デジタルフォトコンテスト特別企画フォトレッスン2014

 

鉄道写真で「ほっこり」―中井精也さんに聞く、「ゆる鉄」の極意  かわいらしいローカル線や味のある木造駅舎など、のんびりとした鉄道のある風景をユニークな視点で切り取った、中井精也さんの「ゆる鉄」シリーズ。鉄道そのものだけでなく、そこから感じられる旅情や出会った人、風景に着目したあたたかな作品が人気です。今回は、鉄道を心から愛し、型にはまらない作品を発表し続ける中井さんのルーツに触れながら、作品に込めた想いや、撮影のポイントを伺いました。

「ゆる鉄」の魅力を探る

はじまりは、オレンジの中央線

— いまや日本を代表する鉄道写真家として知られている中井さんですが、カメラや鉄道との出会いはいつだったのですか?

初めてカメラを手にしたのは、小学6年生の時でした。写真好きが高じて税理士の傍らカメラ店を営んでいた父がくれました。最初の被写体は、JR中央線のオレンジ色の新型車両。そのうち山手線や京浜東北線も撮るようになって、中学では鉄道研究会に。各地の路線を研究しながら写真を撮るという活動を続けていくうちに、ローカル線に魅力を感じるようになりました。当時は国鉄のJR化に伴い多くの路線が廃線になってゆく頃だったので、「なくなる前に撮りに行きたい」という気持ちもありましたね。

— 鉄道ともカメラともほぼ同時に出会われたのですね。これまでたくさんの路線に乗車されていると思います。中でも印象深いローカル線の思い出はありますか?

中学2年の時、親に内緒で北陸の神岡線というローカル線に乗りに北陸に行ったんです。一人ぼっちで不安になっていた時に、窓から見えた紅葉がすごくきれいで感動しました。その時に初めて「旅情」というものを感じて、「こういうものを写真に撮りたい」と思うようになりました。

弟子入りから「1日1鉄!」まで

— 中学生の頃にすでにプロカメラマンになるという夢を抱いていたとのこと。見事に夢を叶えられた中井さんですが、プロとして独立するまでは、どのように活動されていたのですか?

大学卒業後、写真学校に1年通ってから、真島満秀さんに弟子入りしました。鉄道だけではなく人に焦点を当てた写真を撮る方で、写真の技術というよりは、カメラマンとしてのあり方を学びました。たまたま弟子入りのお願いに行った翌日にJRの仕事があったので連れて行ってもらったのですが、そこで初めて、「売れる写真と自分が撮りたい写真は違うんだ」ということに気づきました。

— 鉄道写真家を志していた中井さんにとっては、我慢の時期だったのでしょうか。

そうですね。プロになってからも食べるためにしばらくは鉄道と全く関係ない写真を撮っていましたが、料理やタレントさんの写真ばかりを撮っているうちに、好きだったはずの鉄道写真を「面倒だな」と思うようになってしまったのです。そのことにショックを受けて、鉄道写真家である証として、同時にアマチュア時代のように楽しみながら鉄道写真を撮ろうと思って始めたのが、ブログ「1日1鉄!」です。

「ゆる鉄」の誕生=「彼女に引かれない鉄道写真」

— 中井さんといえば「ゆる鉄」が代名詞にもなっていますが、この独特のジャンルはどのようにして生まれたのでしょうか?

僕が鉄道写真を撮り続ける理由のひとつに、「自分の好きな鉄道を誰かに見てもらいたい」という想いがあります。「ゆる鉄」もそこから生まれていて、「彼女に見せた時に引かれない鉄道写真」が当初のコンセプトでした。というのも中学生の頃、彼女ができたんですが、かっこいい編成写真を見せても「はぁ、中井君電車好きなんだ…」というつれないリアクションが返ってくるだけ(笑)。でも、田園の中のローカル線やお花と一緒に撮っている写真だと「かわいい」って言ってもらえるので、「これだ!」と思って。それがルーツとなっています。人に共感してもらえる写真が、自分の撮りたい写真と同じだったことは、写真家としてハッピーだなと思いますね。

— そうですね。ハッピーな感覚が作品からも感じられるからこそ、多くの人に支持されているのだと思います。では、「ゆる鉄」に込めた想いを聞かせてください。

「ゆる鉄」では、鉄道に乗った時に感じるのんびりした空気感や、旅情を撮りたいと思っています。特に、近代化された社会の中に残された「ゆるさ」を見つけるのが楽しいです。海外では鉄道は単純に運搬手段として存在していたり、反対にすべてがのんびりしすぎていて「ゆる鉄」の価値が引き立たなかったりするのですが、鉄道と旅情をセットで感じられる日本だからこそ、ローカル線の「ゆるさ」が伝わるのではないかと思います。

カメラを通して感じる、鉄道と人の関係

— 全国の鉄道を写真におさめてきた中井さんにとって、鉄道とはどういう存在でしょうか。

僕は鉄道と一緒に、そこに暮らす人の姿も写真に残していきたいと考えています。そう思うようになったのは、三陸鉄道の存在が大きいです。高校2年の時に三陸鉄道開業の様子を取材したのですが、住民の皆さんが鉄道の開通に大喜びしているのを見て、「鉄道は趣味のものではなく、誰かを運ぶためのものなんだ」と気づいたのです。そして東日本大震災では、三陸鉄道は発生から5日後に無料運行をして人々に勇気を与えました。首都圏でも多くの人が帰宅困難になりましたが、鉄道が動き出したことで安心しましたよね。あの時、「鉄道は電気や水道と同じように、平和な日常の象徴なんだ」と強く感じました。

— 確かに、鉄道には人々の暮らしを支える大事な役割もあると同時に、心のよりどころにもなっているのですね。

はい。そうした鉄道の価値を伝えていきたいと思うのですが、最近の子どもたちは一人旅が学校で禁じられていて、ローカル線の価値や旅情そのものを感じるレーダーができていないようで残念です。今後、子どもたちの感情を育てる取り組みに関わっていきたいですね。鉄道会社の経営はどこも苦しいですが、僕の写真を見てひとりでも多くの人が列車に乗りに行ってくれればいいなと思って撮っています。

写真:中井精也

プロフィール

中井 精也(なかい せいや)
1967年、東京生まれ。成蹊大学法学部卒業後、写真専門学校を経て、鉄道写真家の真島満秀氏に師事。
独立後、2000年に山ア友也氏と有限会社レイルマンフォトオフィス設立。
2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を連載中。

 
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