ページの先頭です。
ここから本文です。
サイト内の現在位置を表示しています。
  1. ホーム
  2. NEC Information Square
  3. Solution Report
  4. 電力システム改革に伴う新たな市場の誕生
  5. 第3回 産業・業務部門で進む省エネルギー化
ここから本文です。

電力システム改革に伴う新たな市場の誕生

第3回
産業・業務部門で進む省エネルギー化

2015年9月29日

写真

電力自由化が産業・業務部門の省エネ化を後押し

コラム第1回、第2回では、新規参入者の台頭、電力システム改革と再生可能エネルギーの普及に伴うICT及び蓄電池の導入ニーズの顕在化を述べたが、電力システム改革の影響はこれだけに留まらない。2016年の電力小売の全面自由化によって、工場に代表される産業部門、オフィスビルに代表される業務部門において、さらなる省エネルギー化の進展が期待される。

アメリカや欧州のように、我が国に先んじて電力自由化を行った諸外国では、電力小売の競争が活発化した結果、電力小売会社において、顧客サービスの充実化とセグメンテーションマーケティングの採用が進んだ。

図版[拡大する]拡大する図表-1 米国電力会社の企業顧客向けサービス

出所:電力中央研究所「企業対応サービスが顧客満足度と電力会社選択に及ぼす影響」を基に日本総研作成

セグメンテーションマーケティングとは、顧客の特性(規模・業種・地域・電力使用量等)に応じて顧客を分類し、それぞれの特性に合致した電力料金メニューの提案や、エネルギー消費効率化を提案するものである。セグメンテーションを適切に行うことで、電力料金の安さだけで勝負するのではなく、顧客のエネルギー消費の実態にまで踏み込み、顧客のセグメントに応じた最適な省エネルギー提案を行うことが可能となり、顧客の経済性と自社の収益性の両立を実現できる。諸外国ではこうした省エネ提案を、エネルギー消費の実態を検査し改善提案を行うという意味で、「Energy Audit」と呼ぶ。

イギリスで進むスマートメーター活用

例えばイギリスでは、電力・ガス自由化以降、最大手のブリティッシュガスが顧客を囲い込むために、様々な業種向けにEnergy Auditの取り組みを行ってきた。流通業向け、伝統的なパブ向けといったように、様々な業種・業界向けにEnergy Auditを提案し、そのベストプラクティスを同社ウェブサイトで公開している。

こうしたEnergy Auditの取り組みは、対象とする業種・業界の生産実態、エネルギー消費実態に精通したベテランのスタッフがいなければ実施が難しかったのだが、ICTの普及はEnergy Auditのあり方も変えつつある。特に大きな影響を与えつつあるのが、スマートメーターの普及である。

ブリティッシュガスの本拠地であるイギリスは、国を挙げて「グリーン化」を推進しており、「2050年までに温室効果ガスを対1990年比で80%削減する」ことを法制化している。その一環として2009年には「2020年までに国内全世帯にスマートメーターを設置する」という方針を打ち出し、スマートメーターにより電力使用量を見える化し、省エネ/節電を促進させ、温室効果ガスの大幅な削減を実現する狙いである。

こうした政策を受けて、Energy Auditの取り組みに力を入れてきたブリティッシュガスは、Energy Auditにスマートメーターを活用する戦略を推進している。ブリティッシュガスは、スマートメーターが新たな競争戦略を可能にするとの認識に基づき、政府計画よりも前倒しして自主的に同社の供給区域にスマートメーターを導入している(既に100万台以上を導入)。スマートメーターを設置した需要家が、ブリティッシュガスの料金プラン「Energy Smart」に加入し、スマートメーターからのデータが蓄積されると、その家庭や事業所の電力の利用パターンが見える化されるだけでなく、類似したエネルギー消費パターンを持つグループごとにセグメント化することができる。これらのデータを用いて、同一セグメント内での平均的な電力消費量と比較し、エネルギー消費効率が劣る(=エネルギー消費量が多い)需要家には、対象セグメントに最適化されたEnergy Auditを提供して、節電を支援し、顧客満足度を高めている。今後は1,600万台のスマートメーターを設置するとともに、顧客のエネルギー利用に有効な助言を与えるスマートエネルギー専門家を1,000人程度採用すると発表している。

図版[拡大する]拡大する図表-2 ブリティッシュガスによるビッグデータを活用した省エネ支援

出所: British Gas (Centrika) IR資料を基に日本総研作成

このようなブリティッシュガスの動きは、まさにICTの普及が進んだ結果と言えるだろう。従来であれば、流通・飲食・アパレルといった小口顧客は数が多いため、Energy Auditを行おうにも効率的に行うことが難しかったが、スマートメーターの普及、さらにはスマートメーター経由で集まる様々なデータを解析するビッグデータ解析技術の進展によって、小口の業務部門や家庭部門においても効率良くEnergy Auditが提供できるようになったと言える。

アメリカではデマンドレスポンスが省エネ化のインセンティブに

アメリカでは、電力自由化以降に新規の電源開発が滞った時期があり、電源の容量不足に対応するため、早くからデマンドレスポンスの導入が進んできた。2005年のエネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005)において、ピーク電力需要抑制手段としてデマンドレスポンスを法的に位置付けたことを契機に、2007年のFERC Order No.755においては送配電事業者に対して、アンシラリーサービスの1つとしてデマンドレスポンスを利用することを勧告、2011年のFERC Order No. 890においては周波数調整にデマンドレスポンスを利用することを勧告するというように、段階的にデマンドレスポンスの適用範囲を拡大させてきた。また、家庭向けには双方向通信機能を有するスマートメーターの普及を促し、家庭向けのデマンドレスポンスを拡大するためのインフラを整備しようとしている。

図版[拡大する]拡大する図表-3 アメリカにおけるデマンドレスポンス導入政策

出所:EIA、FERC、各電力会社のホームページを基に日本総研作成

デマンドレスポンスが通常の省エネと異なる点は、デマンドレスポンスによって指定された期間に電力消費量を軽減する場合、デマンドレスポンスに協力した需要家にもインセンティブが支払われることだ。単なる省エネによる経済性だけでなく、デマンドレスポンスによる報酬も享受できることから需要家の受容性も高く、大きく成長している。

図版[拡大する]拡大する図表-4 アメリカにおけるDRによる電力需要削減量の推移

出所:FERC “Total reported potential peak reduction in the 2006 through 2012”を基に日本総研作成

デマンドレスポンス市場の拡大に合わせて、産業・業務部門向けの省エネソリューションもデマンドレスポンスに対応できるものが一般的となった。また、ICTを活用し、低コストでの提供を可能にしたソリューションも目立つ。

例えば業務ビルの省エネルギー化を図るために、我が国においてもBEMSの導入が進められているが、専用設備の導入が必要なことから、普及は専ら新築ビルに限定されており、既築ビルへの導入はあまり進んでいない。一方アメリカでは、カナダに本拠を構えるRegen Energy社により、既築ビルに簡易設置可能かつOpen-ADRに準拠した制御モジュールを用いて複数の機器を制御するBEMSサービスが提案されている。各機器に設置されたモジュールは独立に動き、Zigbeeを使い相互に連携しながら、最適稼動を実施する。さらに、Zigbeeとクラウドを使用することにより、秒単位のデマンドレスポンスにも対応できる。既築ビルにモジュールを設置するだけの簡易な構成であり、導入コストも通常のBEMSの1/3程度とされている。

図版[拡大する]拡大する図表-5  Regen Energy社の簡易版BEMS

出所:Regen Energy社Web Site等を基に日本総研作成

またイギリスと同様にビッグデータの活用も進みつつある。ニューヨークに拠点を置くPanoramic Power社では、ビッグデータを用いたエネルギー関連サービスを提供している。サービスを提供する需要家の日常のエネルギー消費パターンを学習したうえでエネルギー消費量をモニタリングすることで、通常とは違うエネルギー消費挙動の検出、異常の早期検知、故障の事前予測を行い、需要家が安心して電化製品を使える環境を提供している。

図版[拡大する]拡大する図表-6 Panoramic Power社が提供するエネルギー関連サービス

出所:Panoramic Power Webサイトを基に日本総研作成

日本でも、より精緻な省エネ化ニーズが高まる

電力自由化に伴う競争の活発化とICTの技術革新が相まって、我が国に先んじて自由化を行ったイギリスやアメリカにおいては、産業・業務部門におけるセグメンテーションマーケティングの浸透、及びそれに伴うエネルギー消費効率化を行うソリューションの高度化が進んだと言える。電力システム改革が進み、かつ電力分野でICTの活用が進みつつある我が国においても、同様のプロセスを辿ることが予想されよう。

これまでも省エネ化に注力してきた我が国において、より一層の省エネ化を進めようとした際、個別機器の稼働状況・エネルギー消費状況の収集に基づく電力需要予測の高度化や、エネルギー消費状況の僅かな挙動の差異を検知し、生産設備の稼動へフィードバックするような、肌理細やかな監視・制御が必要になると考えられる。

NECの貢献可能性

製造業や流通業、物流業の現場などでは、節電・省エネに取り組む事業者は拡大したが、単純なピークコントロールは限界に来ている。さらに進めるためには、設備の保全や監視システム、電力需要予測と連携させた高度なピークコントロールが有効だ。

NECは、これまでに培ったセンシング技術やビッグデータ解析技術を用いて、電力需要予測の高度化や異常検知技術の高度化を行ってきており、これらの実績とノウハウを活用したBEMS(ビル・マネジメント・システム)やFEMS(ファクトリー・マネジメント・システム)を通して、より一層の省エネ化に貢献しようとしている。今後は、様々なデータから法則を見つけ出し、多様な分析技術で精度の高い電力需要見通しを立てて現場に適用することで、様々な省エネニーズに応えると共にコストダウンの実現を目指している。

今後の電力自由化の進展に伴って、より一層の省エネニーズが顕在化する需要家、競争激化を見据え産業・業務部門向けに高度な省エネソリューションの提供を考えている新電力、双方のニーズに応えていくことが期待される。

図版[拡大する]拡大する図表-7 FEMSへのICT活用例

(2015年9月29日)

著者プロフィール

写真

段野 孝一郎(Koichiro Danno)
株式会社日本総合研究所 総合研究部門 ディレクタ/プリンシパル
京都大学大学院工学研究科博士前期課程修了(工学修士)
技術戦略及びマーケティング戦略の観点に基づき、エネルギー(電力・ガス・再生可能エネルギー)、環境、情報通信・ICT、交通、水道などの社会インフラ分野における経営戦略・事業戦略、新規事業開発に関するコンサルティングを実施している。

ページ共通メニューここまで。

ページの先頭へ戻る