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ManufacturingTransformation

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コラムトップ > 2nd Season Vol.02 B2Cだけではない、B2Bでも加速するカスタマーエクスペリエンスバトル

B2Cだけではない、B2Bでも加速するカスタマーエクスペリエンスバトル

国内でも「オムニチャネル」という用語が定着し始めている。これは、消費者の立場で見ると、手に入れたい商品の情報入手や注文、受け取りを、複数のチャネルの中から、時間や状況に応じて好みで選択できることであり、同時にどのチャネルを通じても一貫した顧客体験が得られることを意味する。なかでも、小売業を中心にオムニチャネル戦略が繰り広げられている。一消費者として、我々に提供される「カスタマーエクスペリエンス」が大きく変化し多様化していることを実感する読者は少なくないであろう。

B2Cビジネスを展開する製造業において、「カスタマーエクスペリエンス」が大きく変化している例がある。顧客は注文画面において、3D画像で商品を確認し、形状や配色、素材を選択する。顧客が希望する納品先に近い拠点において、最終生産工程を3Dプリンターにて実行する。顧客に製品が納品されるまでのリードタイムは従来の方法と比較して、大幅に短縮されるであろう。これまで大量生産されていた製品を自由にカスタマイズし、すぐに手に入れるという新たな「カスタマーエクスペリエンス」を提供する例である。

この「カスタマーエクスペリエンス」の多様化はB2Cビジネスを展開する企業のみならず、企業などを相手にするB2Bビジネスにおいても加速している。従来とは異なる「新しい体験」をいかに顧客に提供し、競合他社とどのように差別化できるか、まさに「カスタマーエクスペリエンスバトル」が繰り広げられている。たとえば、高度化した顧客分析やソーシャル技術を活用したデジタルマーケティング、AR/VR(Augmented Reality/Virtual Reality)技術による機械の操作トレーニング体験、IoT(Internet of Things)技術を活用した保守サービスなどの施策である。この背景には、第3のプラットフォームとイノベーションアクセラレーターの浸透があり、その市場の拡大と共に競争は加速する。

製造業が提供する「カスタマーエクスペリエンス」が展開される業務領域

製造業が顧客へ提供する「カスタマーエクスペリエンス」を概観すると3つの業務領域に大別できる。「受注~生産~物流」「販売領域」「保守領域」である。以下は、例として受注生産型の製造業の業務工程を簡略化して示した図である。

製造業の業務過程における「カスタマーエクスペリエンス」の提供領域

Source: IDC Japan

進化する「カスタマーエクスペリエンス」

①受注~生産~物流

冒頭のB2Cの例は、まさに「受注~生産~物流」の業務工程において「カスタマーエクスペリエンス」で変革が起こっている例である。IDCでは、この動きはB2Bビジネスでも今後加速するとみている。その背景には、生産と物流領域における、異業種から製造業に参入する競合他社との競争がある。たとえば、小売業がプライベートブランドを展開し自社工場で生産する例や、顧客に部品を運ぶのみであった運輸業が3Dプリンターで部品を製造し顧客に届けるなど、製造業だけが「もの作り」を行う時代は終わった、といっても過言ではない。

異業種参入という脅威のほかに、製造業の在り方をも見直すことを迫るのが、冒頭で述べた「オムニチャネル」によって選択の自由を得た顧客である。これにはB2Bビジネスの顧客も当然含まれる。これまでは、製造業が生産する製品とその生産量、さらには販売方法を決めていた。しかし、今後は顧客がそれを支配する時代になる。どのような製品を設計し、どのような素材を使い、どれだけの量を生産し、どこに届けるかを、顧客が製造業に直接発注できる「カスタマーエクスペリエンス」の提供が求められるようになるであろう。海外の大量生産型の製造業の中には、上記の顧客の個別の要望に応え、パレット単位ではなく、カスタマイズ製品単位で、顧客に直接提供する取り組みを始めている企業がある。

②販売領域

販売領域には、マーケティングや営業活動が含まれる。見込み顧客、新規顧客、既存顧客と、顧客も複数に分類され、それぞれに応じて多様な「カスタマーエクスペリエンス」が展開される領域である。また、多くの日本の製造業が海外展開する中、デジタルマーケティング戦略が先行する海外市場において日系企業が悪戦苦闘している例も見られる、激戦領域である。ここではB2Bのマーケティングと営業活動における「カスタマーエクスペリエンス」で、テクノロジーが、どのように顧客との関係やコミュニケーション方法を変革しているのかを紹介する。

ABM(Account-Based Marketing)という考え方があるが、これは、特定の顧客企業(見込みを含む)に対しマーケティングや営業活動を戦略的に展開することである。従来は法人営業担当者が大口顧客の複数部署に出入りし、営業活動を行っていた。今、この方法がデジタルコンテンツやソーシャルメディアの発展、ビッグデータ分析技術やクラウドベースのマーケティングオートメーションの登場によって、大きく変化している。

たとえば、特定の顧客企業を「A社」とする。「A社」に紐付けられる膨大な情報をクラウド上で一元的に管理し、販売機会のステージごとに、複数のチャネルでマーケティングや営業活動を行えるようになった。一元的に管理するのは、法人営業担当者が足を運んで得た訪問先の名刺の情報や営業履歴、マーケティング部門が実施したイベントで得られたA社に所属する個人の情報やアンケート結果、Webサイトやソーシャルメディア経由で得られる、A社に所属する個人のデジタル上の行動履歴といった「情報」である。この情報を活用し、A社としての販売確度やA社のどの個人が最も関心を持っているかなどを特定し、適切なチャネルで適切な情報をもって適切なタイミングでA社へアプローチを行う。やみくもに複数の部署や担当者へのアプローチを展開する従来の手法に比べ、はるかに効率良く成約に結び付けることが可能となる。チャネルとして、電子メール、LinkedInなどのソーシャルメディア、Webサイトのほか、電話や営業訪問も含まれる。顧客にとっても、得たい情報を適切なタイミングで得られることになり、大量のDMや的外れな情報から解放され、より生産的な「カスタマーエクスペリエンス」を享受することになる。

③保守領域

ここでは、B2B領域で製造業が販売した製品が、顧客の手元に渡った後の「カスタマーエクスペリエンス」が、テクノロジーでどのように変化するのかを見ていく。製造業が牽引するIoT技術は、保守領域における「カスタマーエクスペリエンス」の重要な立役者であるが、今後新たなステージに立つためには、「デジタルツイン」と「コグニティブ/AIシステム」が重要な役割を担うであろう。

IoT技術が搭載された製品を利用する顧客の「カスタマーエクスペリエンス」は、搭載されていない製品のそれと大きく異なる。以前は、作業現場で機械が故障すると、メーカーまたは代理店に連絡し、修理してもらっていた。その間の作業は中断することになる。IoT技術が活用されるケースでは、製品に搭載されたセンサーから、その機械の稼働状況を、メーカーや代理店、あるいはユーザー(顧客)自身がタイムリーに把握できるようになる。故障時の迅速な部品の調達やスタッフの派遣といった取り組みが可能となる。さらに、部品の経年変化や摩耗の状況などを把握することで問題の発生を事前に察知し、故障の予兆が見られた場合は、その障害を回避するため、事前に部品を交換するなどの対応が可能になる。このような保守サービスの向上は、すでに実現しているケースが多く、さらに新たな「カスタマーエクスペリエンス」を提供し競争力を高めるステージに来ていると言える。

「デジタルツイン」は以前のコラムで取り上げたテーマであるが、「デジタル上の双子」が物理的な製品や部品に代わりさまざまなテスト/シミュレーションを実行することを指す。この考えを保守領域においても適用し「カスタマーエクスペリエンス」を変革することが可能である。現場で稼働する製品に取り付けられたセンサーデータを、製品の3Dデータと連携させ、現場で稼働している製品の「デジタルツイン」を生み出す。利用頻度や装着部品の角度などを反映させ、どれだけの負荷がどの部品にかかるのかといったシミュレーションを行えるようになる。つまり、より高い精度で故障発生を予測することで、故障の予兆が目に見えるデータに表れない場合でも、ダウンタイムをゼロにする予防保全サービスを提供できる。

さらには、機械の「セルフヒーリング」という考え方がある。これは例として、コグニティブ/AIシステムによって、「インテリジェント」になった機械が自律的に故障箇所を見付け、修理プログラムを実行したり、修理ロボットに信号を送り、人の手を介さず修復を行うケースが挙げられる。急速に発展を遂げるコグニティブ/AIシステムによって、機械が「セルフヒーリング」を行う作業現場の実現は、そう遠くない将来かもしれない。

バトルを制すには

国内外の競合他社や、製造業に新規参入する異業種との間で「カスタマーエクスペリエンスバトル」が繰り広げられる中、既存の手法やサービスを拡充するだけでは、差別化はいっそう困難になるであろう。このバトルを制すには、革新的な「カスタマーエクスペリエンス」を生み出す必要があり、第3のプラットフォームやイノベーションアクセラレーターの活用がその鍵を握ることは言うまでもない。では、「どのように進めるか」であるが、自社内で革新的なアイデアを生み出すのが困難であれば、前回のコラムでも述べたように、もっと社外に目を向けるべきである。拡大するエコシステムに自ら身を置き、革新的な「カスタマーエクスペリエンス」の提供を共に目指すテクノロジーパートナーを探すことが近道となるであろう。

アナリストプロフィール

岩本 直子

IDC Japan株式会社・ITスペンディング・マーケットアナリスト

IT市場調査会社であるIDCにて、産業分野、企業規模、地域ごとのIT市場動向およびIT市場規模の調査・分析をおこなう。産業分野のうち、特に製造業、流通業、サービス業を担当し、グローバルIT ガバナンスや業務部門におけるIT 投資動向、各産業におけるテクノロジートレンドなどを調査テーマとしている

IT 業界におけるBtoB マーケティングのバックグラウンドを持ち、ユーザー企業のシステム環境、ニーズ調査、グローバルIT ガバナンス、M2M(machine-to-machine) や HPC (high-performance computing)、ビッグデータアナリティクスなどの新テクノロジー活用実態調査などを実施してきた。また、CIO研究会に向けたユーザー企業実態調査、役員クラス・業務部門長クラスへのヒアリング調査プロジェクトなども経験している。