企業合併におけるシステム統合
−三井住友海上火災保険(株)事例を参考に−

(PDF文書,849KB)


1. 背景
金融業界では住友銀行、さくら銀行が合併して三井住友銀行が誕生したのを初め、かつてないスピードで銀行再編の波が起こっている。損害保険業界でも東京海上を中心とするミレア保険グループ、安田火災を中心とする損保ジャパン、三井海上、住友海上が合併した三井住友海上等、5つのグループに再編されつつある。
本論文では、2001年10月に合併した三井住友海上を事例にとり、どのように合併が行われたかを、システム統合を中心に論じていく。

2. 合併のねらい・目的
合併には、吸収合併、対等合併があるが、今回は、事業効率向上、収益拡大、競争力強化等が主な目的である対等合併を取り上げる。
三井住友海上の場合は、3000人規模の人員削減、230カ所の営業拠点削減の他、年間約100億円というシステム経費の削減も目標としている。特にシステム経費は、削減した経費を、合併後の戦略システムへ再投資するねらいがある。

3. 統合推進体制
合併に先行して半年前の2001年4月から両社の中期計画、人事制度の一部を統一した。また、自動車、火災といった主力商品についても共同で開発し、統一商品を発売した。このような事前準備は両社社長を本部長とする統合推進本部を構築し、その下に人事、総務、組織等14からなる専門部会を設置し、推進した。
システムは事務処理と関連が強いため、両社システム事務担当の役員を委員長、副委員長とするIT統合委員会を設置、この下にシステム、事務の専門部会を設置した。

4. システム統合計画
基本的な考え方は、合併時に顧客・代理店に直結する混乱をさけ、両社システムの優れた部分を採用、コストコントロールしながら確実にシステムを統合することである。計画策定にあたっては、合併時必須機能(第1フェーズ)、合併1〜2年後必要機能(第2フェーズ)に分けて対応することとした。
統合方式は、IBM、NECの両社ホスト併存のまま、新規システムをオープン系で再構築した。ホストに委ねるDBはIBMを残すことにし、1年間かけてデータを移行していく。一方、オープン系としてNECとIBMのホストをユーザに意識させない世界初のHUBシステムをNEC社と共同開発した。また、営業事務を大幅に改善したイメージOCRシステムなども新会社の特徴となるシステムである。IBMホストへの片寄せ方式とオープン系システムの構築という2本柱を本論文では主文とする。
開発期間、規模等は以下のとおりである。
・開発期間
第1フェーズ 2000年 4月〜9月
第2フェーズ 2001年10月〜
・開発工数
13,000人月
・ハード IBMホスト、NECホスト、オープン系サーバ

5. 課題
(1)機能の調整、仕様の早期確定
システムは企業文化・風土が反映され機能の相違が大きいこと、調整部署である両社組織の違い、同等組織でも役割分担が異なることなどから、合併までの限られた期間で、第1フェーズで開発する機能、第2フェーズに繰り延べする機能の調整と、仕様の確定に難航するケースが多々あった。
(2)大口顧客、重要取引先のための特殊対応
大口顧客、重要取引先等への特殊対応は、合併時にどこまで取り込むかが大きな課題となる。仮にある特殊対応を合併を機に取り止める場合、ユーザも巻き込んで顧客等に理解を求めていく必要があるが、調整に期間を要した。
(3)データ移行
両社の顧客データは膨大な量があるが、一括移行と順次移行の2方式を採用した。一括移行・順次移行の切り分け、移行の条件・各項目内容の仕様確定等は予想を大きく越え、非常に労力を要した。

6. 成功のためのキーポイント
本論文では短期間に大規模なシステム統合を成功させた主要因について掘り下げていく。
(1) プロジェクト管理
ユーザニーズを絞り込んでも、現状分析、機能移植、データ移行の困難さから当初計画した開発工数、期間を大幅に上回り、調整が必要になる。優先順位を付け、合併時必須機能と先送りまたは削減可能機能とに分類し、見直しを柔軟に行った。
(2) 社員・代理店向け教育・研修
統合システムは、新会社のシステムであり、事務処理、システムの使い方等が旧会社とは異なる。合併前から計画的な、社員・代理店向けの教育・研修を実施し、合併直後の現場の混乱を招かないようにした。
(3) 新会社発足前後の混乱回避策
合併直後の混乱に備え、「リハーサル実施」「移行対策センター・ヘルプデスク設置」等の混乱回避策を実施した。特に現場への影響が大きい重要システムは、コンティンジェンシープランを作成し、万全の体制を整えた。

7. 今後の展開
システム統合とは単に2社のシステムを1つにすることではなく、コスト・スピードとシステム(サービス)レベルのバランスを考慮しながら、合併後のIT戦略までを見据えた再構築であり、合併の目的に合致していなければシナジー効果の実現は期待できない。三井住友海上のシステム統合では、合併時点で、先送り、開発中止とした機能もあり、現在も第2フェーズのシステム統合を推進している。