事例

石巻専修大学様
3Dプリンタを活用した復元立体模型によるふるさと、石巻「心の復興」プロジェクト

石巻専修大学は、3Dプリンタを活用して、震災前の町並みを立体模型で再現する「復興支援プロジェクト」を立ち上げました。これは復元立体模型を通じて、石巻市沿岸住民の方々が、ふるさとの町並みを思い出し、復興のための元気、希望、奮起を醸成するきっかけとなることを目指す取り組みです。同プロジェクトを実現するために尽力された石巻専修大学の関係者および、技術面から後方支援を行ったNEC担当スタッフにお話を伺いました。

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1/750スケールで再現された石巻市沿岸部(門脇町・南浜町周辺)の立体模型

プロジェクト発足の背景:『心の復興』なくして『町の復興』はありえない

2011年3月11日、宮城県石巻市沿岸部を東日本大震災による大津波が襲いました。大津波の猛威により、家屋や樹木は倒壊し、数多くの尊い人命が失われました。沿岸部から5kmほど離れた石巻専修大学様は、東門周辺が海水に浸ったものの大きな被害はありませんでした。同大学は避難所として地域住民約400人を受け入れ、教職員や学生は支援活動に尽力しました。経営学部准教授の益満環氏と理工学部准教授の高橋智氏は、研究室で避難生活を送る中、復興に向けた支援策を話し合いました。「理工学部の3Dプリンタを活用して、震災前の町並みを立体模型で復元すれば、津波で家屋や思い出を失ってしまった方々を勇気づけられるのではないか」と、2人の意見は一致しました。

こうして始まったのが「3Dプリンタ活用による石巻市沿岸部の復元立体模型の製作」プロジェクトです。3Dプリンタとは、石膏や樹脂などを原料に、3次元形状の物体を造形する出力装置です。同大学は、NECが担当した2010年の「教育研究用電子計算システム」更新時に、東北地区の私立大学で初めてカラー3Dプリンタを導入しました。理工学部では、主に自動車部品などの設計・試作をする授業で利用していましたが、町の立体模型に応用するのは初めての試みでした。

「震災後、がれき撤去や仮設住宅建設、防災工事などハード面の復興は進みましたが、地域住民の心を癒すソフト面の取り組みが追いついていないと感じていました。今後の復興において、大事にしなければならないものは、そこに生きる地域住民の歴史であり、生き様であり、魂だと考えます。『心の復興』なくして『町の復興』はありえません。石巻市沿岸部に暮らした方々が、故郷の町並みを思い出し、復興のための元気、希望、奮起を醸成するきっかけになることを願い、本プロジェクトを立ち上げました」と益満氏はプロジェクトにかける思いを話します。

プロジェクトの実施プロセス:苦難の連続だった立体模型づくり

同大学情報教育研究センター長である湊信吾氏を通じて、趣旨を知ったNECは、プロジェクトを全面的に支援する決断を下しました。さらに、地元の石巻信用金庫様の協賛や文部科学省の助成を得て、2011年7月にプロジェクトが動き始めました。ところが、その道程は順風満帆とはいきませんでした。最初の課題は、沿岸部のデジタルデータ探しです。地図ソフト作成会社や測量会社に問い合わせると、2Dデータはあっても肝心の3Dデータはないとの返答。約2カ月間、手を尽くして探した結果、国際航業様がデータを持っているとの情報を入手。益満氏は、プロジェクトにかける思いを手紙にしたため、真摯に訴えました。その結果、本来多額の使用料が必要な3Dデータを無償提供していただけることになりました。

その後の作業も苦難の連続でした。元データを3Dプリンタ用に分割するため、家屋がバラバラにならないよう手作業で編集を行い、座標軸を計算しながら建物データを一軒一軒、地面データに貼り付ける緻密な作業が続きます。しかし、何より大変だったのは、写真とデータのすり合わせ作業でした。

「入手した3Dデータは2009年版で、その後に新築された家屋などの情報が含まれていません。立体模型を見たとき『私の家がない』『こんな家ではなかった』と心を痛めてしまう方がいたら、このプロジェクトは失敗だと考え、細心の注意を払ってすり合わせ作業を行いました」と益満氏。学生たちが手分けして、オンラインの地図サービスとデータを見比べ、家屋の色や形、路地裏の風景まで徹底チェックする作業は、正月も春休みも返上で毎日繰り返されました。

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Express5800/53Xe で構成されたHPCルーム。右奥が3Dプリンタ。

ようやく3Dデータが完成しても、安心はできません。3Dプリンタで出力するプロトタイプは、石膏パウダーで造型されているため、扱い方を間違えるとボロボロ壊れてしまいます。これを防ぐには、造形後に専用ボンドで含浸処理を行わなければなりません。また、樹木や車などはデータに含まれないので、ミニチュア模型を使用し、手作業で追加する必要がありました。こうして1ブロックの模型が完成するまでに最短で約3日かかり、全エリアの完成には延べ200日以上の月日を要しました。

 

システムの評価:システムの堅牢性とハイパフォーマンスがプロジェクトをサポート

本プロジェクトを推進する上で、重要な役割を果たしたのはNECが2010年に構築した「教育研究用電子計算システム」の堅牢性とハイパフォーマンスでした。

「3月11日の地震で学内は激震に見舞われましたが、モニターやPC、サーバの倒壊などは、まったくありませんでした。また、地震による停電が約10日間続きましたが、UPS(無停電電源装置)が働いたため、データ消失も一切なく、電力復旧後は問題なくシステムを起動できました。もしも、震災時に倒壊やデータ消失が起きていたら、今回のプロジェクトを進めることは困難だったと思います」と湊氏は、システムの信頼性を評価します。同大学のシステムは、モニターや端末への耐震ジェル適用やサーバラックのアンカー止め、システム冗長化などの震災対策を施していたため、震度7の激震に見舞われても問題が起きなかったのです。

また、立体模型の編集作業に関わった益満氏は「3Dデータは容量が大きいだけではなく、編集時に高度な演算処理が必要となるため、処理能力が低いと作業を進められません。しかし、NECが構築したHPCルームのマシンは、非常に高スペックでスムーズに作業を進められました。また、編集端末のチューニングなどの要求にも、迅速に応えてくれ、大変助かりました。このマシン環境がなかったら、おそらく1年かかっても模型は完成しなかったでしょう」と話しています。

プロジェクトの成果と展望:

完成した沿岸部の立体模型は、2012年7月から石巻信用金庫様の本店に展示されました。「目で見るだけではなく、手で触って、当時の町並みに思いを馳せてほしい」との益満氏の要望を受け、ケースや囲いをつけることなく展示されました。家屋や工場、商店、施設の一軒一軒まで丁寧に再現された立体模型を一目見ようと、同店には1カ月間に約2,000人が訪れました。「わが家を見つけた」と涙ぐむ声や、「薄れかけていた地域の姿を思い出させてもらった」と感謝の言葉を述べる声が、数多く聞かれました。プロジェクトに携わった経営学部マネジメントコース1年生の小松慧氏は「模型にしたのは市街地でも特に被害がひどかった地域。模型を眺めることで、震災前の町並みを思い出してもらえたらうれしいです」と感想を話してくれました。

立体模型の展示は、予想を超え大きな反響を呼びました。ある中学校から震災前後の変化を学ぶ社会科学習に使いたいとの問い合わせが来たり、北海道の高校から復興支援やモラル教育のために模型を空輸してほしいとの依頼があったり、地元の工業高校からは3Dプリンタを活用して連携学習を行いたいとの要望などがあったといいます。

最後に益満氏は今後の展望を次のように述べます。

「今後は、新たに4分の1の縮小版立体模型を作成して仮設住宅などに展示し、心のよりどころにしていただくことを考えています。また、地域住民や子どもたちとの共同プロジェクトを立ち上げ、立体模型をつかって未来の石巻の姿を一緒に考えていく計画を構想しています」


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石巻専修大学 経営学部
准教授 益満環氏

「この復元立体模型が、石巻市民の『心の復興』の礎となることを心から願ってやみません」

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石巻専修大学
情報教育研究センター長 湊信吾氏

「震災時に倒壊やデータ消失をしないシステムの堅牢性が、プロジェクトを支えたと評価しています」

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石巻専修大学
経営学部マネジメントコース1年 小松慧氏

「被災された方々が、模型を眺め、震災前の町並みを思い出してもらえたらうれしいです」

 

NEC担当スタッフの声

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NEC東北支社
公共第一営業部 渡邊勇輔

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NECソフトウェア東北
第三ソリューション事業部 小湊達徳

 

2010年4月の「教育研究用電子計算機システム」構築に携わり、石巻専修大学様を担当するNEC東北支社 公共第一営業部の渡邊勇輔は、「立体模型の展示会場で、被災された方々が『これが私の家だったんですよ』と感慨深げに話している姿を見て、今回のプロジェクトは石巻専修大学様を通して地域の方々をサポートする取り組みだったと実感しました。間接的な支援であってもNECの取り組みが、人々の心を癒し、社会貢献につながったことは、私自身にとっても素晴らしい経験でした。これからもさまざまな公共機関や企業にシステム提案をする際、お客さまへの直接的なサポートはもちろん、その向こう側につながる人々や社会まで視野を広げた営業をしていきたいと思っています」と、本プロジェクトに携わった感想を話します。

NECソフトウェア東北 第三ソリューション事業部の小湊達徳は、震災前と後ではシステムに対する考え方が変わったと言います。 「システム構築時には一通りの耐震策を講じていましたが、予想をはるかに上回る今回の震災に遭遇してもモニターやマシンの倒壊、データ消失などが起きず安心しました。しかし、今回の震災を機にBCPの大切さが今まで以上にクローズアップされたことも事実です。これを受けて、今後はクラウド化やデータセンターでのバックアップなどのBCP対策を提案していきたいと考えています」

NECグループは、大学における教育の情報化を支援するだけではなく、今回のプロジェクトのような社会貢献活動のサポートも重要な業務と認識し、これからもさまざまな製品およびサービスを提供してまいります。

お客様プロフィール

学校法人専修大学 石巻専修大学

所在地 宮城県石巻市南境新水戸1 写真
創立 1989年
  石巻専修大学は学校法人専修大学が初の理工系学部を含む総合大学を目指して、1989年(平成元年)に宮城県石巻市に開学しました。先端的な学術研究と実践的かつ対話型の教育活動で知られ、地域に開かれた大学」として地域との連携事業も積極的に展開しています。
全ての学科にはコース制を導入し、将来を見据えた専門分野が学べます。
創立25周年を迎える2013年4月には「人間学部」(設置認可申請中)が開設される予定です。
学生数は 1,853人(2011年5月現在)。
URL http://www.isenshu-u.ac.jp/
 

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