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ManufacturingTransformation

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コラムトップ > Vol.04 品質管理への挑戦

品質管理への挑戦

今、企業の品質管理問題の表面化が後を絶たない。

自動車業界地図をも大きく揺るがすリコール問題、立て続けに報告される食品への異物混入、そして医薬品製造における薬事法違反と隠蔽事件などが、大きな波紋を呼んでいる。いずれも、築き上げた取引やブランドイメージが瞬く間に崩れるだけでなく、業界そのものへの信用問題に発展しかねない事件である。また、発覚時の対応の仕方やスピードが企業評価の明暗を分ける点も見逃してはならない。

このような品質管理問題はなぜ起こるのだろうか。大きな要因として挙げられるのが、製造業の業務工程間の分断やデータのブラックボックス化である。問題が発覚した際に、関連するデータの特定や調査対象の把握に時間がかかることが、意思決定を遅らせ命取りとなる。そして、企業規模が拡大し、さらに海外でのビジネス展開が進み生産/販売拠点がグローバルに広がるほど、組織間の業務やデータの透明性を維持するのが難しくなり、品質管理は企業にとって困難な課題となる。しかし、顧客の信頼を獲得し続けるために、品質管理への挑戦が終わることはない。

IDC実施の製造業に対する動向調査にも、品質管理を重要視する姿勢が表れている。「品質管理」は製造業が注力する課題の上位に位置し、IDCが全世界で毎年発表する製造業の動向予測においても、2016年のトップ10に取り上げられているテーマである。しかし、品質管理の向上を目指す足元の体制は、果たして整っているだろうか。品質管理部門は存在しても組織の中で孤立していたり、「品質管理」という観点での部門間の業務や情報の連携が図れていないケースが多いのが実態ではないだろうか。

組織横断的な品質管理にどうアプローチするか

企業内の組織を横断する品質管理へどう立ち向かうか。そのヒントとなる「Product Innovation Platform」という概念と、それを基にした品質管理へのアプローチを紹介したい。IDCでは、PDM(Product Data Management)/PLM(Product Lifecycle Management)から発展した情報基盤をProduct Innovation Platformと呼んでいる。簡単に言うと「進化型PLM」である。製品開発フェーズのみならず、調達、生産、物流、販売、保守のフェーズまで、「バリューチェーン」を貫通したデータ統合/管理を行う情報基盤で、品質管理の基盤ともなる。第3のプラットフォームが進展した今、このアプローチが可能となる。たとえば、営業担当者やフィールドサービス担当者が、顧客から得た製品に関するフィードバックを現場からモバイル端末上で報告し、その結果が各部門の担当者にリアルタイムに届き、不具合の箇所を特定する分析結果が瞬時に提示され、各部門で迅速に対処に当たるといった体制が可能になる。

どう始めるか――既存のPDM/PLMをコアに

「そのような大がかりな仕組みは弊社では到底無理だ」といった声が読者から聞こえてきそうだが、このProduct Innovation Platformはゼロから多額の予算を投じて構築するようなものではない。今ある製品データ管理の仕組み(PDM/PLM)の延長線上に、柔軟に構築されるべきプラットフォームである。そして、各社が置かれる状況によって、進め方は千差万別である。単純に一既存システムをPDMと連携させる場合もあれば、複数システムを連携させ、検索機能や分析ダッシュボード、社内SNSなどのコラボレーションツールも併せて構築する場合もある。ステップ・バイ・ステップで進めるにせよ、一気に進めるにせよ、目指すのは、担当業務や所属部門が異なる立場のユーザーが、製品に関する情報をリアルタイムまたは迅速に共有する環境を作ることである。品質管理の問題が発生した際の、的確かつ迅速な意思決定を下すために必要な情報取得や、関連部門間のスピーディな連携、有事の際に求められるアクションを支える基盤となるのがこのプラットフォームである。

Product Innovation Platformがもたらす製造業の変革

最後に、Product Innovation Platform によるアプローチを「品質管理」から少し離れ、他の組織的な取り組みでの可能性を考えてみたい。このプラットフォームは、品質管理だけではなく、企業が組織横断で挑む取り組みを支える基盤となる。組織横断の取り組みとは、たとえば、IoT(Internet of Things)を活用したサービス改革、マスカスタマイゼーション対応(量産品のカスタマイズ注文生産)、Connected Products(つながる製品)の新規開発と市場投入などだ。これらの取り組みの推進に際し、プラットフォームのオーナー=取り組みにおけるリーダーシップを取る部門を定め、関係部門がProduct Innovation Platformから得られる価値とゴールを共有することが、成功の鍵となる。以下の図で、上記の例のうち、「IoTを活用したサービス改革」のケースを示した。関連部門が享受できる価値の例をそれぞれにいくつか挙げている。

IOT活用によるサービス改革の例

Source: IDC Japan, 2016

製品データは各社の財産であり、そのデータが蓄積される基盤の組織横断的な活用は、今後さらに注目されていく。Product Innovation Platformを、まさに「イノベーション」を起こすための基盤と位置付け組織横断で活用することが、製造業の変革への近道になるかもしれない。

次回のコラムは、「デジタルツイン」がテーマである。デジタル上の双子が自分に代わり試験をこなす、アニメの中のような話が製造業の世界で現実となり変革を後押ししている。最新動向やその発展性を議論する。

アナリストプロフィール

岩本 直子

IDC Japan株式会社・ITスペンディング・マーケットアナリスト

IT市場調査会社であるIDCにて、産業分野、企業規模、地域ごとのIT市場動向およびIT市場規模の調査・分析をおこなう。産業分野のうち、特に製造業、流通業、サービス業を担当し、グローバルIT ガバナンスや業務部門におけるIT 投資動向、各産業におけるテクノロジートレンドなどを調査テーマとしている

IT 業界におけるBtoB マーケティングのバックグラウンドを持ち、ユーザー企業のシステム環境、ニーズ調査、グローバルIT ガバナンス、M2M(machine-to-machine) や HPC (high-performance computing)、ビッグデータアナリティクスなどの新テクノロジー活用実態調査などを実施してきた。また、CIO研究会に向けたユーザー企業実態調査、役員クラス・業務部門長クラスへのヒアリング調査プロジェクトなども経験している。