あの日の風景

第10回 冬の福岡・太宰府 久保田淳(国文学者)

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 雑餉隈を過ぎると西鉄天神大牟田線は国鉄鹿児島本線とほぼ並行して走るらしい。西鉄の都府楼前、国鉄の水城のあたりで水城跡とおぼしきものが見える。刈萱関跡もおそらく近くなのであろう。「遠の朝廷」と呼ばれた大宰府で望郷の思いを歌ったいにしえの歌人たちのことが偲ばれる。

ますらをと思へる我や水茎の水城の上に涙拭はむ

大伴旅人(万葉集・巻六)

刈萱の関守にのみ見えつるは人も許さぬ道ベなりけり

菅原道真(新古今和歌集・巻十八)

 二日市駅前でお二人と落ち合い、都府楼跡・観世音寺・戒壇院とまわり、太宰府天満宮に詣でた。前年福岡女子大学での学会の折もお参りしたので、この時は二度目のお参りだった。

 博多に戻って、S君、T君らに連れていってもらって覚えた飲み屋に入り、ふくを肴に独酌して、博多とのなごりを惜しんだ。

 その四年後、また学会があって福岡を訪れると、路面電車はなくなって、地下鉄になっていた。どうやら歳末の一週間重宝して乗っていたのは、廃止を目前にした電車だったらしい。四年前はかなり空間のあった博多駅前も建物で埋まっていた。一度ならずふくを肴に飲んだ九大前のあの店は健在だろうか。訪ねてみたい気もしたが、地下鉄に乗って行くのも似つかわしくないのでやめた。

 

参考図書:
『長塚節歌集』(現代短歌全集第三巻、筑摩書房、昭和五十五年刊)
松本清張『点と線』(新潮文庫、新潮社、昭和四十六年刊)
『万葉集(二)』(佐竹昭広他校注、岩波文庫、岩波書店、平成二十五年刊)
『新古今和歌集下』(久保田淳訳注、角川ソフィア文庫、角川学芸出版、平成十九年刊)

 

筆者プロフィール

久保田 淳(くぼた じゅん)

昭和8年東京生まれ。東京大学名誉教授・日本学士院会員。著作に『山家集』『藤原定家』『野あるき花ものがたり』など多数。鉄道の旅をこよなく愛し、現在も鉄道の旅を続けている。

写真

昭和50年の九大前の駅の様子。当時、この路面電車は、市民や学生の足として重要な役割を担っていた。この天神・中洲をぬける貫線の東側は福岡市内線でも歴史のある路線であった。
(写真提供:西日本鉄道株式会社)

 
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