文学散歩

第19回 「日本書紀」 ゆかりの地 奈良県 天理市・桜井市

歴史と神話に彩られた山の辺(べ)の道を訪ねて
散歩した人:大和ハウス工業株式会社 寺島糸枝さん

訪れる人を神話と歴史の時代へいざなう「山の辺の道」

天と地もわかれていない太古の時代から、葦の芽のように神々が生まれ国をつくりあげた“神代”(かみよ)、天孫降臨し天皇が国を統べる“人代”(ひとよ)までを描いた日本最古の正史「日本書紀」。今回の文学散歩は、「日本書紀」に登場する神話と歴史の地を結ぶ「山の辺の道」を、大和ハウス工業株式会社の寺島糸枝さんと歩きます。寺島さんは、情報システム部情報企画室で上席主任としてITによる構造改革の方針策定や、ITプロジェクトのマネジメントなどの仕事に携わっています。奈良県出身の寺島さんは「小学校の遠足で『山の辺の道』を歩きましたが、当時のことはあまり記憶に残っていません。今日は、あらためて奈良の趣を感じたいと思います」と文学散歩への期待を話してくれました。

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神話に彩られた古(いにしえ)の地を歩いて

最初に訪れたのは、日本最古の神社の一つで歴代天皇の崇敬が厚く、神話の舞台として信仰を集める石上神宮(いそのかみじんぐう)です。この神宮には、須佐之男命(すさのおのみこと)が八俣大蛇(やまたのおろち)を退治した天十握剣(あめのとつかのつるぎ)が布都斯魂大神(ふつしのみたまのおおかみ)として祀られています。神代の趣が残る杉木立に囲まれた参道を歩いていくと、遠くから鶏の鳴き声が聞こえてきました。境内を歩きまわる鶏は神の使いといわれており、神宮内では大切に扱われています。「異世界にまぎれこんだような錯覚を感じる、厳かで静謐(ひつ)な神社ですね」と寺島さん。

石上神宮から「山の辺の道」を南へ向かって歩くと、やがて小さな池が見えてきました。ここは永久二年に鳥羽天皇の勅願により創建された内山永久寺と呼ばれる大寺院でしたが、明治の廃仏毀釈(きしゃく)で廃寺となり、今では御所跡の石碑と本堂池しか残っていません。さらに歩を進め、萱葺(かやぶき)屋根の拝殿が趣深い夜都伎神社(やとぎじんじゃ)へ。ここは春日神社と同じ四神を祀る隠れた名社です。

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内山永久寺跡の本堂池(写真左)と萱葺屋根が印象深い夜都伎神社(写真中央、右)

時代を越えて甦る歴史のロマン

次に訪れたのは、崇神(すじん)天皇陵です。神武天皇から開化天皇までの九代は、学術的には存在が疑問視されており、崇神天皇を実在した最初の天皇とする学説も少なくありません。「日本書紀」でも、崇神天皇を『はじめて国を治めた天皇』を意味する御肇国天皇(はつくにしらすすめらみこと)と称しています。崇神天皇陵は、全長242メートルの前方後円墳で、周囲には大きな濠がめぐらされています。「時を経て、今もその姿をとどめる古墳を間近にし、あらためて大和の歴史を感じました」と寺島さん。

崇神天皇陵を後にして向かったのは、檜原神社(ひばらじんじゃ)です。天照大神(あまてらすおおみかみ)が伊勢神宮に鎮座する以前に、この地へ遷されて祭祀されていたことから、その神蹟を尊崇して天照大神を祀り続けてきたため、この神社は「元伊勢」の名で親しまれています。三輪山(みわやま)にある磐座(いわくら)を御神体とするため本殿も拝殿もありませんが、独特の佇まいを持つ三ツ鳥居が存在感を示しています。「山の辺の道」は、ここから次の目的地である大神神社(おおみわじんじゃ)まで、緑に囲まれた細い山道です。木の葉を揺らす風の音や鳥のさえずりをBGMに、木漏れ陽射す道を歩くこの区間は、「山の辺の道」の中でも一番心地よい時間を過ごせる場所といっていいでしょう。

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全長242メートルの前方後円墳で天皇陵としてもっとも古いといわれる崇神天皇陵

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写真中央は平安時代初期、玄賓僧都(げんぴんそうず)が隠棲していたという玄賓庵

 

日本の礎を築いた守護神を祀る三輪山に見守られて

大神神社は、三輪山を御神体として拝し、原初の神祭りが伝えられる日本最古の神社の一つです。三輪山には、日本の礎を築いた大物主大神(おおものぬしのおおかみ)と呼ばれる国の守護神が祀られており、今も信仰の対象となっています。大物主大神は蛇神とされていますが、一方で神話に伝わる「因幡の白兎」を助けた神でもあるため、兎との縁が深く、祈祷殿には撫でると神効がある「なでうさぎ」が鎮座しています。「小さいころから奈良に住んでいますが、きちんと大神神社を訪れたのははじめてです。境内には荘厳な空気が流れていて、そこにいるだけで心が落ち着く感じがしました」。昨今、パワースポットとして若い人からも人気の高い大神神社のパワーをたっぷり吸収し、「なでうさぎ」を撫で、神話と歴史の地を巡る寺島さんの文学散歩は終了しました。

「都会の雑踏で仕事に追われる日々が続いていたので、自然と触れあえる機会を持ったのは本当にひさしぶりです。清涼な森の香りや鳥のさえずりを感じて歩いたからなのか、身体が少し軽くなった気がします」と寺島さんは文学散歩の感想を話してくれました。

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日本最古の神社のひとつ大神神社(写真左、中央)と国の守護神大物主大神を祀る信仰の地である三輪山(写真右)

 

(2013年7月16日掲載)

作品紹介

日本書紀

天武天皇の命で編纂された日本最古の正史。天上界の神々が国を生み、万物をつくりあげる神代にはじまり、神武天皇から文武天皇の皇位継承までの人代を記している。天皇の国土支配や皇位継承の正当性を示すとともに、中国王朝をはじめとする国々に日本の正史を示すために記した古典の歴史書。

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発行元:岩波書店

 

今回の散歩道

石上神宮→崇神天皇陵→大神神社

<所要時間:約3時間>

石上神宮

大和盆地の中央東寄りに位置し、第10代崇神天皇の世に創祀された古社。主祭神として布都御魂大神、布留御魂大神、布都斯魂大神の三柱の神が祀られている。国宝の檜皮葺きの拝殿は現存する拝殿としては日本最古。
百済王から倭王に贈られたという「七支刀」(国宝)など神庫に多くの宝物が収蔵されていることでも知られる。
境内では神の使いとされる鶏が放し飼いにされている。

崇神天皇陵

全長242メートルの古墳時代前期の前方後円墳で美しい濠と高い堤に囲まれている。正式名称は「山邊道勾岡上陵」。崇神天皇は実在した可能性のある最初の天皇といわれ、各地の勢力を平定し大和朝廷の最初の統治者となった。

大神神社

古来より神の鎮座する山として『古事記』や『日本書紀』に記された三輪山を御神体とする日本最古の神社のひとつ。大国主神が大物主神を三輪山にまつったのが始まりという。本殿はなく、拝殿の奥にある三ツ鳥居を通して三輪山を拝する。宝物収蔵庫に展示されている素文鏡や曲玉など祭祀に関わる遺物は必見。境内には「なでうさぎ」や縁結びの「夫婦岩」、樹齢700年の巳の神杉があり、最近ではパワースポットとしても注目されている。

■ここでチェック

石上神宮 崇神天皇陵 大神神社

 

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