あの日の風景

第9回 秋の北海道 久保田淳(国文学者)

写真

室蘭市の「地球岬」から見た太平洋の風景。
高さ100メートル前後の断崖絶壁が14キロメートルも続く、風光明媚な景勝地。
今も多くの観光客が訪れます。

1/3

 誰しもしばしば訪れる土地がある一方では、数えるほどしか行ったことのない地方もあるであろう。

 鉄道で行ける所としては北海道が、私にとってのそのような余りおなじみでない、従ってものめずらしい地方である。振り返るとこれまでその地に旅したのはただの五回、そのうち三回は関係学会の大会に参加するという仕事がらみの旅、二回が年とってからの観光ツアー旅行である。ガイド任せのツアー旅行と違って、仕事がらみの旅は何事も自分で決めて行動しなければならないから、不安な要素や失敗も少なくないが、それだけ印象も深いものがある。

 最初に北海道に渡ったのは四十一になった年の秋だった。十月の初め、夜の七時二〇分上野発の夜行列車ゆうづる1号で青森へ向かった。青森着は翌朝五時三分。小走りに桟橋へと急ぐ。同二五分青函連絡船松前号は出航した。好天であった。海峡を渡るものめずらしさに、舷側から青い海に沸き立っては消える白泡に見入っていた。九時一五分、船は函館港に着岸する。

 ここで全く偶然の出会いがあった。以前勤めていたカトリック系女子大学の修道尼が埠頭で女子大と姉妹校の高校生の一団を見送っているのに出会ったのである。函館の姉妹校の校長になっていたこのスールは、私が札幌での学会に参加するために初めて北海道の地を踏んだと知って、車でトラピスチヌ修道院・五稜郭・立待岬とまわってくれて、さらに大沼公園まで案内してくれた。啄木の歌ゆかりの地、青柳町は姉妹校からさほど遠くでもなさそうだった。

1/3
  • ←
  • 1
  • 2
  • 3
  • →
 

このページの先頭へ