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大気海洋結合モデルCCSM3による温暖化予測

吉田 義勝 ・丸山 康樹 ・高原 浩志

要旨
大気海洋結合モデルCCSM3による温暖化予測計算の概要を紹介します。大気中の温室効果ガス濃度が安定化されたとしても数百年にわたって気温上昇や海面上昇が継続し、海面上昇には濃度変化経路に対する履歴効果が見られるなどの結果が得られています。今後の取り組みにおいては、温暖化の緩和(排出削減)と同時に気候変動への適応という視点もますます重要となります。

キーワード

  • 地球温暖化
  • 大気海洋結合モデル
  • 排出シナリオ
  • 濃度安定化
  • 海面上昇
  • グリーンランド氷床

1. まえがき

電力中央研究所は、文部科学省の「人・自然・地球共生プロジェクト」に参加して、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告のための温暖化予測を実施しました。このプロジェクトは2002年度から5年間実施されたもので、当所は米国大気研究センター(NCAR)などと共同で、種々のシナリオに基づく将来予測を実施し、この成果は、2007年に発表されたIPCC第4次報告に反映されています。これらの数値計算には、地球シミュレータ及びSX-8を使用しました。以下では、予測計算の概要をまとめると同時に、今後、温暖化問題をどのように考えるかという点についても記述します。

2. CCSM3モデル

本研究では、NCARの第3世代大気海洋結合モデルCCSM31)を温暖化予測計算に使用しました。このモデルは、大気、陸面、海氷、海洋の4要素モデルから構成され、各要素内における、例えば、気温(水温)、水蒸気、風速(流速)、塩分などの変化や、要素間におけるこれらフラックスのやり取りを計算するものです。CCSM3では、要素モデル間のフラックス交換はカプラと呼ばれる独立したプログラムが担当し、このカプラと4つの物理的要素モデルから構成されるMPMD型の並列プログラムとなっています(個々の要素及びカプラはSPMD型並列プログラム)。

CCSM3の大気要素モデルはスペクトル法に基づく大気大循環モデルCAM3であり、水平解像度は約150km、鉛直層数は26です。海洋要素モデルはロスアラモス国立研究所で開発された海洋大循環モデルPOPであり、一般直交曲線座標系に基づく定式化が特徴です。格子間隔は約1度、鉛直層数は40であり、北極点における特異性を回避するため、計算格子上の北極点がグリーンランド上に移動されています。陸面と大気、海氷と海洋の水平解像度は同一となります。

計算速度に関しては、例えば、地球シミュレータ上でのスループットは実時間1日当たり16モデル年であり、100モデル年の予測を1週間で実行可能です。この際、個々の要素に対するプロセッサ割り当て数は、大気128、陸面20、海氷4、海洋12、カプラ4となります。

3. 予測実験の設定

温暖化予測の出発点は排出シナリオです。これは、将来の人口や経済成長の想定に基づいて、エネルギー需要や温室効果ガス排出量を予測したものです。IPCC第4次報告の予測計算では、IPCCが2000年に発表した排出シナリオに関する特別報告書2)に基づくSRESと呼ばれるシナリオが採用され、低排出、中排出、高排出を代表する3種のシナリオに基づいて予測計算が行われました。

図1に、実際の予測計算に用いた温室効果ガスの濃度シナリオを示します。21世紀に関しては、前述の通り3種のSRESシナリオ(高排出A2、中排出A1B、低排出B1)を用いています。大気中濃度は、簡易炭素循環モデルを用いてSRESシナリオの排出量から求めたものであり、縦軸はCO2以外の温室効果ガスによる温暖化の効果を加味した等価CO2濃度です。2100年以降については、IPCC第1作業部会からの要請により、温室効果ガス濃度は各シナリオにおける2100年時点の値で固定されると仮定しています。この実験設定は、濃度安定化後の気候変化について調べることが目的です。

以上に加えて、本研究では、独自のオーバーシュートシナリオに基づく予測を行っています。オーバーシュートシナリオでは、温室効果ガス濃度が一度安定化目標より高いレベルまで上昇します。そして、その後排出削減が進む、もしくは排出削減の効果が遅れて現れてくることによって、安定化目標が達成されます。具体的には、図1のように、中排出または高排出のレベルまで上昇した後、100年間ないし200年間で低排出レベルまで低下する、合計3種のシナリオに基づき予測計算を行っています。前述の通り、これらは、温室効果ガスの濃度が低下した場合の気候系の回復、濃度経路の差異に由来する履歴特性に着目することが目的です。

4. 予測結果

図2に、全球平均地上気温の時間変化を示します。まず、21世紀中、温室効果ガス濃度の上昇に伴って地上気温は急速に上昇します。次に、2100年の濃度安定化以降は、温度上昇の速度は低下しますが、上昇自体はゆっくりと継続し、2450年に至っても温度上昇は止まりません。すなわち、温室効果ガスの濃度が安定化されたとしても気温上昇は数百年にわたって継続するということです。これはIPCC第4次報告の将来予測の中でも重要な科学的知見と言えます。一方、オーバーシュートシナリオでは、濃度レベルの低下によって気温は低排出B1シナリオのレベルまで低下し、気温は回復するという結果が得られています。

海面上昇の予測結果を図3に示します。海面上昇は陸氷の融解などによっても生じますが、この図は海水の熱膨張による海面上昇のみを表しています。この結果で重要な点は、海面上昇に対しては濃度安定化の効果が小さいことであり、海面上昇は非常に長い期間継続し、気温の場合以上に深刻です。さらに、オーバーシュートシナリオの効果も海面上昇に対しては限定的であり、海面水位は低排出レベルまで回復しません。これは濃度低下以前の高温期に海洋中に入った熱が原因ですが、海洋の熱的慣性の大きさのため、海面水位の回復には非常に長い時間がかかると考えられます。

北部北大西洋の熱塩循環と呼ばれる海洋循環の変化は、温暖化による危険な影響の代表例の1つであり、温暖化の進行によってこれが停止し、急激かつ大規模な寒冷化を生じることが懸念されています3)。図4に熱塩循環流量の予測結果を示します。21世紀の間、温暖化の進行に伴って流量は徐々に減少します。しかし、大気中濃度が安定化されると、これによって歯止めがかかり、熱塩循環はそれ以上には衰退しません。オーバーシュートシナリオも効果的であり、熱塩循環は濃度レベルの低下によって回復すると予測されます。ただし、この予測結果では、熱塩循環を衰退させる効果を持つ陸氷の融解による海洋への淡水供給が考慮されていない点は注意が必要です。

北極海における海氷の融解も深刻です。CCSM3による予測では、中排出および高排出シナリオの場合、晩夏の北極海における海氷の大半が21世紀半ばまでに消失してしまいます。高排出シナリオの高い濃度レベルが長期間維持された場合、北極海では冬季の海氷ですら大幅に減少するという予測結果も得られています。

5. 科学から見た解決への途

温室効果ガスの濃度増加を抑制し、この濃度を安定化することができたとしても、温暖化の防止には十分とはいえません。長期間継続する気温上昇と海面上昇については既に述べた通りですが、これに加えて、グリーンランド氷床消滅の危険性も無視できません。これが完全に消滅した場合には海面水位が約7m上昇すると考えられますが、例えば、グリーンランドのイルリサット氷河では、力学的な氷の流出速度が過去10年間で2倍に増加したという観測結果もあり、海面上昇への寄与について不確実性は大きいといえます。

温暖化防止のためには、大気中の温室効果ガス濃度を低下させることが必要です。地球では森林などの陸域生態系と海洋がCO2を吸収しており、大気中濃度は、吸収量と排出量のバランスで決まります。したがって、排出量を削減し、吸収量以下にすることができれば、大気中濃度は低下します。以下、低排出B1シナリオをベースに、世界全体でゼロ排出を達成し、大気中濃度を低下させることができると想定した検討例を紹介します。

まず基準ケースとして2050年で排出量を半減する場合を考えます。これは2035年頃にCO2濃度が450ppmで安定化される場合に相当します(図5参照。等価CO2濃度では約550ppm)。次に、低排出B1シナリオに基づき、2100年以降も削減を継続するというゼロ排出経路を考えます。B1シナリオの場合、排出量は2040年にピークとなり、21世紀後半は減少傾向が続きます。この排出経路を2100年時点の傾きのまま線形外挿すると、2150年頃に排出量ゼロの状態に達します。このゼロ排出経路に対して、排出量から大気中濃度を求めた結果が図5の「B1+ゼロ排出」の線となります。このB1+ゼロ排出シナリオではCO2濃度は450ppm以上に上昇しますが、2100年以降はゆっくり減少し、2200年頃に450ppmまで低下します。

図6は、これらの濃度シナリオに基づき、大気海洋結合モデルによる予測を行った結果であり、グリーンランドの平均気温の予測結果を示したものです。グリーンランド氷床融解の閾値4)も併記しています。融解閾値はそれ自体が幅を持っていますが、2050年半減シナリオの結果は、この閾値の下限以下に保持されていることが分かります。一方、B1+ゼロ排出の場合、グリーンランドの気温は融解閾値の下限を一度超過してしまいますが、2200年までには再度閾値以下のレベルに回復します。グリーンランド氷床の完全な融解には数千年を要するため、100年程度の閾値超過であれば、部分的な融解に留まる可能性があります。

6. むすび

前章で示した通り、B1+ゼロ排出シナリオではグリーンランド氷床の完全融解を回避できる可能性があります。しかし、B1+ゼロ排出シナリオは、2050年半減シナリオよりも気温の高い状態が長期間続くことは避けられないため、気候変化への適応が重要となります。温暖化の緩和(排出削減)に多くのコストをかければ将来の適応コストは小さくなり、逆に、緩和コストが小さい場合には、将来の適応コストは大きくなります。緩和と適応のベストバランスは今後の温暖化問題においてますます重要な視点となっていきます。

参考文献

  1. Collins et al.; “The Community Climate System Model version 3 (CCSM3)”, J. Climate, Vol. 19, pp. 2122-2143, 2006.
  2. Nakicenovic et al. (eds.);“Emissions Scenarios 2000,” Cambridge University Press, 2000.
  3. Stocker et al.; “Influence of CO2 emission rate on the stability of the thermohaline circulation, ” Nature, Vol. 388, pp. 862-865, 1997.
  4. Gregory et al.;“Ice-sheet contributions to future sea-level change,” Phil. Trans. R. Soc. A, Vol. 364, pp.1709-1731, 2006.

執筆者プロフィール

吉田 義勝
財団法人電力中央研究所
環境科学研究所
上席研究員

丸山 康樹
財団法人電力中央研究所
環境科学研究所
首席研究員

高原 浩志
第一コンピュータ事業本部
HPC販売推進本部
統括部長