デジタルフォトコンテスト特別企画フォトレッスン2012

カメラを持って旅に出よう 写真家:渡部さとるさん

1 [フィルムvsデジタル]

― デジタルカメラが主流になって、撮れる写真の幅もずいぶん広がりましたね。

たとえば戦前であれば、カメラというのは三脚の上に据えて撮るもので、動きのあるものを撮るなんてほとんどできませんでした。それが1930年代くらいにライカというカメラが出てきて、一瞬をとらえることができるようになりました。そして戦争によって、カメラは劇的に進化していきます。たとえばレンズは潜水艦の潜望鏡や機関銃の照準器などの開発に伴ってどんどん進化しました。第二次大戦の後、1950年ぐらいに、カメラはひとつのピークを迎えます。でもフィルムはまだモノクロなんです。カラーが普通に使われるようになったのは、70年代から。そして2000年にデジタル時代を迎えると、さらに新しい写真のジャンルが出現します。それは「闇景」と呼ばれるもの。夜景じゃなくて、闇景。具体的に言うと、デジタルになって超高感度撮影が可能になり、オーロラなど暗い場所での撮影ができるようになりました。暗闇で常に動いているオーロラは、フィルムで撮っても、なかなかうまく撮れなかったんです。
極端に言うと、デジタルになったことで、フィルム時代の10年分くらいの撮影スキルを一瞬にしてクリアできるようになった。つまり10年の修業が必要だった高度な撮影技術がなくても、カメラ任せで自分の撮りたいイメージを作り出せるようになった。最近では現代芸術の世界でも、写真で表現するアーティストが増えてきたように思います。そういう意味では、ますます従来の写真というくくりではとらえられない作品も多く登場しています。
では、フィルムは時代遅れかというと、そうではありません。メリットは“紙に残る”ということ。いまの子どもたち、たくさん撮ってもらっていても、パソコンのハードディスクのクラッシュなどで、思い出の写真が一枚も残っていない、という人がけっこういるようです。

― デジカメって、なかなかプリントしないですよね。

まめな人じゃないと、プリントしないのでは。僕だってデジカメで撮ったらプリントしませんもの。ネガだったら、どう映っているか確認するには、プリントしないとわからないですからね。結果が残るんです。プリントにする、というのは、案外とても大きな意味があると思いますね。

2 [カラーvsモノクロ]

― カラーで撮る場合とモノクロで撮る場合とでは、対象のとらえ方や見方は変わりますか?

デジタルの話でいうと、モノクロは256階調しかありません。白から黒まで、256階調以上分割しても、人間の目ではわからないとされています。一方、カラーは、優に1677万色もある。これは勝負にならないくらいカラーのほうが、情報量が多いわけです。だから情報として伝えたいときには、カラーのほうがいいのでしょうね。モノクロの場合は、何かを伝えるというより、モノクロの階調自体が美しくないと意味がないということになる。カラーが当たり前の時代に、あえてモノクロを選択するためには、モノクロの美しさを知らないといけません。それでは何が美しいのかというと、光のグラデーション。これはカラーよりモノクロの方が上だと思う。しかしそれには、たくさんのモノクロ写真に接してみて、モノクロの美しさを知らないと理解は難しいと思います。

― 見る側にもスキルがないといけないということですね。

素晴らしいと言われているモノクロ写真をたくさん見ることでしょうね。写真集はもちろん、できればオリジナルプリントも見たほうがいいです。

3 [観光地vs日常の街]

― 観光地での撮影についてはいかがですか?

たとえば、目的地を決めて旅に出たとしても、本当のことを言えば僕の場合、一番面白い写真が撮れるのは、その途中で道に迷ったときなのです。実は、僕は方向音痴。でもそのおかげで予想もしなかった場所に行ってしまうことがあるんです。以前、アムステルダムで駅を目指して歩いていたら、逆方向に進んでいたらしく駅に着かない。そのうち音のする方角に行ってみたら、巨大な移動遊園地があって、思ってもいなかった別世界のような場所に遭遇したことがあります。あのとき迷子にならずに駅に向かっていたら、出会えなかった場所です。だから、方向音痴の特権だなと思っています。それに道に迷うことによって、現地の日常を垣間見ることもできる。だから観光地でもどこでも、とにかく迷ってみると面白いですよ。僕も観光地に行けばそこの写真は撮りますけど、あたりを迷っている時間が人よりも長いと思います(笑)。

4 [スナップショットvsポートレート]

― 人物を撮る際、スナップ派、ポートレート派に分かれると思います。それぞれの撮影のコツがあれば教えてください。

さすがに旅先で知らない人にいきなり撮らせてとはいえませんので、その場にしばらく留まって、場の雰囲気に馴染んだところでカバンからカメラを取り出して撮影するようにしています。この場合、カメラはローライフレックスなどの二眼レフを使うことが多いですね。このカメラは、上からファインダースクリーンを覗いてピントを合わせなどの操作をしますから、被写体に対してお辞儀をしている恰好になります。はたから見たら頭を下げているような恰好です。35mmの一眼レフを構えると、「何をしているんだ」と不快に思う人から言われることがありますが、二眼レフで上から覗いて撮っていると、人によってはカメラ自体に興味をもって、声をかけてくれる人もいるんですよ(笑)。
「ポートレート」という言葉を定義するとしたら、「被写体が撮られていることを意識している写真」と僕は考えています。なので、僕は望遠レンズはあまり使いません。標準レンズぐらいで、寄って撮るのが好きです。そのほうが面白い写真になります。

5 [6×6 vs 35mm]

― 渡部さんご愛用のローライフレックスは、ブローニーフィルムを使い、フォーマットは6×6の正方形。一方、一眼レフなどは35mmのフォーマット。昨今のデジカメでは、フォーマットを変えて撮ることもできますが、このフォーマットの違いによる撮影への影響は、いかがでしょうか。

世界は別に正方形でも3対2でもありません。撮るときにフォーマットを決めるのは、物を見る際の意識付けです。端的に言うと、6×6の正方形は、対象物を1つしかとらえることができません。しかし横長(あるいは縦長)の35mmなら、前後の奥行き感を出すことができます。自由度が高いのです。6×6では、まっすぐ対象物を見る決意をしないといけません。遠近感など出せない。真ん中に中心があって、前後がない。ある意味、非常に潔いです。自分でどちらのフォーマットが好きか、ということになると思いますが、女性は6×6のローライフレックスが好きで、男は35mmのライカが好きという人が多いようです。

6 [ズームvs単焦点]

― 撮影に出かけようとすると、さまざまなレンズを持っていきたくなります。その点、ズームは1本で何本もの単焦点の役割を果たし、ずいぶん便利に思えます。ズームレンズを使うのと、単焦点レンズを使うのとでは、出来上がった写真に違いはありますか?

物事をどう見るか、ということになりますが、僕自身は単焦点レンズを使うほうが被写体をとらえやすいように感じています。なぜなら、対象物に寄りたいときは自分から近づけばいいし、広く撮りたいときには自分から離れればいいだけのことなので。僕はそれを、その時々の自分の感覚で決めています。たとえば、ローライフレックスなんてレンズ交換ができないので迷わなくていいんです。一方、ズームレンズは、いろいろアレンジができるという面白さはありますが、結局ズームレンズの端と端の2焦点しか使っていないことが多いんですよね。
話はそれますが、35mmの場合、レンズの焦点距離と年齢が一致すると言った写真家がいます。20歳なら超広角の20mm、35歳なら35mm、50歳になると50mmの画角がちょうどよく見えるというものです。僕もだんだん標準レンズに近づいてきましたね(笑)。

7 [順光vs逆光]

― 著書『旅するカメラ』の中に、「逆光で光線を引いた写真には不思議とリアリティがある」というお話がありますが、逆光あるいは順光を効果的に使う方法を教えてください。

マンガで光を表現するようなシーンでは、昔のレンズでよく現れたフレアーやゴーストといったようなものを描いていますね。今のレンズはそうしたフレアーがほとんど出ませんが、光を表現しようとするには、逆光は効果的だと思います。一方で順光は敬遠されがちですが、実は写真を撮るときには一番いい条件になるんです。順光とは、太陽を背にした状態。光を情報として考えると、順光はその情報を一番多く被写体に伝えることができます。特に午前中の光はとても美しいものです。僕は旅にでると、その光を求めて早朝から行動することにしています。

― 太陽が出ていない雨天のときはいかがですか?

雨が降ったら撮らないですよ(笑)。どこかで雨宿りします。南の島ではしょっちゅうスコールが来ます。そんなときは、雨宿りした場所から外を撮ったり、雨宿りしている人たちを撮ったりしています。

― ストロボが嫌いで、夕方6時以降は撮らないという人を知っています。

それもひとつの考え方ですね。フィルムカメラだとあまり暗いところは、ストロボなしには撮れません。僕はフィルムで写らないシーンは無理に撮らないと決めています。たとえばローライフレックスなら、1メートルしか寄れないので、クローズアップ写真はあきらめざるを得ないということになります。
多くの人は、あれも撮ろう、これも撮ろうとして、かえって失敗してしまうのかもしれませんね。

作品紹介

ロンボク島 1989年4月
バリ島から軽飛行機で30分、ロンボク島タンジュンアンのビーチには観光客は誰もいなかった。真っ白な砂浜では子供たちが遊んでいた。

ミャンマー02 2006年12月
ヤンゴンにあるシェラゴンパゴタ寺院は、全てを金で覆われていて眩いばかりだった。人々は日常的にお参りにやってくる。

中国 2005年12月
長江と嘉陵江(かりょうこう)が交わる重慶は、昔から交易の要所だった。二つの河の温度差から、重慶は常に真っ白な霞みで覆われている。

アムステルダム 2008年6月
アムステルダムは新旧のビルが混在していても調和が取れていて、とても美しい街並みを残している。

ミャンマー01 2006年12月
僕はどこの国へ行っても必ず市場を訪れることにしている。多民族国家のミャンマーならではのカラフルでにぎやかなマーケットだった。

モンゴル 2010年6月
「何もない風景」に魅せられて3度もモンゴルに足を運んだ。いつも宿泊はホテルではなくて、現地のゲルに泊めさせてもらう。

パリ 1999年2月
パリはモノクロ写真がよく似合う街だ。裏路地で通り過ぎる自転車に合わせてシャッターを切った。

米沢 2006年8月
40歳を過ぎるころから生まれ育った町を撮り始めた。米沢は、お盆が過ぎると急に秋の様子を見せ始める。

東京 2002年1月
東京の冬の空は美しい。浅草寺裏にある遊園地「花やしき」の屋上から撮影した。実は右側と左側を撮影して、真ん中でつなぎ合わせている。

バリ島 2002年9月
10年ぶりにバリ島を訪れた。観光化で変わってしまったとばかり思っていたのに、バリは相変わらずバリのままだった。

 

カメラを持って旅に出よう

写真:渡部さとる

プロフィール

渡部さとる(わたなべさとる)
日本大学芸術学部写真学科卒業、日刊スポーツ新聞社を経てフリーに。ポートレートを中心に活動。2003年より写真のワークショップを始める。写真集に『午後の最後の日射-アジアの島へ』、『traverse』のほか、エッセイ&フォトとして『旅するカメラ1〜4』が好評。『PORTRAIT-PORTRAITS』、『da.gasita-43年目の米沢』など、個展も多数開催。
http://www.satorw.com/index.html

 
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