車両故障時における列車走行シミュレーションシステムの開発
(PDF文書,1,140KB)


1.目的と背景
近畿日本鉄道では、列車運行に関する管理業務を運転指令所にて総合的に行っている。万一、車両故障が発生した場合、運転指令員は、適切な指示を出して、他列車の運行に支障を来さないように故障列車を最寄駅等に収容させる必要がある。そのとき、故障列車が自力走行可能であるか、あるいは、救援列車と連結して運転する必要があるか等の判断が必要であるが、それには、モーター故障状態・車両性能・そのときの天候・最寄駅までの地形(線路勾配)など多数の要因があり、運転指令員が迅速かつ的確な判断を下すことは非常に困難である。 こうした状況から、車両故障発生時に、故障列車のその後の走行シミュレーションを即座に行って、運転指令員の判断をサポートするためのシステムを開発するに至った。

2.概要
今回開発したシステムは、「列車走行シミュレーション機能」と「マスター管理機能」で構成される。列車走行シミュレーション機能は、以下の手順で列車の走行シミュレーションを行い、その結果をパソコン画面上にグラフィック表示するものである。
@列車乗務員から通報された地点(車両故障が発生した線路上の位置)・収容駅・天候を入力し、故障地点から収容駅間の地形と信号機位置を地形情報としてグラフィック表示する。
A故障列車情報(車両形式・編成)、モーター故障状態、および車内混雑度をシステムに入力する。この条件で走行シミュレーションを実行し、故障列車が自力で収容駅まで走行できるかどうかを判定する。自力走行可能な場合は、収容駅までの所要時間と運転速度をグラフィック表示する。
B自力走行不可の場合、前方または後方にいる列車(救援列車)と連結させ、その条件での走行シミュレーションを実行する。
また、マスター管理機能は、列車走行シミュレーションを行う上で必要な地形情報(勾配・信号機・電柱・駅)、車両情報(列車編成・車両形式・定員・重量)、モーター性能(最大限流値・引張力)等の情報を管理するものである。

3.キーポイント
最初のシステムは、昭和60年にN5200上で動作するP-TOS版のシステムとして開発され、その後、平成7年にパソコンを更新し(PC-9821AS2)、同時に操作性向上等のシステム改良を行った。しかし、機器が老巧化してきたことと、利用部門から車両故障時に現システムよりさらに素早く対応でき、かつ、特別の専門知識がなくても操作できるシステムへの改良要請があったこと等により、Windowsアプリケーションとして、以下のキーポイントでシステム再構築を行った。
(1) 描画スピードと操作性の向上
本システムを使用するのは緊急時であり、データ入力がすばやくできるようにプルダウン選択方式を採用するなど操作性を向上させ、また、パソコンの高性能化により走行シミュレーション実行や描画での格段のスピードアップを実現した。
(2) 地形状態の描画方法の工夫
列車が停止している線路上の地形は、故障列車を救援する場合の非常に重要な判断ポイントとなる。システムでは地形を描画する方法を2種類用意し、係員の選択で切替えができるようにした。地形には平坦部分と勾配部分があり、特に勾配を表す方法を工夫したことで、係員がパソコン画面で故障地点の地形を確実に捉えられるようになった。

4.計画
開発期間  平成14年7月〜平成15年3月
・列車走行シミュレーション機能の開発 : 平成14年7月〜平成15年1月
・マスター管理機能の開発       : 平成15年2月〜平成15年3月

5.評価
本システムの開発により、これまで運転指令所のみで運用されていた列車走行シミュレーション業務は、本社運転管理部門や車両検修部門にも導入され、車両故障を想定した係員教育や新型車両導入時の走行性能評価にも利用されるようになり、安全・正確・迅速な鉄道輸送サービスを支えるシステムとして活用されている。
なお、本システムの列車走行シミュレーション機能では、鉄道車両特有の計算式により加速度を計算し、その積分により走行速度を算出している。このアルゴリズムの正当性を確認するのに大変苦労したが、無事完成に結びつけることができたことは非常に感慨深い。