2014年2月12日
国立大学法人東北大学
日本電気株式会社
東北大学とNECは、スピントロニクス論理集積回路技術(
注1)を応用した無線センサ端末向けマイクロコントローラ回路(以下、MCU: Micro Control Unit、
注2)を新たに開発し、その動作実験において、従来技術(
注3)と比較してMCUの消費電力を1/80まで削減することを実証しました。これにより、MCUを搭載したセンサ端末の電池寿命を約10倍まで延ばします。
現在、様々なセンシングシステムから集められる大量のデータ(ビッグデータ)を分析し、システムの異常や機器の故障など、現状を迅速に把握し将来の予測に役立てる技術への期待が高まっています。
社会インフラの維持管理を行う際には、インフラの状況に関するデータを常時収集・送信し、長期間安定して稼働する高性能な無線センサ端末が求められます。無線センサ端末の高性能化には、処理中枢であるMCUの高性能化が必要ですが、消費電力が増加するといった課題があります。
このたび東北大学とNECは共同で、高性能なMCUの消費電力を大幅に低減する技術を開発しました。従来、高性能なMCUは消費電力の大きさが課題となっていましたが、今回、MCU内の論理回路とメモリを不揮発化することでMCU全体の待機電力を削減し、高性能と省電力を両立しました。本MCUを無線センサ端末に適用することで、消費電力を大幅に抑えながら高度なデータ処理が可能となります。
このたび開発した、新技術の特長は次のとおりです。
- スピントロニクス素子の活用により、待機電力を抑えながら高速な電源制御を実現
論理回路の中にある電源制御回路や複数の機能ブロック(注4)にスピントロニクス素子を適用。これにより、待機電力を最小限に抑えながら、高速な電源制御を実現。必要な機能ブロックの電源オン状態への移行は、約120ナノ秒という極めて短時間で出来るとともに、小まめな電源オフが可能となり、不要な電力を削減。
- 不揮発レジスタの書き込み電力を削減
回路の中で消費電力の大きいレジスタ(注5)内の不揮発素子への書き込みに対し、電源オフ状態に移行する直前に書き込みを命令するCPU回路を新たに開発。また、書き込み前後のデータが同一の場合には上書き処理をキャンセルするといった緻密な制御を行い、不要な書込みによる消費電力の増加を抑制。
本技術を搭載したマイクロコントローラを試作し、無線センサ端末への動作を想定した実験を行ったところ、消費電力を従来比1/80に削減することに成功しました。具体的には、90nmのCMOS回路(
注6)と三端子MTJ素子(
注7)を組み合わせた集積回路チップを作成し、センサ端末での使用を想定したデータ収集と演算処理を実施しました(
注8)。
今回の結果を踏まえ、今後、高性能・低消費電力かつメンテナンスの頻度を大幅に低減できる無線センサ端末の実現に貢献し、高度なセンサを用いたビッグデータの活用を促進していきます。
NECは、ICTを活用した高度な社会インフラを提供する「社会ソリューション事業」に注力しており、新技術の開発もこの一環となります。
東北大学とNECは、最先端研究開発支援プログラム(
注9)の中で、スピントロニクス論理集積回路技術を適用した多様な集積回路を開発してきました。今回の技術開発と実証を通じて、電力効率指標を1/64以下にするという当初の目標を達成しました。
なお、東北大学とNECは、今回の成果を2月9日から13日まで、米国カルフォルニア州サンフランシスコ市で開催される半導体回路技術の国際学会「International Solid State Circuit Conference 2014」において、11日に発表しました。
本研究成果の一部は、内閣府の最先端研究開発支援プログラム(題名:「省エネルギー・スピントロニクス論理集積回路の研究開発」、中心研究者:東北大学 大野英男教授)によって得られたものです。
【別紙】スピントロニクス技術を活用し、無線センサの電池寿命を約10倍に延ばす新技術を開発
以上
(注1) スピントロ二クス論理集積回路技術は、電子が持つ性質であるマイナス電荷や微細な磁石であるスピンを利用して、電流の方向によって磁石のN/Sを反転させて演算結果を記憶する技術であり、論理集積回路上の全ての回路を不揮発化することが可能。回路の不揮発化はICT機器やシステムの省電力化を実現するために有効。
(注2) 電子機器の制御等に使われる、1チップにコンピュータシステムを組み込んだ
集積回路。
(注3) NEC製の揮発性マイクロコントローラ回路技術と比較。
(注4) タイマー、乗算器、通信制御、アナログデジタル変換器などを搭載。
(注5) 「不揮発レジスタ」は、計算途中の結果を一時保存する記憶回路で、CPU命令による書込みとログモードによる書き込みの選択が可能。
(注6) CMOS回路:回路をNチャンネル型とPチャンネル型の両タイプのトランジスタを組み合わせて構成したもの。
(注7) MTJ: Magnetic Tunnel Junction(磁気トンネル接合)
(注8) 実フィールドでのリアルタイム処理を想定し、動作周波数は従来の不揮発性MCU(注10)より2.5倍高速な20MHzとしつつ、実効的な消費電力は、本技術を使用しない場合と比較して1/80まで削減できることを実証。
(注9) 最先端技術の中心研究者を選出し、その中心研究者を核にした研究開発によって、日本の国際競争力向上を目標とする国家プロジェクト事業。
(注10) 2013年のISSCCで発表された強誘電体素子を用いた不揮発性MCUの動作速度は8MHz。
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