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こんなに怖い未払い残業代のリスク(後編)
これだけは知っておきたい経営者のための法律知識 第2回

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何となくリスクは承知しているがどのように対策したらよいかわからない・・・等の経営者の方々が日頃直面するお悩み事について、わかりやすく、解説致します。

石田氏

レイズ・コンサルティング法律事務所
弁護士(東京弁護士会) 石田 達郎氏


慶應義塾大学経済学部、中央大学法科大学院卒業。
日本労働法学会所属弁護士。
経営者の側から労務問題を取り扱うことを専門分野としており、一般の労使紛争のみならず、労働災害、外国人労務問題についても造詣が深い。

1.清掃業を営むA社の失敗例

今回は、前回お話したリスクについてのお話を踏まえ、こんなに怖い未払い残業代のリスク(後編)について、まずはお話させていただきます。
以下のケースは、私が以前実際に依頼を受けた未払い残業代トラブルの事例を簡略化したものです。

【A社従業員Bさんのケース】 ・清掃業

  • 清掃業
  • 基本給20万円
  • 役職手当10万円
  • 月間所定労働時間160時間
  • 月間実労働時間200時間

Bさんは当時70歳弱の方でしたが、定年後の就労先を探した結果、清掃業を営むA社に雇われ、日々一所懸命に働きました。
当初は役職手当はついていませんでしたが、一所懸命に働くBさんの姿を見た社長は、月20万円では心苦しいと思い、役職手当として賃金を増額することを決定しました。
もちろん、日々ビルの清掃等の現場作業を行うBさんの職務内容に何か変化があったわけでも、何か肩書が付いたわけでもありません。
月々の手取りが大幅に上昇したBさんはますます一所懸命働くようになりました。

【社長の認識していたBさんの時給】

賃金を増額したときの社長の認識としては、
「たくさん働いてもらっている(月200時間くらい働いてもらっている)から役職手当で調整して月30万円くらい支払おう。」
という内容でした。
社長としては、所定労働時間である160時間よりも40時間多く働いてもらっていることの対価、つまり実質的には残業代のつもりで10万円を支給していたわけです。
200時間の対価として30万円を支払っていたと言い換えてもいいかもしれません。
この社長の認識を前提に残業代を試算してみると、
20万円÷160時間=1.250円がAさんの時給であり、時間外労働を月40時間していても、1.250円×1.25(時間外割増)×40時間=6万2500円と、役職手当として増額した10万円を下回ります。
社長としては、名目はともかく、残業代に相当するものは全て支給済みで、むしろ頑張ってくれることに感謝して給料に色をつけているくらいの感覚でいました。

【法律・判例に照らしたBさんの時給】

ところが、A社社長は、この手当の趣旨をBさんに説明したり、契約書を新たに交わしたりするようなことはありませんでした。
その結果、このA社のケースでは、基本給として30万円を支給しているものと扱われます。つまり、残業代は1円も支給していないことになるのです。
支払っていたつもりのものが支払っていないものとして扱われるばかりか、基本給が30万円とされることにより、時給単価が跳ね上がります。
具体的には、30万円÷160時間=1875円がAさんの時給となります。
加えて、Aさんを時間外労働に従事させた場合にはさらに時間外割増(1.25倍)がなされますので、1875円×1.25=2343.75円となります。
昨今の清掃業界の厳しい情勢の中、この時給を従業員に支払ってもなお利益が出るような会社は多くはないでしょう。
この時給で月に40時間残業をした場合、2343.75円×40時間=9万3750円の残業代が毎月発生することになります。
残業代の請求権の時効期間は2年間ですので、9万3750円×24ヶ月=225万円を、支払っている賃金とは別にBさんに対して支払わなければならないのです。
なお、前回リスクとしてご説明した付加金(労基法114条)が適用されると、この倍額である450万円の支払いを裁判所より命じられることになります。

2.トラブル回避策の一例

それでは、経営者の認識している時給感覚と、法律・判例に照らした時給とのかい離を是正するためには、どのようにしたらよいのでしょうか。
各企業の就労実態に照らして実に様々な方法がありますが、ここでは定額残業手当制をご紹介させていただこうと思います。

定額残業手当制(1)

定額残業手当制は、固定残業手当制とも、みなし残業手当制とも言われますが、いずれも、残業代に相当する金額として、月々固定の金額を労働者に対して支払う制度のことを指します。
たとえば、先ほどのA社の場合ですと、20万円を基本給として支給し、10万円を役職手当としてではなく、40時間分の残業代を含む定額残業手当として支給します。これにより、A社社長の認識していた時給感覚と法律・判例に照らした時給とを極めて近づけることができます。
会社にとっては、このような固定残業手当の制度は、細かな残業代計算から解放され人件費の節減につながり経営者側のメリットがあるとともに、適切に運用がなされていれば、実際の残業時間が定められた固定の残業時間に満たなくても同一の賃金が支給されるという点で従業員にとってもメリットのある制度と言えます。

定額残業手当制(2)

もっとも、このような定額残業手当制を適法に導入するためには、経営者の側で一方的に手当の支給名目を変えればいいというものではなく、クリアしなければならない幾つかの要件があります。
判例はこの定額残業手当について、①基本給のうち時間外手当にあたる部分を明確に区別して合意し、かつ、②労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払い期に支払うことを合意した場合にのみ、このような合意を有効と認めています(最高裁昭和63年7月14日判決、小里機材事件等)。

この判例を踏まえて定額残業手当制を導入する際には、労働者が割増賃金をいかなる場合に請求できるのかをわかるように、
ⅰ.賃金のうち、残業手当に相当する金額がいくらであるのかを明示すること、
ⅱ.その残業手当が何時間分の残業代を含んでいるものなのかを明示することが必要となります。
当然、定めた定額の残業代が法律に従い残業代を計算した場合の金額を下回ってはいけません。
また、これらの点は、就業規則(賃金規定)、雇用契約書、給与明細等に記載し、労働者に十分説明の上、同意を得ておくことが必要です。

定額残業手当制(3)

なお、非常に魅力的な制度ではあるのですが、あまりに多くの時間外労働を定め、定額残業手当として支給することは自粛するべきです。
しばしば、「残業代80時間を含む」というような形で定額残業手当を支給している会社をみかけるのですが、そもそも労使協定で適法に時間外労働を命じることのできる総計時間を超えているばかりか、月80時間の残業を継続した場合、過労死を始めとした労働災害が発生するリスクが飛躍的に高まります。
私は同制度の導入をアドバイスする場合には、20~40時間程度を推奨しておりますので参考にしてください。

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