文学散歩

第17回 「テンペスト」 ゆかりの地 沖縄県・今帰仁村

歴史小説「テンペスト」に描かれた琉球王朝の源流を訪ねて
散歩した人:コンピューターネットワーク株式会社 奥本弘文さん

琉球の歴史を今に残す今帰仁村へ

墨汁を零したように空が濁り、音をたてて天が転がり落ちてくる。王宮を抜け出した三十四匹の龍たちが雷となって空を駆け抜ける。猛烈な嵐の晩、龍の化身として生まれた一人の少女真鶴。第一尚氏王朝の末裔となる少女は、性を偽り宦官の孫寧温(そんねいおん)として王朝へ上がる。

「テンペスト」は、真鶴の波瀾万丈の生涯を通して琉球王朝末期を描いた歴史小説です。今回の文学散歩は、琉球王朝の源流ともいえる北山王国の首都だった今帰仁村(なきじんそん)を歩きました。一緒に歩いてくださったのは、名護を拠点にシステム開発やPCスクールなどの事業を展開する代表取締役社長の奥本弘文さんです。「今帰仁村には仕事で来ますが、城跡を訪れるのは久しぶりです」と、琉球の歴史を巡る散歩への期待を話してくれました。

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万里の長城にも例えられる美と迫力を併せ持つ今帰仁城

最初に訪れたのは、今帰仁城跡です。

今帰仁城は13世紀末頃築城された北山王の居城で、本島北部から奄美諸島を支配下に置き、政治、経済、文化の拠点として栄えました。標高約100メートルの立地を生かした山城は難攻不落と謳われ、城壁を有する城としては日本最古とされています。約1.5kmの長さを持つ曲線的な城壁は、万里の長城に例えられ、2000年には世界遺産に登録されました。石積みの平郎門をくぐると、参道は美しい琉球寒緋桜の花で彩られていました。この可憐な花は、日本で最初に咲く桜として知られています。

城内には、兵馬を訓練したとされる大隅、「テンペスト」にも登場する大庭(ウーミヤー)跡、女官の住む神聖な場所御内原(ウーチバル)跡、今も参拝者が絶えない聖なる祭祀の地、御嶽(ウタキ)などの見所がたくさんあります。

「沖縄には首里城や中城城など、多くのグスクがありますが、今帰仁城の城壁は切岩されていない自然石が積まれていて、非常に見応えがありますね」と奥本さん。

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万里の長城のような石積みの城壁が曲線を描きながら続く様は圧巻

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今帰仁城跡の参道には、日本一早く咲くという琉球寒緋桜が咲いていました。

源為朝が隠れ住んだとされる伝説の地

今帰仁城跡を後にして向かったのは、海沿いの運天地区にある「ティラガマ」です。
人目を避けるようにひっそり佇む小さな洞窟。ここには保元の乱に破れ伊豆大島へ流された源為朝が、追討を逃れて流れ着き、隠れ住んだと伝えられています。為朝は、この地で勢理客ノロと結婚し、その子どもの大舜が今帰仁城主に、弟の舜天が中山王になったと伝えられています。「名護地域の血縁組織についてまとめた『わかりやすい兼久田門中のお話』をもとに、私の家系図を辿ると源為朝の文字が記されています。真偽のほどは定かではありませんが、為朝が私の祖先である可能性もあるようです」。

続いて訪れたのは、百按司墓(ムムジャナバカ)と大北墓(ウーニシバカ)です。
海を望む崖の中腹に佇む不思議な空間。ここは北山監守や今帰仁按司とその一族を葬った墓といわれています。墓石などない崖の窪みを生かした質素な墓所を前に、奥本さんは「名護に生まれ育ちましたが、運天にこのような歴史的遺産があることは知りませんでした」と驚いている様子でした。

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源為朝が隠れ住んだとの伝説があるティラガマ

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崖の中腹の窪みに墓が設けられている大北墓(写真左)と百按司墓(写真右)

 

人類発祥の地との伝説が伝えられる古宇利島

運天地区を離れ、海上に架けられた古宇利大橋を渡り古宇利島へ。ここは古い祭祀が継承されていることから「神の島」と呼ばれたり、人類発祥の男女が暮らしたとの伝説から「恋島」と呼ばれたりしています。
伝説によれば、この地は天帝がはじめて人間の男女を地上に降ろした島だそうです。その伝説の地、シラサ岬のチグヌ浜を訪れました。男女が暮らしたとされる半洞窟は、今も残っており、そこから望むエメラルドグリーンの海と白い浜、青い空は絵画のような美しさでした。

「古宇利島には、今もノロ(女性の神官)が継承されており、神の島として崇められています。近年は、橋が架かり、美しい海や伝説を楽しみに訪れる観光客も増えているようですね」。

文学散歩を終えた奥本さんは、「あらためて琉球の歴史を知る機会となり、とてもいい勉強になりました」と感想を話してくれました。

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人類発祥の男女が暮らしたとされる古宇利島のチグヌ浜

 

(2013年2月28日掲載)

作品紹介

『テンペスト』上下巻 池上永一著

時は幕末、美貌と才能を併せ持つ一人の少女真鶴が性を偽り宦官孫寧温として琉球王国の王宮へあがった。清と薩摩の二重支配を受けながら、変わりゆく時代の荒波に翻弄される琉球王国。
琉球を守るため懸命に生きる真鶴の波乱万丈の生涯を描いたエンターテインメント歴史小説。

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発行元:角川書店

 

今回の散歩道

今帰仁城跡→運天地区→古宇利島

<所要時間:約3時間>

今帰仁城跡

沖縄本島の北部にある歴史的なグスク。その歴史は古く、13世紀にまでさかのぼるといわれる。いつごろ誰によって築かれたか正確には分かっていない。
外郭を含めると7つの郭からなり、面積は首里城に匹敵する。城郭の外周は約1500m、高さ6〜10m。自然の地形に沿って巡らされた曲線はたいへん美しく見応えがある。
2000年に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として世界遺産リストに登録された。

運天地区

古宇利島

沖縄本島北部にある屋我地島の北に位置し、今帰仁村に帰属する半径約1Km、周囲が約8kmの有人島。沖縄版アダムとイブの人類発祥伝説が残り、島の人々によって祭祀が手厚く継承されている神秘の島である。平成17年に長さ1960m古宇利大橋が開通し、名護市の屋我地島と結ばれた。

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今帰仁城跡 古宇利島

 

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