地球シミュレータにおける並列可視化システムとITBLにおけるグリッド型可視化システムの研究・開発
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1. 目的
「可視化」は、数値シミュレーションから得られるデータを解析し、様々な現象を理解するための手段の一つとして用いられている。しかしながら、スーパーコンピュータの性能が飛躍的に向上し、非常に大規模な数値シミュレーションの実行が可能となったため、可視化サーバ上の単一CPUにて可視化処理を行うという従来の方法では、処理が不可能であったり、処理できたとしても膨大な時間を要したりという問題が起きている。一方、IT技術の進展に伴い、遠隔地にある複数のスーパーコンピュータにて実行される数値シミュレーションの結果を効率的に解析すると共に、遠隔地の研究者間のコラボレーションを支援することが重要視されつつあるが、従来の可視化システムではこれら要求を十分満足できないという問題がある。そこで、これら問題を解決するグリッド対応型並列可視化システムの構築を目的とした研究・開発を行った。

2. 概要
平成10年度から12年度にかけて、日本電気株式会社との共同研究の下、サーバ・クライアント型のリアルタイム可視化システムRVSLIB(Realtime Visual Simulation Library)をベースに、並列可視化システムPATRAS(Parallel Tracking Steering)の開発を進めた。サーバ・クライアント型の採用により、サーバ部はスーパーコンピュータにて可視化処理を行い、クライアント部はPCなどのWebブラウザにて可視化表示や可視化パラメータの更新を行える。RVSLIBのサーバ部は、単一CPUにて可視化処理を行うサブルーチン群で構成されているため、PATRASでは、可視化処理の高速化を目指して、サブルーチン群のMPIによる並列化を行った。
平成13年度から14年度にかけて、PATRASの地球シミュレータへの適用研究を行った。特に、シミュレーションの終了後に可視化を行うポスト可視化を念頭に、並列化効率向上を目指した性能改善を行い、並列可視化でのさらなる高速化を実現した。これと並行して、PATRASのITBL(Information Technology-Based Laboratory)グリッド環境への適用研究を行った。ITBLでは、原研が開発した遠隔関数呼出し型ツール間通信ライブラリSTARPC(Seamless Thinking Aid Remote Procedure Call)や異機種並列計算機間通信ライブラリSTAMPI(Seamless Thinking Aid MPI)などを用いることにより、ユーザ端末からFirewall越しに遠隔地の異機種スーパーコンピュータを統括して利用することが可能である。これらライブラリとの連携により、ITBLグリッド環境に対応したグリッド対応型可視化が可能となった。

3. キーポイント
3.1 並列可視化
サーバ部をMPIにて並列化することにより、複数CPUを使用した並列・高速な可視化処理を行うことが可能となった。特に、地球シミュレータへの適用により、可視化処理に対する高並列化時の性能劣化が見出されたため、並列化効率向上を目指した性能改善を行った。ここで、画像合成処理の並列化、画像圧縮処理の並列化、および等値面生成時のスムージング処理の並列化などを行うことにより大幅な処理速度の向上が見られた。
3.2 グリッド対応型可視化
ITBLグリッド環境への適用により、Firewall越しにサーバ・クライアントを動作させることが可能となり、遠隔地のスーパーコンピュータを利用した可視化が可能となった。また、ITBLグリッド環境下で実行される異機種スーパーコンピュータを用いた連成シミュレーションに対応したリアルタイム可視化や、遠隔地の研究者間で可視化表示や可視化パラメータの更新を共有できるコラボレーション可視化が可能となった。

4. 評価
並列化による可視化処理の高速化の結果、いくつかのサンプルデータの場合において、32CPU程度まではCPU数の増加に伴い可視化処理速度が向上するようになり、32CPU利用時に1CPU利用時の約10倍の性能向上が達成された。しかしながら、32CPUより多くのCPUを利用した場合には処理速度の向上がほとんど見られなかったため、並列化効率向上を目指したさらなる性能改善が必要であると考えている。
また、グリッド環境下にて、Firewallで隔てられた遠隔地の複数のスーパーコンピュータを用いて可視化処理を行うことが可能となった。ここで、サンプルとして実行された連成シミュレーションのリアルタイム可視化に対して、遠隔地に設置された2台のスーパーコンピュータにて動作させた場合には、単一のスーパーコンピュータにて動作させた場合の約2倍の実行時間を要している。遠隔地からシミュレーション結果を集約し、可視化処理を行うことを考えると、この結果は有用であると考えることができるが、画像合成処理における通信データ量削減や通信速度向上など、さらなる検討の余地は残されている。また、本性能評価はプレリミナリーなものであり、今後、様々な場合に対して評価を行うことにより、有用性を慎重に検討していく必要があると考えている。