講演録 これからの10年〜日本は再成長できる〜
嶌 信彦氏 ジャーナリスト

写真:嶌 信彦氏

失われた10年、20年と言われた時代が過ぎ、ようやく経済の成長段階に入ったように見えた矢先、2011年3月11日の東日本大震災に見舞われました。そしてこの日を境に、人々の考え方や生き方にも変化が現れたように感じます。日本はこれから、この苦難をどのように乗り越えて経済を発展させていけばよいのか。また、そのためには何をすればよいのか。これからの10年における日本のあるべき姿についてジャーナリストの嶌信彦氏にお話しいただきました。

リスク管理に加え、必要とされるアクシデント管理

今回の東日本大震災では、まず、東北のすごさに驚かされました。未曾有の大地震と津波により、東北地方では多くの方々が被災され、工場も倒れたり閉鎖されたりしましたが、この影響は世界中に広がり、東北でつくられた部品がいかに世界のサプライチェーンのキーとなるものだったかを思い知らされたのです。我々は改めて日本の、そして東北の中小企業の力に驚いたのでした。

また、震災以降、リスク管理に加えてアクシデント管理の必要性が言われています。アクシデント管理とは、実際事故が起きた時にどう対応するかということです。今回の原発の場合は、まさにこれに当たります。日本では、原発は絶対事故を起こさないということで、リスク管理はされていたでしょうが、アクシデント管理ができていなかったため初動が遅れたと指摘されています。その点、アメリカやフランスはアクシデント管理がしっかりしています。これは、両国とも常に核戦争ということが頭にあるからです。原子力発電所の事故は一種の核戦争と同じという形で、アクシデント管理を行っているわけです。

ガレキの山となった仙台空港は滑走路が使用できるまで少なくとも3カ月かかるのではと思われていましたが、米軍の手伝いでわずか1週間でほとんどのガレキが撤去され、10日目には3,000mの滑走路が使えるようになりました。これもまた、アクシデントが起きた時どうすればいいかの訓練が日頃から行われていたからだと感じました。

日本においても、事故は絶対起きない、起こさないというばかりでなく、大事なのはアクシデントが起きた時、二番目、三番目にどういうことをするのか、あるいは避難をどうするかをきちっと考えておくことが必要です。

10年単位で起こる大きな世情の地殻変動

ここ最近は10年単位で世情の地殻変動が起きています。まず、1990年は冷戦が終結した年です。30億人近い人口の社会主義国の人々が一挙にグローバル化の影響で10億人の先進国経済に入ってきました。この安い労働力への投資が今日のデフレ経済のひとつの要因にもなっているわけです。また、この年からIT社会も本格化しましたので、1990年というのは、まさにグローバル社会とIT社会が一体化してやってきた年と言えるのです。

それから10年経った2001年の9月11日、米同時多発テロが起きました。アメリカはテロとの戦いという名の下、戦争を続けた結果、財政状態がおかしくなりました。戦争により一時的には景気は良くなりますが、それに目をくらまされてサブプライムローンが登場し、それが2008年のリーマンショックを起こすわけです。

日本は1990年のバブル崩壊後、すぐに立ち直るだろうと思っている間に10年が経ち、「失われた10年」と言われました。しかし、10年経っても景気は回復せずにサブプライムローンに巻き込まれ、結局「失われた20年」という状況になったのです。ようやく、2009年から2010年になり、少しは景気が良くなったかという感じが出てきところに3.11が起きました。9.11の10年後に3.11の大震災が起きたわけです。

これからの10年間は、エコノミーとエコロジーとエネルギーの3つのE(3E)をどうバランスさせるかが非常に大事になってくると言われていました。しかし3.11により、日本人そして世界の人達もそうかもしれませんが、3Eのバランスだけでなく、ライフスタイルをどうするのかが意識に上ってきているのではないでしょうか。今後は、エコノミーとエコロジーとエネルギー、そして我々のライフスタイルをどう変えるかが相当大きなテーマになると思います。

再成長のカギとなる日本の底力を発揮するために

日本には非常に大きな底力があり、これからの10年、必ず蘇ってくると思います。しかし底力を発揮するには、今までとは違うということを意識しなければいけません。

1960年代から1990年までの日本の強さは、低コスト、高品質、安価でサービスも良い製品を日本だけがつくっていることにありました。しかし、このやり方は既に中国、インド、ブラジルもやっていますし、韓国、台湾でも行われています。コスト的には圧倒的に向こうが安く、品質もかなり日本製品に近付いてきています。当然、値段も安いのです。

それでも、なぜ次の10年間で日本が勝てるかと言いますと、日本の強み、つまり底力とは、単なる1次、2次、3次産業ではない製品をつくってきたことにあるからです。

今「和食」が世界最高の料理とされています。なぜこれほど人気があるかというと、その素材なのです。米や野菜などの農産品は、安全・安心でしかもおいしくて栄養価も高い。まさに日本の素材は素晴らしく、加工の仕方も素晴らしいので、私は日本の1次産業は単なる1次産業ではなく、1.5次産業と言っています。これこそが日本の強みなのです。

2次産業も同様です。強力なアジア勢と戦うには2.5次産業をつくっていかねばなりませんが、現実に日本は2.5次産業をつくり出しています。例えば、環境関連などは圧倒的に日本が強く、トップを走っています。CO2、NO2排出量を削減した火力発電の技術をはじめ、家電製品や携帯に使われている金、銀、希少金属などのすべてを集めると希少金属の埋蔵量は世界でも2〜5位とされ、これらの金属を取り出す技術も持っています。まさに2.5次産業です。そのほかにも小惑星探査機「はやぶさ」に使われたイオンエンジンを開発する先端科学技術力、世界初のハイブリッド車の開発、ユニクロなど途上国の次期中産階級をターゲットにしたファッション業界、世界のサプライチェーンの要である東北の部品生産などは、すべて2.5次産業です。

もっとすごいのは3次産業です。クールジャパンとは、まさに3次産業に使われている言葉で、アニメ、マンガ、ゲーム、そして観光などは非常に優れています。特に日本の観光産業はまだまだ広がる余地があります。また、浮世絵に代表される日本の文化は世界から高い評価を受けていますが、これは日本人の感性によるところです。これからは品質や価格中心に取り組むだけでなく、デザインや感性に訴えるものを作っていかなければなりません。本来、日本人は得意なところですが、明治以降、富国強兵あるいは科学立国、輸出立国といって文化を軽視してきた感がありました。ようやく最近になって文化が息づいてきたと感じています。その文化を商品やデザインに採り入れていくことが、日本の大きな力になっていくと思います。そして、感性がどのように動いてきたか考えることが大事です。

震災の影響で、ガソリンが1リットル180円になったといって大騒ぎでしたが、子供には安全な水を与えたいと、ガソリン以上のお金を出して水を買います。このような考え方は、これからアジアでも起こってきます。今後は彼らもデザインやセンスで商品を選びます。このような感性を思い起こすことが、今非常に大切なのです。

最後に一つだけ言いますと、日本には素晴らしい技術がいっぱいあります。それを組み合わせ、何か新しいものをつくる構想力を我々はもう少し磨く必要があります。IT時代になり、スマートフォンをはじめさまざまな機器があふれていますが、これらはすべてアメリカから来ています。しかし、日本も持っている技術を組み合わせる努力さえすれば、とんでもない製品をつくれるのではないかと思います。こういう感性や構想力をもっと磨く必要があるのです。かつてソニーがウォークマンをつくったとき世界中が驚きました。家庭で聴いていた音楽が、歩きながら走りながら聴けるようになったのです。ウォークマンは、日本の高度成長のシンボルでした。

これからは、中流の上を狙えるような構想力、創造性のある商品をつくっていくことが大事です、日本にはそういう感性もあるし、技術もあるし工場も持っているのです。そして日本人の感性を外国の人に直接学び取ってもらうためにも、海外企業と合弁で工場などを作る際は、コストの安い国ではなく日本に誘致することが大切なのです。

 

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