線路保守作業の効率化と列車の安全走行を目指した軌道検測システムの開発
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【要旨】

1.目的と背景
鉄道の線路(軌道)は、走行列車の衝撃や道床のゆるみ等により、時間の経過とともに狂いが生じてくる。鉄道各社では、定期的に軌道検測車を走行させて軌道の状態変化を検測して、その結果をもとに軌道狂いを補修し、安全性の確保と乗り心地の向上に努めている。近畿日本鉄道(以下「近鉄」という)でも、年4回高速軌道検測車による定期検測を行っている。従来、その収録データは汎用コンピュータでバッチ処理され、結果が帳票やチャート図で出力されていた。しかし、最近のコンピュータ利用技術の進展もあり、処理結果がパソコンのGUI環境で手軽に見られないことや処理データの精度も十分でない等の問題が表面化してきた。
こうした状況から、近鉄技術室と当社が共同で、軌道検測車データ収録装置の更新とデータ処理システムのパソコン化を行い、このほど供用を開始した。新システムへの更新に当たっては、地点対応(測定データと線路上の位置との対応付け)の精度を高めること、軌道検測車上でデータ処理を行って結果がすぐに分かるようにすること、線路保守を担当する部門でも容易に検測データを活用できること等を開発目標とした。

2.概要
近鉄の軌道検測車での検測項目は、以下の5つであり、25cmごとのデータを収録する。
・通り :左右各レールの水平方向のずれ
(10m弦での中央部のずれ)
・高低 :左右各レールの垂直方向のずれ
(10m弦での中央部のずれ)
・軌間 :左右レール間の距離
・水準 :左右レールの垂直方向の高度差
・平面性:水準の変化率
線路の曲線部分では、当然、通りや水準の値は大きくなる。検測した生データから正しい線路形状に基づく設定値を減算した値が、その地点での狂い量となる。
今回開発した新システムは、軌道検測車上でデータの収録・解析処理等を行う「車上システム」と、解析済みデータを保存・管理・利用する「地上システム」で構成される。車上システムは、データ収録装置と車上データ処理装置で構成される。データ収録装置で10〜40Kmの単位で収録されたデータを車上データ処理装置に転送し、車上データ処理として、地点対応処理、狂い量算出処理等を行って、軌道不良箇所表やチャート図を出力する。また、地上システムでは、検測データの管理、各種マスターの管理、検測データの統計処理、各種の検測データ利用機能を持っている。

3.キーポイント
システム開発のキーポイントは以下のとおりである。
(1) 軌道検測専用のIDシステム(1Kmごとの等間隔に敷設したIDプレートにより線路上の位置を特定)を新たに採用したことにより、地点対応精度が著しく向上した。(従来システムではATS地上子を用いた地点対応付けを行っていたため、最大で2Km以上の設置間隔があるところでは、累積誤差が大きくなることもあった)
(2) 検測走行中にデータ解析処理を行い、帳票やチャート図がすぐに出力できるようになった。
(3) 膨大なデータを取扱うシステムであり、処理の高速化に工夫を凝らした。たとえば、専用バイナリーファイルを採用したこと、ファイルI/Oの回数を少なくなるようにしたことなどである。
(4) 線路保守部門での軌道保守作業に検測データを直接利用できるようにした。(従来システムでは帳票に印刷された情報をパソコンに手入力して利用していた)

4.計画
以下のとおり、4フェーズに分けて開発を行った。
(フェーズ1)車上データ処理プロトタイプ開発:平成9年5月〜平成9年12月
車上データ処理の基本部分を先行開発して、アルゴリズムの正当性検証、データ精度の確認、処理速度の確認などを行った。
(フェーズ2)車上データ処理本番システム開発:平成10年1月〜平成10年9月
操作員とのユーザインターフェースなど操作面や機能面を充実させた。また、軌道検測車を走行させてのテストを繰返し行い、車上データ処理の安定動作を確認した。
(フェーズ3)地上システムの開発(1):平成11年4月〜平成11年9月
本システムの運用管理を担当する部門(機械軌道区)用システムの開発を行った。過去の検測データの管理、各種マスター管理等の機能を開発した。
(フェーズ4)地上システムの開発(2):平成12年2月〜平成12年11月
線路保守担当部門(保線区)で使用するシステムの開発を行った。 検測データの統計処理、線路曲線部分で発生する通り狂いを修正するための移動量計算処理(曲線整正処理)等を開発した。

5.評価
プロトタイプシステムで基本処理アルゴリズムの検証を十分に行ったことで、本番システムの開発は比較的スムーズに進んだ。また、データ処理速度も予想以上の好結果が得られている。
本システムの本格導入により、これまでベテラン作業員の"カン"に頼っていた線路保守作業の効率化と高精度化が図れたことに加え、列車運行の安全性向上にも貢献している。今後、システム改良の要望に応えて完成度を上げ、近鉄軌道保守部門の重要システムとして幅広く活用されるものと確信している。