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第3話 「イオンエンジンが起こした奇跡」イオンエンジン開発担当 NEC 堀内 康男

ありえないことが起きている

取材・執筆文 松浦 晋也

  • Q:イオンエンジン一筋でやってきたということですが、どういう経歴で今に至ったのでしょうか。
  • 堀内:

    大学院の修士課程を栗木恭一先生の研究室ですごしました。そこで論文を書いたのです。「はやぶさ」に搭載されたマイクロ波放電方式イオンエンジンの研究が始まったところで、自分が最初のエンジンの試作と試験に参加しました。私が研究室入りしたとき、國中先生(JAXA/ISAS宇宙輸送工学系教授)は博士課程の3年でした。4年先輩ですね。ですから、今でも個人的には「國中先生」というより「國中さん」というほうがしっくりします。

  • Q:そのまま今度はNEC側でイオンエンジンに関わることになったんですね。
  • 堀内:そうです。卒業時にどこに就職するかを考え、「イオンエンジンの仕事を続けたい」といったら、NECから声がかかって就職が決まりました。だから、最近の学生さんには大変申し訳ないのですが、私は就職活動をしたことがありません(笑)。
    1993年頃から、「はやぶさ」計画が動き出してそのままイオンエンジンを作り続け、2003年の打ち上げにこぎつけました。

写真「はやぶさ」に搭載された4台のイオンエンジン

  • Q:その丹精したイオンエンジンを搭載した「はやぶさ」がいよいよ帰ってきます。帰還を控えて今のお気持ちを。
  • 堀内:「ありえないことが起きている」という気分です。理屈で考えれば無理としかいいようのないことが、実際に何度も起きています。本当に「はやぶさ」は運の良い探査機だと思います。
    私たちはできることはすべてやりました。運用室には「飛不動」というお不動様のお札が貼ってありますけれど、これは國中先生と私が「もう手は尽くした。最後に神頼みをしよう」と相談して、國中先生が見つけた「飛」という名前のお不動様に私が行って、お札をもらってきたんです。通信途絶の最中の2006年の年始には、川口先生も飛不動にお参りに行ったそうです。(笑えない笑い!)
  • Q:ありえないこと、ですか。
  • 堀内:例えば2005年11月に2回目のイトカワへのタッチダウンを行った後、化学推進スラスターが燃料漏れで全部使えなくなりました。その状態で姿勢制御を行うということになって、イオンエンジンの燃料であるキセノンを中和器からガスを噴射して、姿勢を制御しました。そんなことは事前には全然考えていなかった使い方です。
    そもそも、正常な運転状態では、中和器から噴くガスで推力が発生しちゃいけないんです。だから発生する推力もたったマイクロニュートン単位ですし、ロケットの性能指標である比推力もお話にならないぐらい小さいのです。ところが、それで姿勢をたて直してしまった。こんな使い方は、打ち上げ前はおろか、このトラブルに直面するまで考えもしませんでした。

イメージ図イトカワへタッチダウンする「はやぶさ」

  • Q:あれは確かにすごかったですね。
  • 堀内:通信途絶から回復した2006年春のゴールデンウィークのことです。この時期、「はやぶさ」はくるくるとコマのように回って姿勢を安定させていました。ところが、このままでは姿勢安定が出来なくなるので、スピン速度を上げる必要が出てきました。もちろん化学推進は使えませんし、中和器からのガス噴射だと効率が悪くて推進剤がどんどん減っていってしまいます。
    「イオンエンジンを使っては」という声があがりました、私は躊躇しました。満身創痍の「はやぶさ」で高電圧を使うイオンエンジンを起動したら何が起こるか分かりません。あの時、「はやぶさ」との通信は往復40分の時差がありました。トラブルが起きてもすぐには対処できないんです。メーカーの立場としては機器をひとつひとつチェックして、慎重に動作を確認しつつ立ち上げをしたかったんです。でも、それでは間に合わない状況でした。
    開発から運用までに係わった者として「もう「はやぶさ」は一度は死んだ探査機だ」と覚悟を決めてイオンエンジン再起動のコマンドを打ちました。そうしたらエンジンは何事もなかったように正常に動き出し、トラブルも起きなかったんです。

    2009年11月の,イオンエンジン故障とそれに続く2基のエンジンのイオン発生器と中和器を組み合わせて1基のエンジンとして運転した時もそうです。エンジン2基を連結してのクロス運転は、本質的に地上での試験ができません。試験をやっていないことをいきなり宇宙でやるとトラブルを引き起こすことにもなりかねません。これ以上のトラブルが起きたら、本当にお終いになってしまいます。しかし、その時はもうその他の方法が残っていませんでした。
    この時は國中さん(この時は先生としてより頼もしいエンジンの大先輩にみえました)が、「やる」と言って、エンジンのクロス運転を実施しました。すると、推力が発生し、「はやぶさ」は地球に向けての航行を続けることができたんです。

NEC宇宙システム事業部 宇宙システム部マネージャー 萩野 慎二

NEC
宇宙事業開発戦略室
シニアマネージャー 堀内 康男

1990年入社。
入社以来イオンエンジンの開発をおこない、2009年より宇宙事業開発戦略室。現在は、小型衛星事業の推進。

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