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Digital Twin「デジタル上の双子」がもたらす変革

読者は「Digital Twin/デジタルツイン」という用語を聞いたことがあるだろうか。製造業の設計開発に携わる方であれば耳にしているかもしれないこの言葉、テクノロジー自体は新しいものではないが、従来の用途を拡張し製造業のビジネスプロセスを変革させようという新しい概念である。

このテクノロジーは、実際に製造される製品や部品をバーチャル環境でテストするCAE(Computer Aided Engineering)として、これまでも使われてきた。ここでは、3Dデータで設計された製品や部品を、デジタル上の「Twin/双子」と見立てている。このデジタル上の双子が、自分に代わり様々なテストを受けてくれるわけだ。そのテストは、衝突させたり、曲げたり熱したりと、過酷なものも多い。このようなCAEによるシミュレーションはプロダクト設計開発領域で行われてきたが、今、急速なテクノロジーの進化に後押しされ、その用途は拡大している。適用範囲は設計製造工程を超え、マーケティングや経営層の意思決定へと幅広い。

Digital Twinはプロダクト開発を超えてプロセス領域へ

設計開発と隣り合わせる生産領域においてもDigital Twinは活躍している。これまでも、工場における機械の設置にシミュレーションは使われてきた。例えばロボットの設置位置や方向などのシミュレーションがそれである。これは「点」でのシミュレーションであり、今は生産ラインや工場内での工員の動線シミュレーションが実現し「点」から「線」に、更には工場フロア全体をシミュレートする「面」へと拡大していく。

物流や保守の領域においても、可能性のあるシナリオをシミュレートし検証してサービスに活かすことができる。ここには、距離と時間や、自社(研究室や工場)の外にある環境のデータが必要になるが、製品がつくられた後の「運搬」と「稼働」のフェーズにおける製品の検証も、「双子の相棒」によるシミュレーションで実現することが可能だ。なお、保守領域では、故障を予見し事前に対策を打つことができ、既に先行企業では保守サービスで適用し他社との差別化を図っている。

このように、製品にまつわるあらゆる「プロセス」をシミュレーションすることで、物理的な実験を経ずに最適な生産ラインを配備することや、故障を未然に防ぐことで「ダウンタイムゼロ」のサービスを顧客に提供することなどが可能となる。

さらに、究極的には企業活動全体でDigital Twinが活躍することが考えられる。例えば、海外拠点の立ち上げや大型プロジェクト受注といった、社内外の複数組織や人的・物理的リソースが絡み合うような企業活動が挙げられる。これらの「Digital Twin」に金銭的な意味を加えることにより、経営層やプロジェクト指揮官の意思決定にかかる生産性を大幅に上げることも可能となるだろう。

なぜ、「Digital Twin」の出番が増えたのか

上記で述べたようなシミュレーションは、これまでも単独の分析ツールなどで実現し既に利用している読者もいるかもしれない。ではなぜ今、改めて注目され用途が拡大しているのだろうか。それは、以前のコラムに度々登場した「第3のプラットフォーム」とその上に展開されるIoT(Internet of Things)に代表される「イノベーション・アクセラレーター」が、Digital Twinの可能性を一気に広げたからである。

イノベーションアクセラレーター

Source: IDC FutureScape:世界と国内のIT市場 2016年Predictions
デジタルトランスフォーメーションの規模拡大を牽引せよ,IDC #JPJ40589015,2015年12月

企業が取得できるデータの種類と量が増え、その膨大なデータ(ビッグデータ)を蓄積するクラウド技術は急速に進化し、規模や用途に応じたサービスを選べるようになった。また、IoT技術の進展によりモノの「コネクティビティ」が飛躍的に高まり、そこから得られるデータは、これまでできなかった新しいプロセス検証やビジネスモデルをもたらす。例えば、自社製品や現場スタッフのデバイスに取り付けたセンサーにより把握できる、位置情報などのデータである。そして、これらの蓄積されたデータを、業務や目的に応じて可視化させる分析技術が発展し、分析の専門家でなくても業務に活用できる環境が用意されていることも、Digital Twinの設計領域を超えた舞台での活躍に大きく貢献している。

Digital Twinを武器に変革できるか

最後に、デジタル上の双子が、設計開発現場を飛び出して活躍している例を紹介したい。業界に先駆けて3Dデータを設計業務の現場に取り入れてきたある製造業では、設計データを販売促進の領域で活用している。完成品のDigital Twinを用い、店頭の販促ビデオやコマーシャル映像などを自社で作成し、年間数億円もの大幅な外注コスト削減と市場投入までの時間短縮を実現した。また、受注生産と設置販売をおこなう製品群においては、ウェブサイトを訪れた見込み顧客が、お好みの商品の色や形を選択し、設置したいスペースの間取りに配置する「視覚的シミュレーション」と、見積もりを瞬時に出す「コストシミュレーション」を可能にしている。同社の製品のDigital Twinに対し顧客が直接テストの指示を出す仕組みを提供し、顧客の「カスタマーエキスペリエンス」が変革している例である。

この例のようにDigital Twinは、企業活動のあらゆる工程で活躍する可能性があるが、どの工程にどの深さまでDigital Twinを使うかは、各社異なる。Digital Twinで何をしたいのか、そのために必要なデータを既に保有しているか、Digital Twinによるシミュレーション結果を見るのは誰なのか・・・これらは、Digital Twin活用のために考慮するポイントの例だが、企業によっては準備がほぼ整い、もしかしたらデジタル上の双子は眠っているだけかもしれない。いち早くDigital Twinを武器に変革を起こせる製造業が、競合他社の一歩先を進むことができるだろう。

次回は、本コラムシリーズ「Manufacturing Transformation」の最終回となる。取り上げるキーワードは「デジタルトランスフォーメーション」。変革が求められる日本の製造業が直面する「プレッシャー」や、テクノロジーを味方につけどう変革の道を歩むべきかなどを、議論していく。

アナリストプロフィール

岩本 直子

IDC Japan株式会社・ITスペンディング・マーケットアナリスト

IT市場調査会社であるIDCにて、産業分野、企業規模、地域ごとのIT市場動向およびIT市場規模の調査・分析をおこなう。産業分野のうち、特に製造業、流通業、サービス業を担当し、グローバルIT ガバナンスや業務部門におけるIT 投資動向、各産業におけるテクノロジートレンドなどを調査テーマとしている

IT 業界におけるBtoB マーケティングのバックグラウンドを持ち、ユーザー企業のシステム環境、ニーズ調査、グローバルIT ガバナンス、M2M(machine-to-machine) や HPC (high-performance computing)、ビッグデータアナリティクスなどの新テクノロジー活用実態調査などを実施してきた。また、CIO研究会に向けたユーザー企業実態調査、役員クラス・業務部門長クラスへのヒアリング調査プロジェクトなども経験している。