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Innovators 100 Series Vol.09 鳥海 強

宇宙開発に挑み続けて20年の「衛星屋」

2014年3月19日

Vol.09 CHAPTER1 宇宙開発に挑み続けて20年の「衛星屋」鳥海 強NEC 宇宙システム事業部 宇宙システム部 シニアチーフエンジニア: 鳥海 強

2013年9月、宇宙に向かった天文衛星「ひさき」のミッションは、金星や木星などの惑星観測。そしてもうひとつ、この衛星開発には、宇宙事業において日本の新たな未来を切り開く重要な目的があった。それは、短期間で低コストな衛星開発。標準バスという新たなコンセプトによる衛星づくりに、プロジェクトマネージャーとして挑んだ鳥海 強。初めてのチャレンジに対する思いや苦労、さらに裏話などを語ります。

惑星の大気から、太陽系の歴史を解明

―天文衛星「ひさき」とは、どんな衛星なのか、わかりやすく教えてください。

写真:鳥海 強 氏

鳥海:天文衛星の「ひさき」は、正式に言うと惑星分光観測衛星と言います。分光計という専門の観測器を使って火星や木星、金星など惑星観測をミッションとして、開発された衛星です。 従来も地上の望遠鏡を使ったり、打ち上げた衛星から惑星の観測は行われていたのですが、これまではひとつの惑星の観測に長い時間をかけるのが難しい状況でした。その点「ひさき」は火星や金星などの大気の状態を長時間見続け、じっくり観測することができます。この長時間観測により「ひさき」は、太陽風などの影響によって惑星の大気が変化する一瞬を逃さず捉えることができるのです。

―惑星の大気を観測する、目的は何でしょうか。
鳥海:
私は天文学の専門家ではないので、その概要についてお話ししますね。いま、宇宙開発分野における大きなテーマとして、太陽系惑星の生い立ちに対する科学的解明というのがあります。

写真惑星分光観測衛星「ひさき」

その中のひとつとして挙げられるのが、惑星の大気観測です。地球には、生物が生きていくのに適した大気があります。一方、火星は地球と距離的に近いのに、大気中の炭素成分が流失してしまっています。また金星は二酸化炭素を中心とした乾いた大気で覆われていて表面温度は400℃以上に達すると言われています。同じ太陽系の惑星であるにも関わらず、それぞれの惑星でどうして大気の環境が違うのか。太陽の活動がそれぞれの惑星の大気にどのような影響を与えるのか。つまり惑星の大気を調べることは、太陽系の歴史や惑星の生い立ちを知ることにつながります。

―天文衛星「ひさき」の、現在の活動はどんな状況なのでしょうか。

イプシロンロケットの打ち上げ

鳥海:2013年9月14日、イプシロンロケットの打ち上げが成功してから、約2ヵ月後の11月19日に木星の観測に成功しました。なぜ、わかるかといいますと、衛星と地上では絶えず情報のやりとりをしています。羽のような太陽電池パドルを開いたり、軌道上における姿勢制御、さらには分光観測データの送信など、信号のやりとりによって、つねに宇宙における衛星の活動を確認・制御しています。現在も「ひさき」からは順調に、惑星を観測したスペクトル画像が送られてきています。といっても、一般の人たちが見てもよくわかない光の帯のような画像ですが(笑)。でも、この画像が惑星の歴史などをひも解くのに役立つ貴重な情報なのです。
今年になってから「ひさき」のトピックスとして、アメリカのハッブル宇宙望遠鏡との共同の取り組みがありました。NASAが所有し、地上約600kmの軌道上からさまざまな宇宙の姿を高精度に映し出すハッブル望遠鏡は、世界でも有名な望遠鏡です。「ひさき」は、このハッブル宇宙望遠鏡とともに同じ時間を共有しなら、木星を同時観測したというニュースは宇宙開発に携わる私たちにとっても、ワクワクするニュースでしたね。「ひさき」に与えられたミッションの期間は1年間ですが、この期間を過ぎても寿命がつきるまで、地上1,000kmの彼方から、惑星の状況を送り続けてくれるでしょう。

セミオーダースーツのような、衛星づくり

―「ひさき」という名前は、どのように付けられたのですか。

写真:鳥海 強 氏

鳥海:たくさんの人たちの声援を受けながら、天文衛星は鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から、日本の新型ロケット「イプシロン」とともに、宇宙へ向かいました。衛星は打ち上げ後に、それまでの「SPRINT-A」から「ひさき」という愛称に変わりました。
鹿児島県の内之浦は、日本初の人工衛星「おおすみ」をはじめ、「はやぶさ」が宇宙へ旅立った場所でもあり、日本における宇宙開発発祥の地として私たちにとっても特に思い入れの深い土地です。また、古くから日本の宇宙開発の歩みに接してきた地域のみなさんが一体となって応援してくださる土地柄でもあります。そんな内之浦にあるのが「火崎」という岬です。「火崎」は地元でいちばん早く朝日が昇り、漁の安全を祈願する場所でもあるそうです。衛星の安全な航行への願い、さらに内之浦に対する開発者の思いや地元の方々への感謝の気持ちを込めて「ひさき」と名付けたのです。

―従来の衛星と比較して、「ひさき」の衛星開発には、どんな特長がありますか。

鳥海
:ひと言で言うなら、短期間で低コストな小型衛星の開発ですね。大型の衛星づくりは多くのコストがかかります。そのため、さまざまな目的があっても、これまではなかなか打ち上げるのが難しいというハードルがありました。そこで小型化して衛星を早く、低コストでつくることができれば、いろいろな目的に合わせて衛星を飛ばすことが可能です。しかも、衛星を高頻度に打ち上げられる。それによって科学的解明の進歩、人々の暮らしや社会を変える新しい価値創造などが可能になります。「ひさき」のプロジェクトは、そんな衛星開発の新しい未来を切り開くために、JAXA様をはじめパートナー企業、そしてNECが一体となった初の試みだったのです。

太陽電池パドルを取り付ける作業

衛星の小型化や低コスト化を実現するために取り組んだのが、『標準バス』という方式の衛星開発でした。「ひさき」の全体像を見ていただくとお分かりだと思いますが、惑星を観測するためのミッション部と衛星本体であるバス(衛星としての基本機能や主構造)を上下の2段構造にしてあります。ミッション部は、その目的に応じて新たに開発するけれども、バスは標準化する。これが、今回の衛星開発の最大の特長です。これまでの大型衛星のように部品や装置などすべてを1点ものにするのではなく、衛星をまるごと標準化すれば、ミッション部を変えるだけでさまざまな用途に向けた衛星が短期間で、しかも低コストで開発できるようになります。また標準化することで性能面などが均質化され、不測のトラブルなどのリスクが低減できるというメリットも生まれます。
今回のプロジェクトでは、衛星の標準バスだけでなく、衛星開発に必要不可欠な試験装置や組み立ての標準化も進めました。もちろん、すべてを標準化したわけではありません。衛星利用の用途や目的に合わせて、さまざまにカスタマイズできるようにしているのも大きな特長です。今回の衛星開発に対する私たちのこだわりは、「柔軟な標準化」でした。これまでの衛星開発が完全オーダーメイドスーツとしたら、標準バスを採用した今回の衛星は、セミオーダースーツというイメージですかね。この標準バスによって、科学衛星や通信衛星など国内・海外の商用衛星などに対する応用も大きく拡がっていくと考えています。

―衛星開発で他には、どんな特長がありますか。

鳥海
:それは、宇宙衛星のためにつくられた共通の通信規格であるSpaceWireを採用していることです。この共通規格によってネットワーク構成がシンプルになり、設計や構築などの作業が容易になります。さらに、共通仕様のケーブルや汎用的な機器などが利用できるので、コスト削減にも効果を発揮します。また、ネットワークトラブルが減少したり、試験段階などで万一不具合が起きた時でも、すばやい原因究明や対応が可能です。
このSpaceWire採用は、衛星のバス標準化に役立つほか、柔軟性という点でもメリットがあります。衛星の用途や目的に合わせてネットワーク構成や機器を変更したい時でも、共通規格の採用により柔軟に対応することができます。このSpaceWireを衛星全体として、本格的に採用したのは国内初の取り組みです。

プロマネは、オーケストラの指揮者のよう

―「ひさき」のプロジェクトにおいて、NECはどんな役割を果たしたのですか。

写真:鳥海 強 氏

鳥海:JAXA様の指示のもとミッション部以外、衛星システムの設計開発から、製造、組み立てまで、NECはトータルにサポートしています。打ち上げ前には、組み立てた衛星の度重なる試験もNECが中心となって行いました。打ち上げ時には、射場まで運んだ衛星をロケットに乗せ、NECのスタッフが打ち上げの瞬間まで衛星にコマンドを送りながら、JAXA様とともに衛星の様子をモニターでチェックし続けます。打ち上げ後は、地上から指示を送り衛星が正常に機能しているかを確認します。軌道に乗った後の、衛星の運用やコントロールの手順などについても、NECがサポートいたしました。

―「ひさき」のプロジェクトで鳥海さんは、どのような役割を担当したのですか。

鳥海
:プロジェクト全体を統括管理や調整を行うプロジェクトマネージャーが、私の仕事でした。プロジェクトが立ち上がると、初めにスケジュールやコスト、体制など全体計画を立てます。その計画に従って設計、製造、組み立て、運用など、各部門に指示を出します。お客さまから新たな要望などがあればその内容を咀嚼して、スケジュールなどを考慮しながら各部門に伝えます。予期しないトラブルへの対策やリスク回避の対策などもつねに頭に描きながらプロジェクトを進めます。
わかりやすく言うならプロマネというのは、オーケストラの指揮者のようなものです。自分が音を奏でるわけではないのですがオーケストラがいい音を出せるように全体を上手くまとめ、導いていくのが仕事です。

惑星分光観測衛星「ひさき」実物大モック

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