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第3章 次世代のIT部門に求められるスキルとその育成

IT部門のコア・ミッションが変化する中で、IT部門の人材に求められるスキルも変わっていきます。ラウンドテーブルでは、「今後のIT部門に求められる能力」として、参加者より、次の4つのスキル/能力が挙げられました。

モデリング能力

業務改革・BPRを推進していく人材として、まずは業務に関する知識が求められます。しかし、業務プロセスを分析し、改革していくためには、業務部門と同等の専門知識よりもむしろ、業務の本質を捉える能力が重要であると参加者の多くは考えています。

「業務知識の細かい部分に関しては業務部門の方が優れている。しかし、業務に関しては知識も経験も豊富だが、その業務の本質、その業務が何を見て何をしようとしているのかについては答えられない人が多い。業務知識の中でも本質的な部分がある。この本質を抜き出し、モデル化する能力があれば、業務の幹を捉えることができる。」(ラウンドテーブル参加者)

サプライチェーンの中でそれぞれの業務の本質を理解し、業務プロセスを可視化して、問題点を明確にしていく。IT部門によるBPRに必須な能力としてラウンドテーブルの参加者はそれを「モデリング能力」と表現していました。
実際に、参加企業の中には、IT部門全員に対して体系的にモデリング教育を実施している企業もありました。ただ、ラウンドテーブルで表現されていた「モデリング能力」とは、モデル図の記述を中心とした業務の可視化の技術の修得というよりも、業務知識に加えて本質を見抜く思考の仕方、そして抽象化できる技術、それらを総合した能力として語られていました。

それでは、そのような総合力としてのモデリング能力を身につけるためにはどうすればいいのでしょうか。参加者の多くは、ITの技術的教育とはまったく別の教育と位置づけて取り組むことが必要であると考えていました。

「IT部門においてモデリング教育を実施しているが、ITだけをずっとやっている人間が良いモデラーになるわけではないことがわかってきた。ハードウェア志向よりもソフトウェア志向、どちらかという文系っぽい人間の方が良いことがある。」(ラウンドテーブル参加者)

モデリング能力は後天的に育成が可能であるというのがほとんどの参加者の認識でしたが、やはり、向き不向きはあるようです。言ってみれば、IT的思考に偏る前に育成しておくべき能力かもしれません。

ある企業では、IT部門に配属されるとまずは現場の業務を理解するために、業務部門へ配置され、そこで当該業務に従事させていました。いずれIT部門に戻ってくるのですが、それまでの間、ただ単に現場で業務知識に精通するだけでなく、定期的にIT部門に戻ってモデリング技術を学び、当該業務部門の業務プロセスをモデリングして、業務プロセス上の問題点をレポートするという訓練を実施していました。
IT部門でITの専門知識を習得する前に、業務に関する知識の修得と、業務をモデリングしていくことを実践させる。モデリング能力の養成をIT技術者の教育の最初のプロセスに位置づけているのです。

プロジェクトマネジメント力

業務改革・BPRという、複数部門にまたがる大きなプロジェクトを進めていく上では、それを適確にマネジメントする能力が求められます。ラウンドテーブルでも、モデリングと並んで、多くの参加者が、次世代のIT部門に向けて、プロジェクトマネジメント力の強化が必要であると認識していました。
プロジェクトマネジメント力は経験の中で培われるものです。経験の浅い若手人材にプロジェクトの重要な役割を担わせることの教育効果が高いのは明らかです。しかし、そこにはプロジェクトとしてのリスクが伴います。ポイントは、いかに少ないリスクで、OJTの中で若手の人材に経験を積ませるかです。

ラウンドテーブルに参加するある企業では、若手にプロジェクトのリーダー役を任せることで、OJTでのプロジェクトマネジメント力育成に積極的に取り組んでいました。この際にリスクテイクをする方法として、3人のベテラン社員をアドバイサーにつけています。上司とは違う立場で、若手プロジェクトリーダーにいろいろとアドバイスを与えるのです。ベテランの知識や経験に助けられながら、実践の中で学んでいく環境を提供しているとのことでした。
若手にアドバイスを与える際は、3人のアドバイザーが一堂に介して行います。つまり他のアドバイザーがどんなアドバイスをするか、アドバイザー同士の学習の場ともなっているのです。しかも、プロジェクトが終了すると、今度は、指導された若手が、3人のアドバイザーを評価します。
この制度では、若手に経験を積ませると同時に、若手を支援するアドバイザーにも学びの機会を与えているのです。

経営的視点の養成

IT部門が主導する業務改革は、個別最適ではなく、経営視点で見た全体最適でなくてはなりません。IT部門には経営的視点が求められます。ユーザーが必要とするシステムに対して、「そのシステムが本当に適切なシステムなのか」、「システムではなく業務の仕組みを改善できないか」といった観点から、システムへの投資の有効性を判断し、ひいては経営戦略そのもののあり方を考える。このような力が次世代のIT部門には必要であると多くの参加者が考えていました。
「経営視点」を、会社全体を俯瞰して見るという視点と、トップの目線で見るという視点に分けて考えると、前者に関しては、さまざまな業務を経験させることが養成方法になるでしょう。さまざまな業務の現場を知ることで会社全体が理解でき、バランスのとれた判断ができます。本ラウンドテーブルに参加されるCIOクラスの方々も実際には、さまざまな業務を経験している方が多くおられます。
そして後者の「トップの目線で見る」ことができる一番の方法は、「トップを経験する」こと以外にないようです。

「IT部門から一旦外に出し、経営企画、海外現地法人の社長、情報子会社の役員を経験してからIT部門に戻した人材は、会社や経営について理解し、先端のITも見てきていることで、戻ってからは完全に経営目線でITを見ています。本来はこういう形がIT部門の正しいキャリアパスだと思います。」(ラウンドテーブル参加企業)

オーバーラップして持つIT技術

今後IT部門の業務がBPRを推進し、ITを企画するという最上位のレイヤーに移行していった場合、究極の姿としては、ITの構築・運用・維持というすべてのIT調達プロセスを外部にアウトソースすることも考えられるというのが、参加者の共通した意見です。
ただ、その場合に懸念されるのは、IT調達プロセスが完全にブラックボックス化し、これまでの業務領域のIT技術をすべて手放すことで、IT調達の質を適正に評価できなくなることです。

「IT部門がアウトソーサーとオーバーラップして持っておくべきIT技術の領域を明確にし、その技術領域は技術レベルを維持・発展し続けなければならない。」(ラウンドテーブル参加者)

つまり、業務としては外に切り出しても良いが、技術としては保持し続ける。将来的にITの構築・運用・維持をアウトソースしていった場合、これまでは業務として担当していたIT技術領域を、管理の対象としていくことになります。当然部員一人当りのカバーする範囲は広くなります。
実際に、IT運用の一部をアウトソースしているある参加企業では、40名ほどのシステム部員とアウトソーサーを合わせて、5倍の200名規模のシステムを管理していますが、IT部門は、そのすべてのシステムをオーバーラップする形で管理しています。一人当たりが管理すべき技術領域も広くなっています。

「隅から隅まで分かろうとしても無理だ。何をわかるべきかを工学的にとらえなければならない。」
(ラウンドテーブル参加企業)

アウトソースするベンダーとオーバーラップして持つべきアーキテクチャ、共通のプロトコルとなるものを定義する必要があるようです。ただ、そのためには、共通のプロトコルを具現化するためのベンダー側の工学的なアプローチが不可欠と指摘されていました。

IT企画人材としてのコンピテンシー定義とキャリアパス

次世代に必要となるIT企画人材を計画的に育成していくためには、IT企画人材のコンピテンシーというものを定義し、どのようなプロセスで育成していくか、教育のプランニングとキャリアパスの設計を行う必要があります。
ラウンドテーブルに参加していたある企業では、IT企画人材のスキルを3つのグレードに分け、自分がどのグレードに位置しているのかをアセスメントするという取組みを導入していました。

「IT企画のグレードを3つに分け、自分が今どこにいるのか、アセスメントをするようにした。アセスメントシートの結果を基に、面接をし、その人の課題を確認し、半年後には再度確認するようにしている。」(ラウンドテーブル参加者)

このようにして、IT企画人材として求められるスキルを明確にし、自らがキャリアパスを描きながら、目標を持って成長をしていくことを支援しているのです。

IT部門が未来の経営者を生む

こうして見てみると、次世代のIT企画人材に求められるものをすべて兼ね備えたスーパー人材を育成するのはそう簡単ではないでしょう。今現在このようなスーパー人材がいるとしたら、それはズバリ「経営者」以外にないのかもしれません。つまり、次世代のIT部門の仕事とは、スコープとしては完全に経営者と同一ではないでしょうか。そして、IT部門こそが未来の経営者を輩出する部門となる。企業がこのような考えのもとにIT部門をつくろうとするならば、それは最強のIT部門をつくり、最強の経営者を生むことになると思います。

(ファシリテーター 株式会社ナレッジサイン 吉岡英幸)