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Innovators 100 Series Vol.22 杉山 昭彦

スマホやオーディオプレイヤーの進化を支える、世界の音響信号処理技術の第一人者

2015年3月31日

Vol.22 CHAPTER2 スマホやオーディオプレイヤーの進化を支える、世界の音響信号処理技術の第一人者 杉山 昭彦NEC 情報・メディアプロセッシング研究所 主席研究員 工学博士:杉山 昭彦

―NECが開発した圧縮技術は、世の中でどのように活用されているのでしょうか。

写真:杉山昭彦 氏

杉山:私たちが開発した「MPEG」の技術は、他社の開発した技術とともにMPEGオーディオ標準を構成して、携帯電話、PC・タブレット、iPodに代表される携帯オーディオプレイヤーのほぼ全機種に利用されています。これまでの全社、全世界での出荷は、PCが10億台以上、スマートフォンを含む携帯電話が数十億台と推定されます。スマートフォンに好きな音楽をたくさん保存して、いつでも、どこでも手軽に楽しめるのも、私たちが開発した「MPEG」の成果なんですよ。

スマートフォンによるビデオ撮影にも「MPEG」は欠かせない技術です。他にも、すべての家庭にあるデジタルテレビの他、ワンセグTV 、DVD、カーナビゲーションシステムなど、身近なあらゆる生活シーンで使われています。テレビ局が映像・音響素材を地理的に離れた地方局に送る際にも、MPEG標準の圧縮技術が活躍しています。装置ばかりでなく、着うたや着うたフルなどのサービスの実現にも、「MPEG」標準が貢献しています。

いつでもどこでも質の高い音楽を自由に楽しめる豊かで快適な生活スタイルに、自分たちの開発した技術が貢献していることは、技術者としてこの上ない喜びです。

―杉山さんの現在の主な仕事の内容を教えてください。

杉山:よりよい音をつくるためのアルゴリズム開発が現在でも重要な仕事ですが、自分でプログラムを書くわけではありません。いまの私の仕事は、“ベンチャー企業の社長”のようなものです。すなわち、開発、営業、知財管理、契約、広報のすべてを担当しています。

30年の経験と知識を活かし、若手技術者にアドバイスをしながら、新たなアルゴリズム開発が効率よく進むように支援します。開発した技術は特許という形で知的財産権を確保して、潜在顧客へ紹介にも行きます。まったくつながりのない顧客であることも多く、海外の学会発表のついでに飛び込み営業のようなこともやります。紹介の結果、評価を経て、相手が技術の導入に乗り気になったら、大まかな契約内容を私自身がまとめて、契約交渉の準備をすることもあります。ときには、実際に契約交渉に参加して、1円単位の価格交渉も行います。従量制価格の場合、1円の違いが大きな差になりますからね。

これらのビジネスのコーディネートを、先頭に立って進めるのが現在の私の主な仕事です。最近は、事業部からそれなりに支援を受けられるようになり、以前よりは技術開発に注力できるようになりました。一方で、論文も書き続けていますよ、短いものを入れれば毎年6~7件。研究とビジネスの両刀使い、学会でのプレゼンスも小さくない。大企業の研究者としては、私はかなりユニークな存在だと思います。

技術者は、真理を追究する姿勢が大切

―NECへの入社理由、入社後の杉山さんの歩みを教えてください。

写真:杉山昭彦 氏

杉山:私の就活当時、「通信」「コンピュータ」「半導体」という3つの領域すべてで、世界で5本の指に入る会社は、NECしかありませんでした。学生時代に信号処理の理論的な研究を行っていて「通信」「半導体」に興味があった私は、NECなら自分がやりたいことができそうだと考えたのです。

入社後に研究所に配属された私の仕事は、工場における生産システムの評価に関する研究でした。どうしても信号処理の仕事に関わりたかった私は、希望する信号処理部門の目をつけた研究者に直訴して、交差実習という機会、すなわち3か月のお試し期間を与えられました。そして、成果はともかく、少なくとも成長の可能性?を認めさせることに成功し、異動したのです。それから約5年、その後ADSLとして花開くことになるデジタル加入者線伝送の研究、開発を行いました。その後、モントリオールへの留学を経て、上司の命令により、オーディオ信号圧縮技術の研究と標準化活動への参加を開始しました。

‘標準化’とは、人々の利便性のために、企業や国の壁を越えて、共通な技術仕様や規格などを作りあげることです。自分たちの技術が採用されることは事業的に極めて重要であり、短期間に他社よりよい技術を開発することが必要です。すなわち他社との競争です。月150時間で3か月連続くらいの残業もありました。平日は7時台後半に出勤、ほぼ終電で帰宅、土曜も出勤、日曜は休日という感じですが、まだ働けるというレベルでもあります。他の会社には負けたくないという目標があれば、この程度なら頑張れるものだと実感しました。頑張っているという意識さえないのかもしれません、競争の当事者ですから。もちろん、前向きの競争意識がないと、精神的にまいってしまうのでしょうが。

その後、雑音や妨害信号を抑圧して、どこでも快適な音質で、携帯電話で通話できるようにするさまざまな技術を開発してきました。一方、携帯電話の普及が飽和した時に社内での需要が頭打ちになることを見越して、社外への技術提供もほぼ単独で細々と行ってきました。これが現在の”EuphoMagic”につながっています。

―オーディオ信号処理の技術者として、必要なスキルとは何ですか。

杉山:オーディオ信号処理に限らず、技術者にとっては真理を追究する姿勢が大事だと思いますね。単なる思いつきではなく、“なぜ”ということを常に考えながら、その理由を自分自身で納得して前へ進むことが、技術者としての成長につながると思います。

何もないところから、ひらめきは生まれません。背景に膨大な技術の経験や知識の蓄積があってこそ、初めてよいアイデアが降りてきます。「イノベーションは思いつきではなく、今あるものの“新しい”組合せから生まれる」とシュンペーターが言っていますが、その言葉にはまったく同感ですね。そのためには、結局、たくさんの経験を積んで「今あるものを知り」、柔軟なかつ論理的な発想で「新しい組合せを生み出す」ことに尽きると思います。

世界が認める価値創造が、仕事のやりがい

―杉山さんにとっての、仕事のやりがいとは何ですか。

写真:杉山昭彦 氏

杉山:先ほども言いましたが、私は技術者であるだけでなくNECの技術を世界に売りに行く営業マンでもあるのです。社名を聞いたら誰でもわかる、世界の多くの有名企業に足を運び、我々が開発した技術に対して「スゴイ!」、「一番だ!」と評価された時は、技術者冥利に尽きますね。

自分たちの論文が有名な学術誌に掲載されたり、開発した技術がさまざまな賞を受賞したり、自分たちの実績が世界から優れた価値として認められることも、もちろん技術者としてとてもうれしく思います。今後も、遠い大きな目標を掲げるのではなく、目の前の目標に対して確実に実績を築くことによって、スゴイ!一番!を重ねていきたいです。

―杉山さんが受賞しているさまざまな賞について教えてください。

杉山:オーディオ信号の圧縮技術開発と標準化で、電子情報通信学会の「業績賞」、「市村産業賞 貢献賞」、「科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)」を受賞しました。市村産業賞や科学技術賞は、産業や日本の科学振興への貢献に加え、人々の生活を豊かに、快適に変えた技術として認められた証です。雑音や妨害信号の抑圧では、電子情報通信学会「論文賞」、また両分野合わせて、同「フェロー称号」も授与されています。

海外では、アメリカに本部を持つ電気・電子工学分野で最大の学会であるIEEE(アイ・トリプル・イー)から、科学技術的に優れた貢献をした会員に贈られるフェロー称号を受賞しています。2014年から2015年のIEEE Signal Processing Society「Distinguished Lecturer」にも選出され、月によっては半分以上を海外講演と国際学会発表に費やしています。顧客訪問も含めて、2014年は地球を5.2周しました。

いい技術はシンプルで、最大効果を発揮

―研究者として、杉山さんのこだわりとは何ですか。

杉山:シンプルなアイデアで最大の効果を出せる技術が、いい技術だと思います。いい技術を生み出すためには本質を考えることが大切です。私の経験の中で自他ともに認めるいい技術は、みんなシンプルです。シンプルは実用的ということに通じます。製品に役立って、初めて本当のよい技術だと思います。

また、技術をビジネスとして成功させるために、イメージ作りが大切です。イメージの大切さは、欧米の経営者などにはよく知られています。私は会社経営はしませんが、自分が開発した技術、そのブランドの象徴として、自分のイメージコントロールは意識して行っています。赤や蛍光ピンク、グリーンなどカラフルな服装が好きなことも、その影響かも知れません。“目立つ”とよく言われますが、最大の賛辞です(笑)。そういったイメージ構築を含む戦略がなければ、平均的な日本人(私のことです!)が短期間で、国際的に自分を売り込むことは、容易ではありません。

1995年に、ASIAN BUSINESSという香港の雑誌で”techno giants”という記事に紹介された時も、今日とそっくりの格好で登場しました。サングラスは、海外からやってきたカメラマンにその場でかけさせられたものですが、気に入りました。その後は、論文誌の著者紹介も、サングラスとカラービーズじゃらじゃらのドレッドヘアーという写真です。世界中で好評ですよ。最近は、2012年に京都で開催した信号処理分野最大の国際会議で、Technical Program Chairとして開会セレモニーで演説した時の紋付袴写真を使うこともあります。学会では今でも、「おお、あの時のサムライか!」と言われます。

顧客を訪ねる時は、NEC社員として訪問するわけですが、常に意識しているのは信頼される”SUGIYAMA”ブランドの確立です。顔の見えない会社より、目の前に見える個人の方が信頼しやすいでしょう。結果として、NECのビジネスに貢献すればよいと考えています。

いろいろと異なった意見があるのは知っていますが、私が開発した技術をどのようなイメージで見せて、相手にどういった印象を与えるか、私自身が決定権を有することは譲れない一線です。

―杉山さんの趣味やオフタイムの過ごし方を教えてください。

写真:杉山昭彦 氏

杉山:趣味のひとつは海外キャンプで、学会誌にも依頼されて6ページの記事を書きました。家族と一緒に無人島に行ってテントを張ったり、日本語が通じない地域に行ったりするのが好きです。予期しないいろいろなトラブルに遭遇して、ドキドキしながらそれを切り抜けた時の達成感がたまらないです、ある意味、窮地を楽しんでいますね。ただ、幼い娘にはストレスが高すぎたようで、アンチグローバル、行き過ぎた日本大好き人間に育ってしまい、その点は失敗だったかもしれません。

それから、30年くらい前から、当時は珍しかったテレマークスキーもやっています。もう20年以上、米国ユタ州がホームゲレンデです。昔は、日本でリフト下を滑っていると、リフトの上からよく声援を受けたものです。注目されることは、やはり気持ちがいいですね。実は下手なことを隠すために、比較対象がないことをやったというのが事の発端だということは、一部の人しか知りません。

結局、私の価値は“人のやらないことをやる”、それに尽きると今では思います。これまでにない研究者をやって見せ、失敗の連続でも追放されることなく、時には小さな成功もあり、若い世代に「なんだ、あんなことなら自分にもできる」と思わせる、それを通じて挑戦者が増え、多様性が増し、何かが変わることに貢献する。それを続けるためには、この国ではとても大きな心理的エネルギーが必要なことが問題なんですけどねぇ。でも、ドン・キホーテ、悪くない、と思う人が増えて欲しいです。

(2015年3月31日)

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