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バイオプラスチック

位地 正年IoTデバイス研究所
主任研究員
位地 正年

NECでは環境対策への取り組みとして様々な活動を行っており、研究開発の面でも環境負荷を削減するための技術開発を進めています。その一つに、最近話題となっている、環境調和性に優れた植物を原料とした バイオプラスチックの研究があります。
2006年には、バイオプラスチックを外装全体に採用した携帯電話(FOMA-N701iECO)を製品化(2006年3月2日プレスリリース)、2010年1月には、パソコン筐体に使われる プラスチックの約90%に、世界最高水準の環境調和性を実現した難燃性バイオ プラスチックを採用したビジネスパソコンを製品化しています。 → 2010年1月12日プレスリリース
その際、NECが開発するバイオプラスチックを「NeCycle™:ニューサイクル」と名付けました。

NeCycle

ここでは、私たちが開発してきた電子機器用の環境調和型プラスチックとして、はじめに取り組んだ安全性に優れた石油系の難燃性プラスチックについて述べ、さらに一層の環境調和性の向上のため、近年、開発に注力してきたバイオプラスチック(NeCycle™)について詳しく紹介します。

バイオプラスチックのせつめい

1.石油系の環境調和型難燃性プラスチックの開発

私たちは環境調和性に優れたプラスチックの開発を約10年前に始めました。当時、電子機器分野でこの概念の材料はほとんどなく、パイオニアの一人としての出発でした。はじめに着手したのが、従来の石油を原料とした難燃性プラスチックの環境安全対策です。電子機器に使用するプラスチックは、火災防止のために燃えにくいこと、つまり難燃性が必要ですが、従来のプラスチックは、ハロゲン系化合物などの難燃剤を添加することで難燃化を実現していました。しかし、このようなハロゲン系難燃剤は燃焼時に環境負荷の高い物質を発生し、また、この代替材として使用が開始されていたリン化合物にも慢性毒性が懸念されるなど、環境安全性が十分でないものが主体でした。

そこで私たちは、脱ハロゲン脱リンによる高度な難燃性を実現し、環境安全性を大幅に向上できる難燃性プラスチックの開発に取り組み、電子機器用として初めて実用化に成功しました( 参考文献1 )。すなわち、着火時に樹脂表面に難燃層を形成できる独自なシリコーン系難燃剤を使った難燃性ポリカーボネート樹脂(エコポリカ™*1)を開発しました。エコポリカは、材料メーカーとの共同で製品化され、現在、NECのパソコンやプロジェクタなどの環境対応機器の中心的な外装材として利用され、さらに他の分野の様々な用途でも利用されています。また、着火した際に樹脂自体が発泡化して断熱層を形成することで、難燃剤無添加でも自ら消火が可能なエポキシ樹脂(自己消火性エポキシ樹脂)も開発しました。この自己消火性エポキシ樹脂は、ICパッケージ用モールド材として、材料メーカーと共同で製品化され、NECに加え、世界の主要なデバイスメーカーで広く採用されています。

石油原料の脱ハロゲン脱リンの難燃性プラスチックの開発(最高レベルの環境安全性を実現)

図1.石油原料の脱ハロゲン脱リンの難燃性プラスチックの開発(最高レベルの環境安全性を実現)

※エコポリカTM :  プレスリリース /  製品紹介(住友ダウ・ホームページ)

参考文献1) 位地 正年, 化学工業, 6,46-53 (2000).

2.石油系プラスチックから植物性プラスチックへ

先に述べたように、従来の電子機器の外装や電子部品の絶縁材料には石油を原料としたプラスチック(ポリカーボネート、ABS、エポキシ樹脂など)が用いられており、環境安全対策は進みつつあります。しかし、現在、石油資源の枯渇が顕在化しつつあり、再生可能な資源への代替化が新たな課題となってきています。

これに対して、植物を原料としたバイオプラスチックは、植物原料が石油原料の代わりになる上、植物に地球温暖化の要因とされている二酸化炭素を固定化する効果があり、さらに、廃棄後、土の中での分解性(生分解性)に優れているという特徴もあるので、 新たな環境調和材料として、現在、大きな期待が寄せられています。

3.バイオプラスチックの取り組み

バイオプラスチックは、微生物生産系、化学合成系、天然物系の3つに分けられます。中でも化学合成系のポリ乳酸は、トウモロコシを原料として量産化が開始され、さらにバイオプラスチックの中では比較的に耐熱性が高いため、電子機器外装材の一部に採用が始まっています。

しかしながら、電子機器に広く使用するためには、ポリ乳酸の一層の高機能化が必要です。すなわち、従来の石油系プラスチックに比べ、特に耐熱性と強度(衝撃強度など)が劣っており、さらに、安全な難燃化処方(脱ハロゲン化)が確立されておらず、加えて、成形した際の結晶化速度が遅いため生産性の向上も必要です。これらを解決するための技術開発は各社で進められていますが、従来は、石油系プラスチックなどの石油成分を大量に(約50%)添加する処方が主体であり、ポリ乳酸のバイオプラスチックとしての高度な環境調和性を低下させてしまう問題がありました。

これに対して私たちは、ポリ乳酸の環境調和性(高植物成分率+安全性)を保持しながら高機能化して電子機器に適用することを目指して、植物資源を主体として実用特性を改良し、さらに、従来にない新機能を付与することで、付加価値を高める研究を進めています( 参考文献2、3 )。すなわち、ポリ乳酸への温暖化防止効果の高いケナフの繊維などの植物系添加剤の利用による高耐熱化と高強度化、ハロゲン等の有害物を一切使わないで安全な吸熱剤(金属水酸化物)の添加による難燃化、さらに、これまでにない新しい機能として、形状記憶性とリサイクル性の同時実現などに取り組んでいます。

参考文献2) 位地 正年, 未来材料, 6,22-26 (2006).
参考文献3) 位地 正年, 工業材料, 56,2,45-49 (2008).

ケナフ繊維添加ポリ乳酸

ポリ乳酸を電子機器の外装材料に使用できるようにするためには、耐熱性、強度、さらに成形性のレベルを大幅に向上させることが必要です。そこで、ケナフ繊維などの植物系添加剤を利用して改良したケナフ添加ポリ乳酸複合材を開発しました。本材料は、電子機器用バイオプラスチックとしては、最高レベルの植物成分率(無機物を除く樹脂分中)90%を実現しました。→ 2005年6月14日プレスリリース  

ケナフとは、アフリカ原産の植物で、二酸化炭素の吸収速度が植物の中でも最高レベル(光合成速度は、通常の樹木の3~9倍、1トンのケナフで約1.4トンの CO2を吸収することが可能)であり、地球温暖化防止効果の高い植物といわれています。現在、東南アジアをはじめ世界各国で栽培されていますが、その利用方法としては、紙の繊維材料や飼料など既存の材料の代替が主であり、付加価値の高い利用方法はほとんど見いだされていませんでした。

ケナフ、ケナフ繊維、およびケナフ繊維添加ポリ乳酸

図2.ケナフ、ケナフ繊維、およびケナフ繊維添加ポリ乳酸

そこで、ポリ乳酸にケナフ繊維を添加、混練りして補強効果を調査した結果、ケナフ繊維を15%以上添加すると、石油系プラスチックのABS樹脂以上に耐熱性(荷重たわみ温度)と剛性を大幅に向上させることを発見しました。これは、ケナフ繊維が、樹脂の変形を防止しただけでなく、ポリ乳酸の結晶化を促進する効果もあったことが起因しています。さらに、ケナフの微粉を取り除いたり、植物原料系の柔軟性付与材を添加することで衝撃強度も改善できました。また、ケナフ繊維と新しい結晶化促進剤の併用により、成形時間の大幅な短縮化にも成功しました(従来10分間以上が1分間以下)。

ケナフ繊維添加ポリ乳酸の耐熱性と剛性

図3.ケナフ繊維添加ポリ乳酸の耐熱性と剛性

このケナフ添加ポリ乳酸複合材は、材料メーカーとの共同で製品化され、2004年9月にパソコンのダミーカードに搭載され、さらに、2006年3月にエコ携帯電話に搭載されました(写真)。この携帯電話は、世界で初めてバイオプラスチックを筐体に全面的に使用し、さらにこの素材感を生かしたデザインを採用したこと(やわらかな癒しを感じさせる調色と、素材の感触を生かすため厚い塗装なし)が特徴であり、大きな反響を得ました。

ケナフ添加ポリ乳酸の携帯電話(外装)への適用

図4.ケナフ添加ポリ乳酸の携帯電話(外装)への適用

難燃性ポリ乳酸複合材

パソコンなどの中型以上の電子機器用の外装材料としては、プラスチックには高度な難燃性も要求されます。しかし、ポリ乳酸は燃焼しやすいので、難燃性を向上させる必要があります。上述のように従来のハロゲン系難燃剤は環境安全性が十分ではないので、これらの添加物を使用しないでポリ乳酸の難燃化を実現させることを目指しました。

ポリ乳酸への難燃剤として、安全性の高いさまざまな材料を検討した結果、特に土壌成分の一種である特殊な金属水酸化物の吸熱剤と他の安全な添加剤を併用して使用することで、高度な難燃性と他の主要な実用性(強度、耐熱性など)を同時に実現させることに成功しました。→ 2004年1月26日プレスリリース  

そしてこの材料技術に改良を重ね、2009年11月には、植物由来成分75%以上配合(有機成分中)、製造・成形時のCO2発生量も従来の石油系難燃性樹脂(PC/ABS)に比べ50%削減するなど、世界最高レベルの環境調和性と、難燃性等の実用性を実現した難燃性バイオプラスチック(難燃性ポリ乳酸複合材)を初めて実用化しました。→ 2009年11月4日プレスリリース  

この材料は、環境対応を強化したビジネス向けパソコンに採用され、製品に搭載されています。→ 2010年1月12日プレスリリース  

その後、業務用端末、プロジェクター、POS (店舗販売管理システム)の部材にも適用が拡大されました。さらに、他の電子機器や様々な耐久製品にも利用を拡大するため、新たに、耐薬品性、耐光性、傷防止性などの高い耐久性や抗菌性も実現しました。これらの特性は、従来の電子機器用の石油系難燃性樹脂(例PC/ABS樹脂)より優れており、これまでの高度な環境対応に加え、難燃性樹脂としての付加価値を向上できました。このため、本材料をNECがこれから注力していく社会ソリューションに関連する設備や装置(交通、流通、金融関係など)に利用を拡大していく予定です。この手初めとして、厳しい外部環境にさらされる屋外設備であり、高度なガソリン耐性や寸法安定性なども要求されるガソリン給油システムの内部部材として利用を開始しました。→ 2014年6月30日プレスリリース

形状記憶性バイオプラスチック(リサイクル可能な形状記憶性ポリ乳酸)

ポリ乳酸はまだ高価であるため、環境調和性に優れているだけでは、広く普及させることには限界があります。これに対しては、従来にない機能を付加することで高い付加価値を創出させることが一つの解決方法です。そこで、私たちは、従来の石油系プラスチックでも達成できていない新しい機能として、形状記憶性とリサイクル性を同時に実現するポリ乳酸を開発しました。→ 2004年5月17日プレスリリース  

形状記憶性プラスチックとは、熱と外力で変形させることができ、冷却して固化しても再び加熱すると、元の形に復元できるプラスチックです。一般的に、高分子が架橋構造(網目状構造)を持つ場合、このような特性を発現できます。しかし、この架橋構造のため、高温でも溶融できず、リサイクル(他の形に再成形)は困難でした。

これに対して、ポリ乳酸に熱可逆結合を付与して架橋させることによって、形状記憶とリサイクルを始めて同時に実現できました。すなわち、この架橋構造によってヘヤドライヤー程度の加熱(60℃くらい)で形状の変形と復元が可能であり、しかも、通常の成形温度の高温(160℃)で加熱すると、架橋構造中の熱可逆結合が解離するため溶融できるので、リサイクルもできるようになりました(図:熱可逆結合による形状記憶性とリサイクル性の両立)。

このリサイクル可能な形状記憶バイオプラスチックは、ユーザーが自由な形に変形させて使用できる新しい製品、例えば、将来のウエアラブル電子機器などへの利用が考えられています。(図:ユーザーが形状を変えられる自由形状機器の例)

熱可逆結合による形状記憶性とリサイクル性の両立

図6.熱可逆結合による形状記憶性とリサイクル性の両立

形状記憶性バイオプラスチックの変化の様子(動画)

←クリックすると、形状記憶性バイオプラスチックの変化の様子が動画でご覧になれます。

ユーザーが形状を変えられる自由形状(ウエアラブル)機器の例

図7.ユーザーが形状を変えられる自由形状(ウエアラブル)機器の例

高熱伝導性ポリ乳酸複合材

先に述べた形状記憶性に続き、ポリ乳酸の付加価値を一層向上させるため、最近の電子機器で特に重要な課題になっている放熱対策に貢献できる高熱伝導性のポリ乳酸複合材を開発しました。すなわち、小型化や薄型化が進められる最新の電子機器では、内部のデバイスの発熱による筐体の高温化が問題になっていますが、これらの電子機器では、機器内部の設置スペースが限られるため、従来のファンやシート等の放熱部品の適用は難しくなっています。また、ステンレスなどの金属を筐体材料に利用した場合には、厚み方向の伝熱性が高いため、デバイス周辺部に局所的な高温部が生じ、使用時の不快感を招きやすくなります。しかも、金属はプラスチックに比べて比重が大きいため、軽量化しにくく、複雑な形状の成形に手間がかかるという課題もありました。

そこで従来から、プラスチックを高熱伝導化する方法として、石油系プラスチックに熱伝導性の高い金属や炭素等の粉体や繊維を高配合(50%以上)することが行われていますが、成形性、強度等の低下や比重の増加という実用上の課題がありました。さらに、プラスチック自体が石油原料であるために、環境対策も不十分でした。

これ対して我々は、バイオプラスチックのポリ乳酸をベース樹脂として、独自な植物原料の結合剤を用いて炭素繊維を樹脂中で網目状に結合(架橋化)させ(図8)、従来に比べて大幅に少ない炭素繊維の添加量(10%~)でポリ乳酸を高熱伝導化させることに成功しました。本材料は、ポリ乳酸とほぼ同等の低い比重(~1.3)であり、プラスチック本来の軽量性を保持しながら、ステンレス以上の熱拡散性を実現しました(図9)。さらに、成形時の炭素繊維の配向によって、金属にはない平面方向への異方的な伝熱性も達成しました(図10)。これらの特性によって、本材料を今後主流の薄型・小型電子機器の筐体材料などに利用した場合には、局部的な高温化を防ぎながら筐体全体で放熱することが可能です。さらに他の様々な分野での利用も考えられます。

架橋化した炭素繊維を含有したポリ乳酸複合材による薄型・小型機器の放熱対策

図8.架橋化した炭素繊維を含有したポリ乳酸複合材による薄型・小型機器の放熱対策

架橋化した炭素繊維を含むポリ乳酸複合材の熱拡散性

図9.架橋化した炭素繊維を含むポリ乳酸複合材の熱拡散性

架橋化した炭素繊維を含むポリ乳酸複合材の平面方向の伝熱性

図10.架橋化した炭素繊維を含むポリ乳酸複合材の平面方向の伝熱性

バイオプラスチックを強靱化する3層構造ナノフィラー

バイオプラスチックのポリ乳酸樹脂には、今後の薄型・小型機器に対応するため、さらなる強靱性の向上が求められています。そこで我々はこの課題を解決する技術として、3層構造のナノサイズの粒子状充填材(ナノフィラー)を開発し、この添加によってポリ乳酸の大幅な強靱性アップに成功しました。

この技術は、先に紹介した我々の高機能バイオプラスチック(ケナフ繊維添加ポリ乳酸、難燃性ポリ乳酸、形状記憶性ポリ乳酸、熱伝導性ポリ乳酸)のいずれにも適用可能な共通基盤技術になりえます。

今回開発の3層構造のナノフィラーの特徴は、3ユニットからなる特殊な有機ケイ素化合物の凝集と分子間の反応による架橋化*によって、自己組織的に、3層の異なる機能をもつナノサイズの粒子を形成できることです。従来、多層構造のフィラーを形成するには、何段階もの表面処理や処理剤の分離回収の工程が必要で手間がかかり、特にナノサイズの場合、実質上、製造は困難でしたが、今回、初めて効率的よく3層構造を形成させることが可能となりました。

このナノフィラーの構造は、中心に高密度(高剛性)のシロキサン、中間層は可とう性(柔軟性)のあるシリコーンゴム層、そして外側はポリ乳酸との親和性の高い有機層(カプロラクタムオリゴマー)となっています。このため、ポリ乳酸に混ぜた時、通常の無機フィラーのような剛性とともに、ゴム層による応力吸収性や、有機親和層による樹脂の伸びを改善する効果があります。この結果、このナノフィラーをポリ乳酸へ少量(重量の5%)添加するだけで、ポリ乳酸の強度を保持しながら破断伸びを2倍以上向上させることができます。

3ユニット有機シリコン化合物の凝集+架橋による3層構造ナノフィラー(粒子)の自己形成

図11.3ユニット有機シリコン化合物の凝集+架橋による3層構造ナノフィラー(粒子)の自己形成

3層構造ナノフィラーの添加によるポリ乳酸の強靭化

図12.3層構造ナノフィラーの添加によるポリ乳酸の強靭化

本技術は、外装用のバイオプラスチックの強靱化に有効であり、バイオプラスチックを使った電子機器筐体の薄型化や耐久性の向上などに寄与するものと考えます。さらにこのナノフィラーの構造の最適化やコストダウンを進め、実用化を目指します。

*架橋化:鎖状や枝状をポリマー同士が結合(橋かけ)し、網状の構造にすること。

非食用の植物資源を用いて高植物成分率と耐久性を両立したバイオプラスチック (植物の茎とカシューナッツの殻の成分を利用したカルダノール付加セルロース樹脂)

このたび、安定した供給性のある非食用の植物原料として、植物の茎などの主成分のセルロースとカシューナッツ殻の主成分のカルダノールを使って、70%以上の高い植物成分率と電子機器に必要な耐久性を同時に実現したバイオプラスチックを開発しました。 → 2010年8月25日プレスリリース

これまでご紹介してきたバイオプラスチックでは、ベース樹脂(添加剤を加える前の樹脂自体)として、量産化が進んでいるポリ乳酸を使っており、この原料としては、古くなった穀物(家畜用飼料)から採取したデンプンを主に利用しています。従って、現在、直ちに食糧問題を引き起こすものではありませんが、一方で、将来の食糧不足への懸念から、今後は、食用ではない植物資源を利用した新しいバイオプラスチックも重要となっております。

そのため、非食用の植物資源を用いたバイオプラスチックとして、セルロースやヒマシ油などを原料に用いた開発や実用化が進められています。セルロースは、草や作物の茎や木材の主成分であり、石油生産量にも匹敵する、世界でもっとも安定供給性のある非食用の植物資源です。これまでセルロースを用いたバイオプラスチックは、文具、玩具、生活用品などで実用化されています。しかし、セルロースを利用する場合、石油系の添加剤(可塑剤など)を大量に使用する必要があるため、植物成分率の低下や、耐水性、耐熱性などの高い耐久性の実現が困難という課題があります。一方、ヒマシ油を利用したポリアミドも実用化されていますが、原料の安定供給性に懸念があり、また、耐久製品に広く利用するためには特性が十分ではないなどの課題があります。

そのため、非食用の植物資源を用いたバイオプラスチックとして、セルロースやヒマシ油などを原料に用いた開発や実用化が進められています。セルロースは、草や作物の茎や木材の主成分であり、石油生産量にも匹敵する、世界でもっとも安定供給性のある非食用の植物資源です。これまでセルロースを用いたバイオプラスチックは、文具、玩具、生活用品などで実用化されています。しかし、セルロースを利用する場合、石油系の添加剤(可塑剤など)を大量に使用する必要があるため、植物成分率の低下や、耐水性、耐熱性などの高い耐久性の実現が困難という課題があります。一方、ヒマシ油を利用したポリアミドも実用化されていますが、原料の安定供給性に懸念があり、また、耐久製品に広く利用するためには特性が十分ではないなどの課題があります。

そこで我々は、これらの課題を解決するため、セルロースを主原料にして、これにカシューナッツの殻由来のカルダノールを化学結合させることで、新しいバイオプラスチック(カルダノール付加セルロース樹脂)を開発しました。カシューナッツの生産時には、食べられない殻が大量に発生しますが、ほとんど有効に利用されておらず、安定な供給性のある非食用の植物資源として期待されています。この殻の主成分として含まれる油状物質がカルダノールであり、柔軟で疎水的な直鎖状の炭化水素成分と剛直な環状炭化水素(フェノール)成分からなる特有の分子構造を持っています。このため、これを化学反応しやすく変性した後、枝状にセルロース(酢酸変性品)に化学結合させることで、高度な強靭性(強度+伸び)、耐水性、耐熱性、および非結晶性による短時間成形(石油系樹脂と同等)を実現するバイオプラスチックを作成できました。さらに、本バイオプラスチックの分子構造中の隙間を埋める(パッキング)成分として、芳香環化合物も付加させることで、強度等を一層向上できました。また、主原料として植物資源のセルロースとカルダノールを使ったことで、高い植物率(>70%)も達成しました。

さらに、このバイオプラスチックの実用化を実現に向けて、2014年には従来の1/10という低エネルギー(低CO2排出量)で合成できる新しい製造技術(「2段階不均一系合成プロセス」)を開発しました。→ 2014年5月8日プレスリリース

この新しい製造方法では、従来のように原料のセルロースを有機溶媒に溶解(均一系)させず、ゲル状に有機溶媒で膨らませた状態(不均一系)にした上で、変性カルダノール(長鎖成分)と酢酸(短鎖成分)を2段階で結合して樹脂を合成します。このため、溶液からの沈殿分離などによって生成樹脂を容易に回収できます。本プロセスは、従来の均一系プロセスの方法で必要であった、生成樹脂の析出用溶媒が不要になるため、溶媒量の大幅な削減(従来の約90%減)となります。これにより、約1/10の製造エネルギー(CO2排出量)で、高機能なセルロース系バイオプラスチックの製造が可能になり、将来量産を行う際には、製造コストの大幅な削減が期待されます。

今回開発した新製造技術に基づいて、現在の製造規模(実験室レベル)を段階的に拡大しながら量産技術を完成し、2016年度内の量産開始を目指します。さらに、電子機器に留まらず、付加価値の高い他の耐久製品や今後成長する新製品への展開を目指していきます。

新セルロース系バイオプラスチックの構造

図13.新セルロース系バイオプラスチックの構造

新セルロース系バイオプラスチックの特性

図14.新セルロース系バイオプラスチックの特性

カルダノール付加セルロース樹脂の低エネルギー製造技術: 2段階不均一系プロセスの開発

図15.カルダノール付加セルロース樹脂の低エネルギー製造技術:
2段階不均一系プロセスの開発

.2段階不均一系プロセスと従来の均一系プロセスでの溶媒使用量と 製造エネルギー(CO2排出量)の比較(実験室規模)

図16.2段階不均一系プロセスと従来の均一系プロセスでの溶媒使用量と
製造エネルギー(CO2排出量)の比較(実験室規模)

伝統工芸の漆器がもつ美しさを実現した非食用植物原料のバイオプラスチック (漆ブラック・バイオプラスチック)の開発

国際的に高い評価を得ている伝統工芸の漆器(注1)がもつ独特の美しい漆黒(漆ブラック)を実現した非食用植物原料のセルロース系バイオプラスチック(注2)を開発しました(京都工芸繊維大学と著名な漆芸家の下出祐太郎氏(注3)との共同研究)。

バイオプラスチックを様ざまな耐久製品に利用するため、これまでの耐久性などの機能性に加え、このたび、装飾性(デザイン性)という新たな付加価値の実現に取り組みました。

この新しいセルロース系バイオプラスチックにおいては、着色性や光の反射性を調整する添加成分の配合技術を開発し、高級な漆器が示す深く艶のある漆ブラックと同等の光学特性(低明度や高光沢度など)を初めて実現しました。さらに、漆器の制作は、基材の表面に下地層と漆層を塗って磨く工程を何度も繰り返すため、量産は困難でしたが、本バイオプラチックは、通常のプラスチックと同様な射出成形(注4)によって、様ざまな形の製品の量産が可能です。

現在、温暖化防止や資源枯渇対策のため、植物を原料にしたバイオプラスチックの量産化が進んでいます。さらに、将来の食糧不足への懸念から、非食用の植物資源を使った新しいバイオプラスチックのニーズが高まっています。わらや木材など非食用植物の主成分を原料に使ったセルロース樹脂は、文具、玩具、生活用品など一部に利用されていますが、その利用拡大には、環境調和性以外にも新たな付加価値となる機能の創出が求められています。そこで、NECでは環境調和性と耐熱性や耐水性などの耐久性などの機能性に加え、このたび、高度な装飾性の実現を目指しました。この装飾性としては、詳細な市場調査から、特に欧米で日本の高級漆器がもつ特有な漆黒(漆ブラック)が高い評価を得ていることがわかり、この実現を目指しました。

そこで、日本を代表する著名な漆芸家の下出祐太郎氏(下出蒔絵司所3代目、京都産業大学教授)と伝統みらい研究(伝統工芸品の科学的解析と先端材料技術への応用)で顕著な実績をもつ京都工芸繊維大学 伝統みらい教育研究センターとの共同で、この漆ブラックを実現するセルロース系バイオプラスチックの開発を進めました。

この研究開発として、最初に下出氏により、高級漆器が示す光学特性の目標となる最高レベルの漆器モデル(透明樹脂板に漆を手作業で何度も塗布・研磨)が制作されました(下写真)。そして、京都工芸繊維大学とNECによって、漆の光反射特性などの科学的解析が行われました。この評価・解析結果を基に、NECがセルロース樹脂の添加成分の最適な配合技術を開発しました。

まず、漆器モデルの光学解析の結果、これは、極めて低い明度(1)と高い光沢度(100)、さらに、漆特有の重要な特性である『深さと温かさ』を達成していることが判りました。この漆特有な深さや温かさは、現在の光学解析技術によってまだ定量化されていない特性であり、下出氏の卓越した感性によって初めて評価が可能でした。

漆芸家 下出祐太郎氏の制作の漆器モデル拡大する

漆芸家 下出祐太郎氏の制作の漆器モデル
(透明樹脂板の表面に手作業で漆の塗布・研磨を繰り返して作成)

この漆器モデルの光学特性を目標にして、セルロース樹脂に対して、黒色系の様ざまな着色成分を添加・混合して明度を測定した結果、表面に化学的処理を加えた特有な炭素微粒子によって低い明度を達成しました。さらに、高い光沢度を実現するため、鏡面加工の金型を利用するだけでなく、材料自体の光沢度を上げるため、高屈折率の有機成分の添加を検討しました。そして、ある構造の芳香環含有の有機成分の添加によって、高度な光沢性も実現しました。実は低い明度と高い光沢度を両立することは、通常はトレードオフの関係にありますが、この炭素微粒子の表面構造と高屈折率の有機成分の分子構造を最適化することで、これらを両立できました。そして、さらに配合調整を繰り返すことによって、漆特有の深さと温かさも実現できましたが、これには、セルロース樹脂自体の特有な光学特性も影響していると考えています。

漆ブラック・バイオプラスチックの成形体例1拡大する

漆ブラック・バイオプラスチックの成形体例1

漆ブラック・バイオプラスチックの成形体例2拡大する

漆ブラック・バイオプラスチックの成形体例2

漆ブラック・バイオプラスチックの成形体例3拡大する

漆ブラック・バイオプラスチックの成形体例3

他の実用的な特性としては、強度(曲げ、衝撃)、耐熱性(ガラス転移温度)、硬度(鉛筆硬度)、加熱時の流動性も評価しています(現在評価中の代表値を添付の物性表に掲載)。今後も物性改良を進め、まずは薄型電子機器の外装レベルを実現し、さらに、適用製品ごとの実用特性や材料の量産技術を仕上げていく予定です。

NECは、今後、装飾性と環境調和性を重視する様ざまな製品への本バイオプラスチックの展開を目指し、材料メーカーや各種製品の製造メーカーとのパートナー連携を進めていきます。この目指す適用製品としては、ハイグレードの一般製品として、時計、高級文具、化粧品ケースなど、また耐久製品としては、高級自動車の内装部材、装飾性を要する高級建材・電子機器などです。

さらに詳細なデータや材料物性(開発途中の代表値)は添付資料をご覧ください(PDF)。

(注1) 漆器: 通常は、木製製品の表面に下地工程を施したのち、漆(天然の漆成分と着色剤の組成物)を塗布してから硬化させ、これを手作業で研磨する工程を繰り返して作製する。我が国独自の伝統工芸製品のため、小文字のjapanが蒔絵漆器を表すことがあったなど、国際的に高い評価を得ている。しかし、高級漆器になるほど製造工程に非常に手間がかかるため、工業製品としての量産は難しかった。

(注2) セルロース系バイオプラスチック(セルロース樹脂): 草やわら、木材の主成分であり、人間の食用にも適さないセルロースを使った樹脂。セルロースに対して、酢酸、プロピオン酸等の短鎖脂肪酸や長鎖脂肪酸などを結合させることで、加熱(200℃程度)によって溶融が可能なったもの。今回は、酢酸とプロピオン酸をセルロースに結合させた短鎖脂肪酸付加セルロース樹脂を使用。

(注3) 漆芸家 下出祐太郎氏: 下出蒔絵司所三代目として,伊勢神宮式年遷宮御神宝平文や京都迎賓館の飾り台の蒔絵の制作、高台寺蒔絵の復元的制作などで知られる、我が国を代表する漆芸家。京都産業大学文化学部教授。大学での学術調査や後継者指導も積極的に行い,伝統的な技術を守るだけでなく,発展させる活動を行っている。特に最近は、外務省の依頼で、欧州諸国での講演や著名博物館での招待展示など、国際的にも広く活躍している。
(*外務省HPでの紹介:http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000158375.pdf )

(注4)射出成形: プラスチックを熱溶融させて金型に流し込み成形する、一般的なプラスチックの成形方法。金型の構造を変えることで、様ざまな形の製品を量産することが可能。今回のバイオプラスチックでは、鏡面仕上げの金型を使用。

4.製品への適用、今後の展開

以上ご紹介したように、私たちは従来にない高い植物成分率と電子機器用の高度な機能性を同時に実現する独自なバイプラスチック(NeCycle™ (ニューサイクル))の開発と実用化を進めてきました。
これまでに高耐熱性のケナフ繊維添加ポリ乳酸複合材を開発しNECのパソコン(「LaVie TW」、「VersaPro」)のダミーカードや携帯電話(FOMA- N701iECO)、などに搭載されました。その後、さらに独自の安全な難燃化技術を開発し、植物由来成分75%以上配合で世界最高レベルの環境調和性を実現した難燃性ポリ乳酸複合材を実用開発しました。→ 2009年11月4日プレスリリース
そして2010年1月には環境配慮型のビジネス向けパソコンに搭載されました。→ 2010年1月12日プレスリリース
さらに、従来の石油系プラスチックより優れた耐久性(耐薬品性、耐光性、傷防止性)や抗菌性も実現し、今後、電子機器や他の耐久製品への利用を拡大していく予定です。

また、新しい機能としてリサイクル可能な形状記憶性を実現するバイオプラスチックも開発しましたが、これはウェアラブル機器などの新しい製品を創り出せる可能性を持っています。これに加え、金属に匹敵する(ステンレス以上)放熱性(熱拡散性)のバイオプラスチックの開発にも成功しました。この新材料は、今後の主流の薄型・小型の電子機器の放熱対策と環境対策に同時に寄与することが期待されます。

さらに、バイオプラスチックの植物原料として、現在は、家畜飼料用の古くなった作物を使用していますが、食べられない部分(セルロースなど)を利用する新しいバイオプラスチックも開発しました。→ 2010年8月25日プレスリリース
このバイオプラスチックを量産化するため、大幅な低エネルギー化を実現する新しい製造技術の開発も進めています。→ 2014年5月8日プレスリリース

また、この非食用植物資源を使ったバイオプラスチックを様ざまな先端製品に展開するため、新たな付加価値として高度な装飾性を追求し、伝統工芸の漆器が持つ美しい漆黒(漆ブラック)を実現したバイオプラスチック(漆ブラック・バイオプラスチック)の開発にも成功しました。→ 2016年8 月17日プレスリリース

NECでは、今後、現在使用している石油系プラスチックをこれらのバイオプラスチックに積極的に切り替えていく予定です。

NECは、このような独自な環境適合型新素材を適用し、さらに製品の低消費電力化などの他の環境対応技術を採用したエコプロダクツの開発と提供の拡大を進めていきます。

また、この非食用植物資源を使ったバイオプラスチックを様ざまな先端製品に展開するため、新たな付加価値として高度な装飾性を追求し、伝統工芸の漆器が持つ美しい漆黒(漆ブラック)を実現したバイオプラスチック(漆ブラック・バイオプラスチック)の開発にも成功しました。→ 20168 17日プレスリリース

5.研究者の素顔

研究者の素顔では、NEC第一線の研究者の生い立ちや研究活動の変遷などをご紹介します。 研究者のメッセージを通じて、科学技術を身近に感じていただき、興味を深めていただければ幸いです。

今回は、位地主席研究員からのメッセージです。

少年時代

生まれ育ったのは東京の郊外の三鷹市です。そのころの三鷹は自然に恵まれていたので、植物と動物(昆虫、魚、犬、猫、鶏、牛など)とたっぷり触れ合って育ちました。しかし、小学校低学年のころ大病して 運動を一時期制限されたため、家の中に居る機会が多くなり、読書とテレビ、そして空想が好きになりました。特に伝記をよく読んでおり、様々な状況に置かれた人物がどのように成功していくかに興味がありました。テレビでは、手塚治虫さんなどのアニメ番組に夢中になり、ほとんど全て観ていました。空想にもよくふけっており、 設定した架空人物が成功するまでの道のりを詳しく考えていました。例えば、ごく平凡な少年がいろいろな困難を乗り越えてプロ野球の大投手になっていく話などです。

環境分野の研究者を志すきっかけ

高校時代の前半までは、歴史、国語などの文系の科目が好きだったので、当初は、理科系に進もうとはあまり考えていませんでした。ただし将来は、社会になんらかの寄与ができるような専門家になりたいと 漠然と考えていました。

それが理科系に進んだのは、環境問題と化学への関心からです。その当時、自然に恵まれていた故郷が急速に都市化してしまい、さらに、公害が深刻化して大きな社会問題となっていたため、環境問題に強い関心を持ちました。また、高校(都立三鷹高校)の化学の授業からも影響を受けました。ユニークな化学の先生(大類教諭)がおられ、狭い教卓の上で実験しながら授業を進めてくれました。黒板に書かれている化学式が、目の前の実験で再現されることがとても面白く、化学に強い興味を持ちました。このため大学進学時には、環境問題を解決できるような化学技術者を目指すようになりました。これが私の環境技術に関わる原点となっています。

そこで千葉大学工学部工業化学科に入学し、応用化学を勉強しました。また、サークル活動を通じて、 登山など、本格的な自然に親しむことにも熱心でした。同大学には数多くの学部があるため、サークルには出身学部の異なる面白いメンバーが揃っており、様々な考え方や価値観を学べました。その後、さらに専門的に 環境化学を学びたいと思い、大学院では、新設されたばかりの東京工業大学大学院化学環境学専攻に進学しました。当時のこの専攻はまだ学生定員数が少なかったため、指導教官の一國雅巳教授(現在、名誉教授)からは、ほぼマンツーマンの指導を受けることができ、研究の進め方の基礎を十分に学べました。特に、 できるかぎり自分で考え抜かせるという先生の指導方針は、後の研究生活に大いに役立ちました。

NEC入社以前の材料開発・実用化の経験

大学院修了時、当然、環境技術を研究開発できる就職先を目指しました。しかし、皮肉なもので、当時は公害問題が一段落しており、また地球環境問題というさらに大きな問題はまだ話題となっていませんでした。このため、この関係の就職口は極端に狭いうえにマイナーでもあったので、あえなく挫折してしまいました。

そこで志を変えざるを得なくなり、材料メーカーの電気化学工業(株)に入社し、先端デバイス実装用のプラスチックの開発に従事しました。幸運であったのは、今もお付き合いさせていただいている上司、浅井新一郎氏(当時、中央研究所主任研究員、その後、常務取締役研究所長や技監を経て退任)との出会いでした。

浅井氏は、包装用のプラスチックなどの開発で世界的な成果を上げた、会社を代表する研究者であり、目指すのは「最高レベル」、ただし「結果が良くてもメカニズムを解明できなければ研究は半分」、という高度な実用性と理論を両立させる高い目標を持っていました。そして、妥協せず粘り抜くファイターでありながら、ユーモアのセンスにも富んでおり、研究の厳しさと楽しさを教えてくれました。

こうして浅井氏の指導のもとで上述の新テーマに取り組み、成功と失敗を重ねて5年後、当時としては画期的とされた実装用プラスチックを開発し、従来品の2倍以上の耐久性を実現できました。本材料は製品化され、国内外の主要なデバイスメーカーに出荷されるようになりました。そして、この製品化による工場移管に合わせ、私自身も研究部門から工場の開発部門に移り、最前線でのキーマンとして技術開発と販売促進に携わることになりました。開発グループのリーダーを務めながら、世界の主要なデバイスメーカーへの技術説明やフォローのため、欧米や東南アジアを飛び廻りました。入社して7年目、努力が実り、もっとも充実した時期でした。

しかし、それから2年後、事態が変わってしまいました。競合他社からの強力な巻き返しに会い、これに対応するため、材料の改良対策に懸命に取り組みましたがうまくいかず、売り上げが大きく減ってしまい、精神的にも相当追い詰められました。このため、材料の製造現場の管理責任者というポジションに替わることになりました。最前線の技術開発のキーマンとしてやりがいを感じていたので、この異動はショックでした。しかし一方では、激烈な開発競争の大きなプレッシャーから開放され、正直、ほっとした部分がありました。

製造現場に移ってから、齢が二廻りも上の頼りになる作業長や、気の良い作業員の方々に助けられて管理の仕事に馴染み、やっと落ち着いた生活を送れるようになりました。しかし次第に、「このままで自分はよいのだろうか。」と、自問をするようになり、やがて「また失敗するかもしれないが、研究開発に戻りたい。どうせまた苦労するだろうが、それなら前から関心のある環境分野の研究をやりたい。」という気持ちが強くなっていきました。ちょうど地球環境問題としてふたたび環境対策が注目されてきた時期でもあり、焦るような気持ちが大きくなりました。

NECに入社して

そこで、大学院時代の恩師である一國雅巳教授のお宅に伺ったおり、「環境にかかわる研究をしたい」という思いを相談したところ、先生からNECが環境分野の研究人材を探しているとの情報を得ました。さっそく当時の環境技術研究所の松海所長に詳しく話を聞き、材料のリサイクル技術や環境調和性の高い材料(環境調和材料)の開発ならば自分の強みを生かせると思い、先生に推薦していただき、面接試験を経てNECに再就職しました。

余談ですが、一國先生は環境技術研究所の奥田元主席技師長と同じマンションの上下に住んでおられ、NECが人材を欲しがっている情報を奥田さんから得られたそうですが、NECとの不思議な縁を感じます。

環境調和材料の研究

夏休みの白馬にて  (1994) 夏休みの白馬にて (1994)

NEC入社当時は、電子機器の「リサイクル技術」がメインテーマであり、プリント基板などの部品類のリサイクル技術の開発に従事しました。そのころは電子機器の本格的なリサイクルの創生期であり、従来のアバウトな処理方法を緻密な分離方法に変えてリサイクル率を大幅に向上できた成果が認められ、社内外の賞を受賞できました(横山氏と共同)。ただし、本来は「環境調和材料」の研究をやりたかったのですが、環境技術研究所にはその実績がほとんどなく、開発リスクも高いので、リサイクルを中心テーマとせざるを得ない状況にありました。

しかし、リサイクルの研究をすればするほど、「環境負荷の大きい従来の材料を使い続けていては、いくら高度なリサイクル技術を開発しても、結局、処理のためのエネルギーがかさむので真の循環型システムは構築できない。」、そして、「環負荷が低くリサイクルも容易な環境調和材料が必要な時代が必ず来る。」と確信するようになりました。そこで、リサイクルの研究を続けながら、時間を見つけ(捻出して)、環境調和材料の研究に取り組みました。対象は、電子機器にもっとも多く使われているのに環境対策が遅れており、自分の専門も生かせるプラスチックとしました。特に目指したのは、まだ世界のどこの材料メーカーでも開発できていなかった、最高レベルの環境安全性を実現する脱ハロゲン脱リンの難燃性プラスチックでした。

すなわち、当時の電子機器用プラスチックの大部分には、火災防止のためハロゲン化合物が難燃剤として使用されていましたが、燃えたときの環境負荷が大きいため、廃棄物の処理が大きな環境問題となっていました。このため、世界の主要な材料メーカーは、この代替としてリン化合物を難燃剤として使用した難燃性プラスチックを開発し、市場展開を図っていましたが、リン化合物も安全性も十分ではなかったのです。しかしリンも使わない難燃性プラスチックの開発は、当時、技術リスクが高すぎて実用化は困難とされていました。そこで私は、ハロゲンだけでなくリンも使わない最高の安全性をもつ難燃性プラスチックを目標としました。

それから、数々の試行錯誤を経て、ある着想からの画期的な成果が見えはじめた段階で、正式な研究テーマとして認められ、人材や研究設備を整えていくことができました。そして共同研究メンバー(芹澤氏、木内氏ら)の協力を得て、新構造の安全なシリコーン系難燃剤を使った難燃性ポリカーボネート(エコポリカTM)や、難燃剤が無くても自ら消火性を持つエポキシ樹脂(自己消火性エポキシ樹脂)の開発に成功しました。この後の実用化段階でもいろいろな問題が起こりましたが、上司、事業部門、そして材料メーカーの協力を得て解決し、世界初の製品化を実現できました。エコポリカは当社の環境対応機器の外装材としてパソコン等に採用され、社外でも広く利用されています。また自己消火性エポキシ樹脂は、ICパッケージ用モールド材に応用され、当社だけでなく、世界の主要なICメーカーに広く採用されています。 

その後、一層高度な環境調和性の実現を目指し、石油原料のプラスチックに代わる、植物原料のバイオプラスチックの開発に取り組んでいます。従来の電子機器用バイオプラスチックでは難しかった、高度な環境対応(高い植物成分率)と機能性の同時実現を目指したバイオプラスチック(NeCycleTM:ニューサイクル)を開発し、一部実用化しました。飼料用デンプンを原料にしたポリ乳酸をベース樹脂として、これに独自な添加剤を利用して、高い植物成分率(有機成分中75%以上)を保持しながら、耐熱性、難燃性、形状記憶性、高伝熱性などの様々な機能を実現するポリ乳酸複合材を開発し、携帯電話やパソコンなどへの適用を進めました。さらに、非食用の植物原料の利用を目指し、植物の茎や木材の主成分であるセルロースを使った新しいバイオプラスチックの開発も進めています。

若い研究者へのメッセージ

挫折や失敗の多い研究生活でしたが、私は、夢を持つこと、そしてそれを叶える情熱を持ち続けることが大切だと考えています。

「夢」は最も重要と思っています。自分にとって大きな価値と高い関心があり、成功を想像するとワクワクできる、つまり夢のある研究テーマならば、うまくいかずに苦しくても何とか耐えられるし、長い時間考え込んだり、詳細な情報を集めて熱心に勉強できるはずなので、その結果、成功できる可能性が上がってきます。

会社では、研究成果が会社に貢献できることが最重要です。しかし、会社は社会の中に含まれる要因であるので、会社を通じて社会にも大きく寄与できる技術や研究テーマとは何かを考え、自分の目標をより高く設定すれば、それは立派な夢であり、モチベーションを上げることができると思います。

二番目は「情熱」ですが、これも不可欠と思います。私の場合、一度は諦めた研究の世界で、若い時からの目標であった環境技術の研究に携われたチャンスを生かし、これをどうしても成し遂げたいとの強い思いがあったから、失敗しても何とかやってこられたと思います。このような情熱は、周囲の人を動かす、つまり、上司や関係部門を説得し、周りに協力者を集めて困難を乗り越えていく原動力でもあると思います。

付け加えるなら、「感性」と「経験」も重要と思っています。一般論ですが、独創的な研究には、芸術家の独創性とも通じるような「閃き」の要因があると言われています。この閃きは、その人自身の感性、つまり、何かに感動し夢中になれる瑞々しい柔軟な心から現れてくる場合が多いようです。言い換えれば、専門分野の勉強はもちろん重要ですが、その分野の「常識」に捉われすぎてしまう固い心では、創造的な研究はできにくいということです。このため、例えば芸術や自然などに接して、豊かな感性を養い、自由に発想しこれを夢中になって追及していくことが大切のように思います。また、成功だけでなく失敗も含め、多くの経験を積み重ねていくことも重要であり、経験が多いほど様々なアイデアが出てくるはずです。ただしその際、成功と失敗の原因分析をしっかり行って、せっかくの経験を自分のものにしていく努力も必要でしょう。

今後の研究について

「究極の環境調和型プラスチック」、つまり「最高の環境調和性」とともに「最高の機能性」を両立でき、しかもユーザーから愛着や面白さ、時には驚きさえも感じてもらえるようなプラスチックの開発を目指していきたいと思います。このような材料の実現には、これからも苦労が続きそうですが、NECグループによる世界をリードするエコプロダクツの開発に貢献でき、さらに、環境調和材料を世界に普及させ、真の循環型社会の実現に寄与できれば本望です。

番外編:いままでの研究生活からひとこと

Q.研究開発の過程では大きな壁にぶつかることが何度もあったかと思いますが、今まで どのように乗り越えてこられてきましたか?

[位地]  逆境でも前向きな考えを持つこと、情報へのアンテナを張り解決のヒントを逃がさないこと、さらに、関係メンバーとの協力体制を作り上げることが重要だと思っています。

成果がさっぱり上がらず、いくら考えても解決策を見出せない苦しい時期があります。そのような時は、自ら落ち込まないよう気をつけながら、関連する情報(特に論文やネット等だけでなく、人脈を生かした水面下の情報も)をできる限り集めたり、協力メンバーや他部門の関係者などいろいろな人から話を聞いたり議論をしているうちに、解決のヒントが得られることがあります。また、他のことで気分転換して頭をリセットすると、意外とよいアイデアが浮かんでくることもあります。

特に研究の仕上げの段階(実用開発・製品化)では、難しい問題が次々と発生しますが、一人で抱え込まず、協力メンバーの様々なスキルや意見を尊重し、力を合わせていくことが困難を乗り切るのには大切と考えます。若いころの私は孤軍奮闘して失敗していましたが、齢とともにメンバーとのコミュニケーションの大切さを感じるようになりました。

Q.NECに入ってから本格的に環境技術に関する研究に取り組んでこられましたが、NECの研究環境はいかがですか?

[位地]  NECは人材、設備、研究費等の条件が揃っていると思います。特に、優秀な人材が多く集まっており、レベルの高い研究を成功させる重要な要因を持っています。

ただし、この人材を生かし大きな研究成果を上げるには、個人の能力に加え、研究グループ全体のレベルの高さと協力体制が重要と思います。それにはグループ内で、お互いの個性や発想を尊重しながらも真剣な議論を通じて切磋琢磨していくのと同時に、良好なコミュニケーションを保つことが大切ですが、これらはマネージメントを含め、さらに強化していく必要がありそうです。

位地主席研究員 参考資料

技術のポイントを動画で解説

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