文学散歩

第39回 『銀盤のトレース』ゆかりの地 愛知県・名古屋市

『銀盤のトレース』ゆかりの地 愛知県・名古屋市
散歩した人:中部テレコミュニケーション株式会社 樋口 舞さん

フィギュアスケートの聖地、大須を歩く

 伊藤みどり、浅田真央、安藤美姫、村上佳菜子、小塚崇彦、宇野昌磨と世界レベルのフィギュアスケーターを輩出し続ける名古屋。そんなフィギュアスケートの聖地を舞台にした小説が「銀盤のトレース」です。主人公の竹中朱里は、レッスンにお金が掛かり過ぎるために両親からクラブを辞めさせられそうになりますが、ジャンプの質の高さをスケート連盟に評価され、道が拓けます。さらに元全日本優勝選手の指導を受けて才能が開花、フィギュアスケーターとして夢舞台を駆け上がっていきます。姉との確執、親友の挫折、恩師とのトラブルなど、多くの壁を乗り越えながら成長していく少女たちの物語は、読む者の心を打ちます。
 今回は「銀盤のトレース」に登場する「名古屋スポーツセンター(大須スケートリンク)」のある名古屋市中区大須の街を、中部テレコミュニケーションの樋口舞さんと一緒に歩きます。中学生まで習っていた空手では県大会3位という実力を持ち、その後、大学までバレーボールに打ち込んだスポーツ好きの樋口さん。今は会長・社長秘書の仕事をしています。「スケートはあまり経験がありませんが、フィギュアスケートはテレビでよく観戦します。特に浅田真央ちゃんが好きでした。大須の街はよく遊びに来ますが、文学をテーマに歩いたことはないので、今日は楽しみです」と樋口さん。

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時代も国籍も性別も越えた“ごった煮”感が楽しい大須商店街

 大須商店街は大正時代に誕生し、名古屋一の歓楽街として発展してきました。1970年代には、秋葉原、日本橋(大阪)と並ぶ日本三大電気街と呼ばれ、その後、オタク街としての性格を強めていきます。「メイド喫茶」は大須発祥との噂もあります。年齢性別国籍問わず人々を受け入れて発展してきたため、今では“ごった煮”感が強まり、さまざまな国の文化やファッション、グルメを楽しめる街となっています。
 「静岡に住むいとこが遊びに来ると、必ず大須商店街へ一緒に行きます。おしゃれな店もあるし、異国の雰囲気や懐かしさも感じられて、本当に1日中楽しめます」と話す樋口さん。商店街を象徴する巨大な招き猫を見学し、東仁王門通を西へ歩くと、道端に不思議な木像が座っていました。これは「箪笥のばぁば」と呼ばれる木像で、その体に触れると一生着るものに困らないとのこと。ばぁばをなでた樋口さんは、これから着るものに困ることはないでしょう。
 新天地通にある万松寺では、10時から2時間おきに18時までからくり人形「信長」が上演されます。「うつけ者」と呼ばれた若かりし日の信長と、桶狭間の戦いに勝利して天下統一に名乗りを上げる直前、出陣前に舞う信長の姿が楽しめます。

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写真左:無国籍感あふれる大須商店街 写真中央:謎のフクロウのオブジェ 写真右:商店街のシンボル招き猫

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写真左:触れば一生着るものに困らない「箪笥のばぁば」 写真中央・右:信長のからくり人形

日本三大観音のひとつ大須観音をお参り

 仁王門通を抜けた先にあるのが大須観音(北野山真福寺寶生院)です。もともとは尾張国長岡庄大須郷(今の岐阜県羽島市大須)に造営されたのですが、慶長17年(1612年)に徳川家康の命で現在地へ移転しました。この地が大須と呼ばれるようになったのは、大須観音の移転からだそうです。明治25年(1892年)の大火で本堂と仁王門、五重塔を焼失。その後、再建されたものの第二次世界大戦の空襲で再び焼失。現在の姿で再建されたのは昭和45年(1970年)です。五重塔も再建が望まれていましたが、資金難のため今も建立されていません。
 浅草観音(東京:浅草寺)、津観音(三重:観音寺)と並び日本三大観音と称される大須観音は、今も大須のシンボルであり、参拝者が絶えません。境内には立派な本堂、十二支・干支の守り本尊を奉る普門殿、地元婦人会を中心とする女性のみの寄進で鋳造された女人梵鐘を吊る鐘楼堂などがあります。さらに、抜けてしまった歯や古くなった入れ歯を納める「歯歯塚」という珍しい塚もありました。
 「お参りに来たことはあったのですが、歯を供養する塚があるなんて気付きませんでした。五重塔があったことも、大須という名前が岐阜から来たことも、初めて知りました」と樋口さんは大須観音を訪ねた感想を話します。

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写真左:大須観音の本堂 写真中央:歯を供養する「歯歯塚」 写真右:女人梵鐘がある鐘楼堂

氷上の妖精が舞う大須スケートリンク

 最後に訪れたのは、大須スケートリンクの名で親しまれている名古屋スポーツセンターです。365日いつでもスケートを楽しめる国際規格の屋内リンクで、アルベールビル五輪銀メダリストの伊藤みどりさん、バンクーバー五輪銀メダリストの浅田真央さんをはじめ、世界で活躍するアスリートたちのホームリンクとして知られており、東海地方のアイスホッケー選手の育成にも力を入れています。
 ギャラリーコーナーには、伊藤みどりさん、浅田真央さん、村上佳菜子さんが実際に使用したスケート靴や色紙などが展示されていました。この日も、将来のオリンピアンを目指す子どもたちが氷上でスピンやジャンプ、ステップなどの練習を行っている姿を見ることができました。
 「私も空手やバレーボールの試合前になると、練習のときからピリピリしていたので、リンクで真剣に練習している子どもたちの気持ちがわかる気がします。有名なコーチの指導を受けている子もいて、あの中から世界レベルの選手が育っていくのだなと感慨深く思いました」
 最後に大須を歩いた感想を伺うと「何度も来たことのある大須でしたが、たくさんの発見があり、すごく楽しかったです。今度、いとこが遊びに来たら、私がいろいろ案内してあげようと思います」と樋口さんは話してくれました。

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写真左:有名選手ゆかりの品が展示されているギャラリーコーナー 写真中央:入口に飾られているスケーターの像 写真右:浅田真央さんらを輩出したスケートリンク

(2018年1月5日掲載)

作品紹介

『銀盤のトレース』碧野圭著

フィギュアスケートに打ち込む小6の竹中朱里。バッジテストに合格できず、県大会ではミスで結果を出せず、両親の反対もありクラブを辞めなければならない事態に陥るが、スケート連盟からジャンプの質の高さを認められ、道が拓ける。氷上の妖精に憧れ、熾烈な競争を潜り抜けていく少女たちの日々を活写したフィギュアスケート小説の傑作。

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発行元:実業之日本社

 

今回の散歩道

大須商店街→大須観音→名古屋スポーツセンター

<所要時間:約2時間>

大須商店街

名古屋市中区大須2丁目?3丁目付近、若宮大通、伏見通、大須通、南大津通の四つの通りに囲まれた商店街。名古屋で最も古くから栄えた地域で、エリア内に約1,200の店舗・施設があり、ショッピングや食べ歩きを楽しむ地元の人や観光客が訪れる。毎年10月に行われる「大須大道町人祭」は、官製のお祭である「名古屋まつり」に対抗してはじまった「市民のための市民による」まつりで、毎年たくさんの来場者でにぎわう。

大須観音

真言宗智山派の別格本山。本尊は聖観音。日本三大観音の1つと言われる観音霊場である。

元亨4年、北野天満宮の別当寺として現在の岐阜県羽島市桑原町大須付近に創建される。名古屋城築城の際に大須観音も、犬山城主・成瀬正茂によって現在の場所に移転された。この移転により、名古屋城下・東の寺町として東桜周辺に対して西の寺町として大須周辺が栄えた。明治25年の大須の大火、第二次世界大戦の空襲によって二度焼失しているが、昭和45年に再建され現在に至っている。 なごや七福神の一つである布袋像が安置され、寺内に、『古事記』の最古写本をはじめとする貴重書を多数蔵する「真福寺文庫」がある。これは仁和寺、根来寺の文庫と合わせて本朝三文庫とも称される。毎月18日、28日には境内で骨董市が催され、多くの人々が訪れる。

名古屋スポーツセンター

“大須スケートリンク”の名で親しまれている国際規格の屋内リンク。伊藤みどり、浅田真央をはじめ、世界的に活躍するアスリートたちのホームリンクとしても知られている。ギャラリーコーナーには選手たちが実際に使用したスケート靴等が展示されている。併設するカルチャー&アートスタジオでは文化、体育系の各種教室も開催されている。

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大須商店街

大須観音

名古屋スポーツセンター

 

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