IP-VPNとADSLを活用した低コストな大規模ネットワークの構築
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1. 背景と目的
ダイキン工業株式会社(以下ダイキン)では、全国に約10の本支社・工場などの主要拠点を持ち、さらにグループ会社も含めると全国に約300の販売子会社の営業所、関連子会社の本支店、サービス・ステーション(SS)などの拠点を構える。これまでのダイキングループのネットワーク構成は以下の通りであった。
・ 主要本支店・工場間についてはTDMによって音声・データ統合し専用線を用いたスター型の接続
・ 営業所・SSなどの小拠点については、フレームリレー(FR)網を利用
また主要拠点に対しては、拠点内LANおよび拠点間WANにおいて、異なる2つの利用用途、すわなち@オンライン業務などレスポンスを重視するネットワーク、ACADデータ・設計情報など大容量データを転送するネットワーク、を考慮した2系統のネットワークを構築してきた。これらは各拠点のLAN/WANにおいて相互接続しながらも、2系統の拠点間専用回線が相互バックアップとなっていた。
接続拠点の増加や回線増速などにより音声・データネットワークの通信費は増加傾向にあり、通信費のコストダウンは当社にとって重要な課題であった。近年、安価で高速かつアクセス回線の選択肢が豊富なIP-VPNなどの通信サービスが出て来きたが、既存TDM設備が足かせとなりこれらの新サービスへの移行が困難であった。そこで通信費のコストダウンを図るべく2001年から音声VPNにより音声とデータ通信を切り離し、データネットワークに対してはIP-VPNとADSLを使った新たなネットワークを構築し順次移行していった。

2. システム概要
2-1. 音声ネットワーク
従来のTDMによる音声・データ統合型ネットワークから、音声VPNサービス(NTT Communicationsのメンバーズネット)へ移行し、まずはデータ通信との分離・音声通信費用の削減を図った。VoIPという選択肢もあったが、VoIP移行には設備投資が必要であったこと、音声品質に対する不安もあったことから、短期でのコスト削減の実現を主眼に据え今回音声VPNを採用した。

2-2. 主要拠点ネットワーク(2社IP-VPNサービスの混在)
基幹オンライン業務のサーバは千里(大阪府豊中市)にあるデータセンターに設置されている。この千里センターと本社(大阪府大阪市)および全国にある支社・支店・工場をNTT CommunicationsのArcstar IP-VPNサービスを使って接続した。同時に主に大阪府下にある製作所および本社・千里センター間については、NTT西日本のMEGA DATA NETZというIP-VPNサービスを利用している。
今回のネットワーク切替に併せて、汎用機との通信(独自プロトコル)についてもIP化することでTDMを完全に撤去した。

2-3. 小拠点(営業所・SSなど)のネットワーク(ADSLの利用)
営業所・SS等の小規模拠点については、既にフレームリレー回線を利用していたため、Arcstar IP-VPNへの移行の際にはアクセス回線としてさらにコストダウンが可能なADSL回線を中心に、各拠点毎の地域事情に応じて最も適切な回線を選択している。

3. キーポイント
3-1. 2社のIP-VPNを組み合わせたネットワーク網の構築とホスト系通信のIP化
2社のIP-VPN網を組み合わせることにより、利用アプリケーションに応じた網の使い分けとWANの冗長構成を実現した。すなわち2つのIP-VPN網に接続した主要拠点においては、基幹業務利用(千里センターに設置したサーバ群との通信)にはArcstar、また工場間におけるCADデータ等大容量データの相互転送にはMEGA DATA NETZというように利用用途に応じて2つの網を使い分ける。また2つの網が相互バックアップする冗長構成となっている。
またホスト系独自プロトコルのIP化に対しては、IPカプセル化したホストとの通信パケットに対し、本来VoIPの音声品質確保のために使われる網内優先制御の機能をに適用することで実現している。

3-2. ADSLの回線品質考慮と地域事情に応じたアクセス回線の選択
小拠点のIP-VPNアクセス回線として、ADSLのACCA(ACCA Networks)とフレッツADSL(NTT東西)を中心に選択した。特にACCAについては、
・ Arcstar IP-VPN網に直接接続するアクセス回線として利用出来る
・ 現調時において局から拠点までの距離、伝送速度、伝送損失の測定等を実施し、局側でマージン値を変更し品質を確保する
など回線品質上の利点がある。そのためACCAのサービス提供地域についてはACCAを、サービス提供地域外についてはフレッツADSLを利用している。また、どちらも回線品質を考慮して1.5Mのサービスに限定している。その他ADSLが地域的・品質的に利用出来ない拠点に対してはBフレッツ(NTT東西のFTTHサービス)やフレームリレーをアクセス回線として選択している。

4. 計画
2001年 3月 音声VPNへ移行(音声・データの切り離し)
2001年12月 全国約10拠点の主要拠点間データ通信をIP-VPNへ移行
ホスト系通信についてもIP化し、TDMを撤去
2002年6,7月 国内販社本社・営業所等約120拠点をIP-VPNへ移行 (ADSL:約60拠点、FR:約60拠点)
2002年10月 サービスステーション等の42拠点をIP-VPNへ移行 (ADSL:34拠点、FR:8拠点)
2003年4月〜 国内子会社等約30拠点をIP-VPNへ移行予定
      本移行の完了にて国内全拠点のIP-VPN化が完了

5. 評価
音声VPN・IP-VPNへの移行により下記の通りコストダウンを達成し、同時に次のメリットを得ることが出来た。
<コストダウン> < メリット >
・ 音声: 約3,000万円/年(10%) 自社音声網に比べ音声品質の向上
・ データ:約5,000万円/年(22%) 主要拠点で2〜5倍、小拠点で4〜10倍の増速
また、今回音声ネットワークを切り離しIP-VPNへ移行したことにより、今後提供される新しい技術・サービス等に柔軟に対応出来るデータネットワークになったと言える。今後もより安価かつ高品質・高速なサービスが提供されるようになれば、そちらへの移行も検討していく。
VoIPの技術動向なども見据えながら、さらなる音声通信費のコストダウンを実現すべく音声のIP統合についても進めていきたい。