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ManufacturingTransformation

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コラムトップ > 2nd Season Vol.01 製造オペレーションのデジタルトランスフォーメーション

製造オペレーションの
デジタルトランスフォーメーション

2017年が幕を開けた。国際情勢の変化、市況や為替の変動、製造業のみならず異業種から新規参入した競合他社とのグローバル競争などの課題を抱えたまま、新たな年を我々は迎えた。IDCでは2016年11月に発行した『IDC FutureScape: Worldwide Manufacturing 2017 Predictions』というレポートの中で、2017年~2020年に世界の製造業界で何が起きるのかを議論し、10項目の予測(Predictions)を発表している。1番目のPredictionは「2018年までには、デジタルトランスフォーメーションに投資を行う製造業の30%が「群れ」から飛び出し成果を最大化できているが、残りの企業は時代遅れのビジネスモデルとテクノロジーへの依存によって成長を阻まれているであろう」というものである。つまり、デジタル時代の変革を目指し投資をしても、古いビジネスモデルとテクノロジーを抱えたままでは競争の舞台にも乗れないというメッセージである。世界の製造業では、すでにデジタルトランスフォーメーションは始動しており、成功企業とそれ以外の企業の格差は、今後ますます拡大していくであろう。

この度の連載コラムでは、今後の成功を左右するとも言える製造業における「デジタルトランスフォーメーション」を業務領域やキーワードを元に掘り下げ、解説していく。最初に取り上げるのは製造オペレーション領域におけるデジタルトランスフォーメーションである。

デジタルトランスフォーメーション

本題に入る前に、IDCが考えるデジタルトランスフォーメーションを解説する。別のコラムシリーズ「Manufacturing Transformation」の最終回で紹介しているが、デジタルトランスフォーメーションとは、「企業が第3のプラットフォーム技術を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデル、新しい関係を通じて価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」である。第3のプラットフォームは以下の図にある通り、ビッグデータ、クラウド、モビリティ、ソーシャル技術の4つの柱(4ピラー)が構成するテクノロジー基盤で、その上で展開されるIoT、ロボティクス、認知システム、AR/VR(Augmented Reality/Virtual Reality)などの「イノベーションアクセラレーター」と併せ企業変革を後押しする。これらの新しいテクノロジーを味方につけ企業が変革し競争力を高める姿が、デジタルトランスフォーメーションである。

デジタルトランスフォーメーション

『Japan IT Market 2017 Top 10 Predictions:デジタルトランスフォーメーション・エコノミーの萌芽(IDC #、2016年12月発行)』からの引用

変革がもたらされる業務領域:製造オペレーション

先に紹介したレポート、IDC FutureScapeで議論される10項目のPredictionsのうち、製造オペレーションに関連したものが2つ含まれており、テクノロジーによって変革がもたらされる業務領域としていっそう重要視されていく。2つのPredictionsのうちの1つは、IoT(Internet of Things)とアナリティクス技術に基づく現状把握による製造オペレーション領域の変革に関連するもので、もう1つは、スマートマニュファクチャリングにおけるIT(Information Technology)とOT(Operational Technology)の連携による効率性と市場変化への対応スピードの向上である。ここで浮上するキーワードは「IoT」「ビッグデータ分析」「スマートマニュファクチャリング」「IT/OT」であり、読者が所属する組織でも日々飛び交うキーワードではないであろうか。

製造オペレーション変革の「ドライバー」

では、これらのキーワードに関連づけられる世界の製造業の動向を、「スマートマニュファクチャリング」と「テクノロジー」の観点から見ていきたい。ここで紹介する動向は、言い換えれば、日本の製造業の変革を余儀なくする要因「ドライバー」であると、筆者は考える。

スマートマニュファクチャリング

世界では、国家政策としてあるいは企業集合体のイニシアチブとして「スマートマニュファクチャリング」の取り組みが進んでいる。読者の中には、ドイツの「インダストリー4.0(Industrie 4.0)」や米国の「IIC(Industrial Internet Consortium)」が頭に浮かぶかもしれない。ここで注目したいのは今中国で何が起こっているかにある。中国では、政府が打ち出す「中国製造2025」によって製造工程のインテリジェント化や人材育成などが進められている。中国の経済成長が減速したとはいえGDP成長率は依然高く、IDCでは日本や欧米を含めた他国と比較し大幅なIT投資の拡大を予測している。一方、一人っ子政策がもたらした労働人口の大幅な減少という重要課題を抱え、その解決策としてのスマートマニュファクチャリングの動きが急加速している。これまで人海戦術の製造プロセスが主流で、工場のテクノロジー分野については日本や欧米から立ち遅れていた中国が、ロボティクスや人工知能、3Dプリンターなどのイノベーションアクセラレーターへの投資を加速し、他国を飛び越しスマートマニュファクチャリングをいち早く手に入れるのではないであろうか。また、インダストリー4.0の主要参画企業である独シーメンスはスマートファクトリーを世界に2つ所有しているが、一つはドイツ国内に、もう一つは中国に持っている。このように、国家単位と企業単位でのスマートマニュファクチャリング推進が、中国では急速に繰り広げられている。

テクノロジーの進展

数年前と比較し、製造オペレーションの変革を後押しするテクノロジーを手に入れやすい環境となったことは、重要な「ドライバー」であると筆者は捉えている。IoTを例に取ると、センサー、データ転送、通信ネットワーク、データ蓄積、データ分析、分析結果を活用するための可視化といったテクノロジーが挙げられるが、これらのテクノロジーを提供するエコシステムは拡大し続けている。既存プレイヤーの新サービスという形をとるケースもあれば、ベンチャー企業や異業種参入というケースもあり、競争は激化している。テクノロジーを利用する側の製造業にとっては、選択肢の広がりのみならずデバイスやサービスの低価格化というメリットを享受できる環境にある。ビッグデータ分析においては、第3のプラットフォームの柱の一つであるクラウド技術の進展を背景に、活用が促進される。これまでは、オンプレミスで高額なインフラ基盤を用意し分析ツールのライセンスを購入する必要があったが、今は、クラウド技術によって従量課金でのビッグデータ基盤や解析ツール、さらには人工知能までも活用できる環境が用意される時代となった。また、今後さらにサービス開発が進むと期待されるのが、ITとOTを融合させる仕組みで、たとえば、工場の稼働状況とMES(Manufacturing Execution System)やERPとの連携である。スマート化した工場の価値をエンタープライズレベルで最大化するための鍵になるであろう。

変革への道

製造オペレーションに変革を迫るドライバーは複数存在し、ここに紹介した中国による積極投資や、テクノロジーの進展による導入条件の緩和などはほんの一例に過ぎない。しかし、そうした外部からの圧力や競争条件の変化を背景に変革の道を歩み始めている国内外の製造業は既に多数存在する。ある製紙メーカーでは1年間で数百万ドルの製造オペレーション全体コストの削減を実現し、あるガラスメーカーでは欠陥品を25%減らし、ある組立製造業では工場の生産性を20%上げ、大型の鉄道エンジン修理工場を持つ企業ではダウンタイムを20%削減するなどの、数値で示せる成果を上げている。

ただし、製造オペレーション変革に取り組む企業がすべて、このような成果を上げ、継続して変革を進めているわけではないのが現状である。製造業で改革に取り組む方々から課題として聞くのは、「多くの実証実験をしているが、実験の先に進まない」「社内の関連部門や現場の協力を得るのに苦労をしている」「自社単独では完結しないことは分かっていても、外部の誰と組めばよいかが分からない」「成果をどのように評価すれば、投資対効果があることを示せるのかが分からない」といった声である。もしかしたら、読者が所属する組織でも同様の課題を抱えているかもれない。というのも、IDCの調査によると、国内では多くの企業がデジタルトランスフォーメーションの「旅」の出発点にあり、ゴールすらあいまいな場合もあるからである。

冒頭で紹介したPredictionにあるように、「群れ」から飛び出す企業となるためには、新しいテクノロジーを味方につけるだけではなく、新たなビジネスモデルと明確な目標が必要である。ここでは「ビジネスモデル」を「取り組みの進め方」と言い換えて、変革のヒントを示したい。一つは、製造オペレーション領域の改革を進めるに当たり、組織全体のイニシアチブとして広範囲なステークホルダーを早い段階から巻き込むことで、実証実験の先へ駒を進めやすくなるであろう。もう一つは、工場や会社の外に飛び出すことである。社外コミュニティに参画することで、自社に持ち帰ることができる情報やヒントを得ることができ、拡大を続けるエコシステムとの新たな接点も生まれる。「群れ」に留まらないためには、新しいテクノロジーの取り入れと併せて、製造オペレーション領域に変革をもたらす組織体制作りが急がれる。

アナリストプロフィール

岩本 直子

IDC Japan株式会社・ITスペンディング・マーケットアナリスト

IT市場調査会社であるIDCにて、産業分野、企業規模、地域ごとのIT市場動向およびIT市場規模の調査・分析をおこなう。産業分野のうち、特に製造業、流通業、サービス業を担当し、グローバルIT ガバナンスや業務部門におけるIT 投資動向、各産業におけるテクノロジートレンドなどを調査テーマとしている

IT 業界におけるBtoB マーケティングのバックグラウンドを持ち、ユーザー企業のシステム環境、ニーズ調査、グローバルIT ガバナンス、M2M(machine-to-machine) や HPC (high-performance computing)、ビッグデータアナリティクスなどの新テクノロジー活用実態調査などを実施してきた。また、CIO研究会に向けたユーザー企業実態調査、役員クラス・業務部門長クラスへのヒアリング調査プロジェクトなども経験している。