという指摘です。

「データは自社の中では当然共通化しておく必要があるが、各社の定義とベンダーの定義とが異なっている可能性は高い。その場合には、トランスレーターが必要となる」(ラウンドテーブル参加者)

このトランスレーターの提供もベンダーに求められています。

「トランスレート機能を作って提供するところまでを、ベンダーの役割にしたほうが良い。ベンダーが提供するサービスは決まっていて、そこにユーザー側が合わせなければいけないというスタンスの「サービス」では90年代の繰り返しになってしまう。」(ラウンドテーブル参加者)

「サービスありきではなく、そのサービスを使うためのコンサルティングから入り、データのコネクションブリッヂを作るところまで。」(ラウンドテーブル参加者)

非IT領域への支援

ユーザー企業のデータの定義にまで踏み込むためには、ユーザー企業の業務の部分にこれまで以上に深く入り込む必要があります。
また、ここまで述べてきたように、企業のIT部門が次世代としてめざしている姿に近づくためには、ITそのものの調達だけではなく、人材育成、組織戦略、マネジメントと言ったIT調達以外の領域が重要になります。ベンダーはこれまで、ITサービスの供給能力を向上することで、ユーザー企業のITリソース調達を支援してきましたが、今後は、直接的なIT調達以外の支援をどこまでできるかが求められます。

図【図1】ベンダーに求められる2つの軸

次世代に向けて進化しようとしている、企業のIT部門を支援していくためには、【図1】のようにITサービスの供給能力を高めながら、業務改革の支援や人材育成支援など、非IT領域へのより深いコミットが求められています。

「SLAを結び分業をするのはよいが、分離した領域に一歩踏み込んでオーバーラップをして考える人がいなければ、分業化した箇所が段々とブラックボックス化してくる。」(ラウンドテーブル参加者)

人材育成としての人材交流

非IT領域に深くコミットしていくためには、企業の中に深く入り込んでいく必要があり、そのためには物理的な距離が近いことも必要です。

プロジェクトに張り付く形での常駐ではなく、人材交流によって互いに人材育成をめざすという考え方が積極的に議論されました。

「自社内で人が育つ場所が減ってきているため、周囲にあるフィールドに人を送る方法もあるのではないか。IT部門からベンダーに出向させられる体制があってもよい。」(ラウンドテーブル参加者)

先述したように、今後ITの構築・運用という領域をアウトソースしていくと、技術的には空洞化が生じます。若い人材にOJTを実施しようにも業務によって学習する機会がない、ということが現実に起こっています。
これに対処するために、期間を区切って、ベンダーに出向させることが、現実的なアイデアとして議論されていました。
また、同時にベンダーから出向を受け入れることで、

「実践を通じて、社内SE の育成をしてほしい。」(ラウンドテーブル参加者)

という声もありました。

パートナーとしての補完関係

これまでの議論でわかるように、ユーザー企業自身が、ベンダーに対して、ITリソース調達先からパートナーとしての関係への変革を望んでいるようです。

「従来の受発注をする関係を超え、コンサルティングを依頼する関係を築くためには、お互いにもう一歩踏み込み、パートナー関係を構築していくべきだ。」(ラウンドテーブル参加者)

「SLAを書けば書くほど、パートナー関係とはかけ離れていってしまう。売り買いだけの関係になると、パートナーではなくなっていく。」(ラウンドテーブル参加者)

それでは、ここでの「パートナー」とはどのような関係でしょうか。

「これまでの利害関係が補完関係になることだ。ベンダーは非IT領域への関与を、ユーザー企業はITサービス供給能力を、それぞれ伸ばしていくことで、Win-Win の関係になることだ。」(ラウンドテーブル参加者)

ベンダーが品質を保証し、実際に提供する役務の範囲は明解な境界が存在するが、企業のプロジェクトのどこまでにコミットするかは境界を設けない。この姿勢が必要なようです。

そして、プロジェクト全体の中で、互いのリソースでどう補完し合えるかを考え、役割を分担していく。

「ITアウトソーシング、BPOではなく、パートナリング。仕事を切り分けるのではなく、ともに作り上げていくという姿勢の提案が欲しい。」(ラウンドテーブル参加者)

企業とベンダーが一緒に次世代IT部門のグランドデザインを描く

次世代のIT部門の姿を考えるうえで、ベンダーとのビジネスの接点は、アウトソーシング、SaaS活用というITサービスの調達になりますが、そこに至る過程を一緒につくっていくことで、最適な補完関係が生まれ、パートナーとして一緒にビジネスのゴールを共有できるのです。
「IT部門のあるべき姿とは」。こんなテーマでベンダーからベストプラクティス型の提案を受けてもどうもしっくりきません。すべての課題をカバーするソリューションのフルコースを並べてITサービス供給能力を誇示しても、なんの魅力もありません。大切なのは補完関係であるということが、このラウンドテーブルを通してよく理解できました。
そういう意味で、本ラウンドテーブルにおいて、企業とベンダーが共同で、次世代のIT部門のグランドデザインを描く作業を共有できたことは、パートナーとしてお互いを補完する関係の第一歩になると信じています。

(ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)